例年通り、2022年の倒産動向を振り返り、2022年の倒産について予測する。
【2022年の倒産件数(全企業)】
倒産件数 | 6,428社 | 〔2022年:6,030社〕 | <前年比1.06倍> |
負債総額 | 2兆3,314億円 ※ | 〔2022年:1兆1,507億円〕 | <前年比2.02倍> |
(※ 負債総額の半分〔約1兆1330億円〕は、マレリホールディングスの分。)
2022年の倒産件数は、昨年と同様に少ない件数ではあるが、約400社増加した。
コロナ政策の恩恵を存分に受けた2021年が、倒産件数の“底”と考えられ、現在の社会情勢から「2023年の倒産件数は増える」と見る方が自然である。
≪2013年~2022年倒産件数(全企業と上場企業)の棒グラフ≫
https://alox.jp/dcms_media/other/230125_kensuu.pdf
【2022年の倒産件数(上場企業)】
倒産件数 | 1社 | 〔2022年:0社〕 | <前年比 計算不可> |
2022年の上場企業の倒産は、東証スタンダード上場のバイオベンチャー「テラ」のみである。
倒産のカテゴリーには含まれないが、ジェネリックメーカーの日医工が事業再生ADRを申請した。
直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。
≪上場企業の倒産件数と日経平均株価推移の棒グラフ≫
https://alox.jp/dcms_media/other/230125_stockkensuu.pdf
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の折れ線グラフ)≫
https://alox.jp/dcms_media/other/230125_relation.pdf
【今年は?】
上場企業、未上場ともに、倒産件数は急増する。
【重大イベントカレンダー】
今年の政治経済にインパクトがあるイベントを列挙した。
このイベントの情報等を踏まえて、倒産件数に影響のある要因を〔ネガティブ〕と〔ポジティブ〕に分けて、記載する。
〔ネガティブ要因〕
(1)日本の国力低下
種々の要因はあるが、円安の最たる理由は日本経済の弱体化である。
「日本円を買いたい」という需要が減っていることに他ならない。
イギリスで、岸田首相が「Invest in Kishida」と訴えたが、マーケットは「Sell Japan」で返答した。
「少子高齢化=日本経済の弱体化」ではないが、10年以上前から現在の人口減少は明確に予見されており、日本政府が対策を怠った結果、人口オーナス※に陥った。
可及的速やかに内容の伴った「異次元の少子化対策実施」が必要なのは言うまでもなく、世界の企業・投資家が「Buy Japan」とならなければ、景気の浮揚は期待できない。
そういった意味では、4月1日に発足する「こども家庭庁」は、日本の命運を握っている。
器だけの各省庁の中継器に陥らないように、国民の監視が必要だ。
※【人口オーナス】とは
少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の老年人口の合計)の比率が上昇することで社会保障費などがかさみ、経済成長を阻害すること。
逆に生産年齢人口の比率が相対的に上昇することを人口ボーナスという。
『参照元:野村証券 人口オーナス
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/si/A02280.html』
(2)第3次世界大戦(ウクライナ紛争)
2021年に民主主義国家は世界に89ヵ国ある。
一方、中国、ロシアを筆頭とする権威主義国は90ヵ国にも上り、民主主義国家よりも多い。
『参照元:週刊東洋経済『2023年大予測』P49 「パンデミック後の世界で守るべきは民主主義である」』
ウクライナ紛争は、ロシアとウクライナの当事者だけではなく、民主主義国家対権威主義国家の様相を呈してきており、第3次世界大戦と表現しても違和感がない。
ウクライナには、西側諸国から戦車をはじめとして武器が供与され続け続け、戦闘員には多くの外国人傭兵がいる。
つまり、充分な兵力と武器があり、長期戦にも対応できるだろう。
この戦争の影響によって、世界中の石油、ガス、電気などのエネルギー価格が高騰し、世界経済の景気を冷やす一因となっていることは、ご承知の通りである。
(3)化石燃料(天然ガス、石油、石炭)の不足
電力会社は、空前の大赤字となることがほぼ確実の情勢だ。
昨年11月の電子新聞によると大手電力会社10社の内、9社が中間決算で経常赤字という。
『参照元:電気新聞 大手電力10社の中間決算、9社が経常赤字(2022年11月24日)
https://www.denkishimbun.com/sp/240519』
燃料価格高騰が業績に直結しており、各社は経済産業省に値上げの申請を行った。
ロシアの天然ガス依存の高いヨーロッパ(とりわけドイツ)は、節ガスを進めつつ、停止中の石炭火力発電所の再稼働を決めたが、すでに市民の生活や企業活動に影響が出ている。
エネルギー価格の高騰がドイツ経済の景気を後退させており、その負の影響はヨーロッパ全体に広がるに違いない。
こういう混乱期に乗じて、ポピュリズムや国粋主義者による自国第一主義者が政権を握り、混乱に拍車をかける。
ヨーロッパから始まるであろう景気後退の影響を見極める必要がある。
(4)過剰債務企業の増加
帝国データバンクの調査によれば、新型コロナ関連融資の返済に不安を感じている企業が12.2%※(約1456社)になったという。
※ アンケート有効回答企業は1万1935社。
『参照元:帝国データバンク 新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2022年8月)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p220909.html』
少し乱暴な計算だが、日本政策金融公庫における新型コロナ関連融資の件数は、令和2年9月末時点で66万5,150件であり、それを帝国データバンクのアンケートにおける比率12.2%(本来は件数ではなく、社数である)を適用すると約8万1,148件が貸倒リスクがあると計算できる。
全金融機関の融資件数に当てはめれば、何十万件もの貸倒リスクが潜在的に存在していることは、想像に難くない。
特に、生活様式の変化によって、コロナ前の需要が回復しない業界は、融資の返済が難しく、倒産・廃業・売却の道を選ぶ企業が出現するだろう。
すでに、居酒屋等の夜間需要に依存する大手企業の一部は、業態を変更して、昼食に活路を見出している。
一方、中小企業には、事業転換する財務余力は乏しく、倒産・廃業・売却の道を選ぶ企業が発生することは間違いない。
(5)その他
1.中国の動向
ゼロコロナ政策による経済失速、台湾有事リスク、不動産バブルの崩壊、ウクライナ紛争に対する関わり方など、中国の一挙手一投足が世界経済及び政治へ甚大な影響を与えるため、その動向には引き続き、注意を払わなければならない。
2.GAFAMの失速
コロナ禍の巣ごもり特需と超低金利の恩恵を受けてきたITのマンモス企業は、その反動による景気悪化に備えた防御的措置として、リストラの真っ最中である。
GAFAMの内、Appleを除く4社は大規模な人員整理を実施する。
Google 1万2,000人
Amazon 1万8,000人
Meta(旧facebook) 1万1,000人
Microsoft 1万人
日本は、従業員が手厚く保護されているため、大規模な人員整理がされることは極めて稀だが、巣ごもり特需が永続的に続くと“錯覚”した企業は、固定費の支払いに苦労するに違いない。
3.信用が低下した暗号資産、SDGs、EV
暗号資産は、アメリカのFTXの倒産により、信頼性が急落した。
また、アメリカの金利上昇により、「暗号資産の保有 < 圧倒的にドルの保有」と認識する人が多いのは致し方ない。
SDGsに取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないビジネスをSDGsウォッシュ(グリーンウォッシュとも言う)と言い、似非SDGs企業も存在するため注意が必要である。
電気代の高騰に伴い「EV(電気自動車)が、本当にエコなのか?」という疑問とともに、ハイブリッドカーが見直されている。
EUや中国は、エネルギー価格が上昇しても、“EV一本足打法”のため、引くに引けない状況にある。
〔ポジティブ!?要因〕
(1)インドの隆盛
2023年、インドは中国を抜き、人口で世界第1位になる見込みである。
人口ボーナスを享受し、数年以内には、国内総生産(GDP)で日本を抜き3位となることが確実視されている。
また、新しい有望な企業も続々と生まれており、ユニコーン企業の数は53社(全世界で3位)も存在する(日本は6社で15位)。
『参照元:ユニコーン企業とは?国内・海外の企業を評価額ランキング形式で紹介!
https://fisco.jp/media/unicorn-company-about/』
インドは、オフショア開発やアウトソーシングの委託先から、革新的なシステムやサービスを提供する国へ脱皮した。
日本からの視点では、インドで開発されたシステムやサービスを日本向けにローカライズする企業が恩恵を受けることになるはずだ。
(2)防衛費の増加
一部には、アメリカの要請に従ったという話もあるが、防衛費が増額されることになりそうだ。
ウクライナ紛争、台湾有事、北朝鮮のミサイルなど、軍事的な危機が跋扈しており、軍事費の増額を行いやすい社会情勢といえ、それに反対することも難しい(もちろん、防衛費増額に紐づく増税そのものに反対することは容易ではある)。
しばらく、軍需産業は安定した収益を計上できるだろう。
(3)コロナ禍の反動
2023年5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられる。
2020年1月頃に端を発した新型コロナウイルスとの闘いは、これで一旦の区切りとなる。
コロナ禍で抑えられた欲求は“リベンジ消費”として表出するかもしれないが、突風のようなもので一時的のものだろう。
ある程度のインバウンド復活は期待できるが、中国人旅行者の増加はまだ先の話であり、その恩恵は少ない。
(4)その他
1.NISAの拡充
岸田政権の掲げる「資産所得倍増プラン」の目玉として、NISAが恒久的なシステムとして拡充される見込みである。
要は、何十年と言われ続けている「貯蓄から投資へ」という話であり、それをNISAの拡充によってテコ入れするという話である。
ただ、日本は大前研一氏の言う「低欲望社会」のため、もっと抜本的な施策が必要と思われるが、証券会社にはチャンス到来と言えそうだ。
2.自動運転「レベル4」のスタート
自動運転の「レベル4」とは、走行ルートなど特定の条件下で、運転を完全に自動化する状態を示す。
このレベル4の運行許可制度を盛り込んだ改正道路交通法が2023年4月に施行する。
東京の「新交通ゆりかもめ」は無人で走行しているが、遠隔で監視されている。
同様に「レベル4」の場合、車内は無人でも、遠隔での監視されており、過疎地のバス運行、配送などでの活用が期待される。
運転手不足を解決するソリューションと言えそうだ。
【総括】
アメリカではインフレ抑制のために、金利の利上げが実施された。
その結果、企業の資金調達コストが上昇、設備投資の減少、業績悪化の負のスパイラルにある。
ヨーロッパは、エネルギーコストの上昇が企業業績のみならず、国民の生活にもマイナスの影響も与えている。
日本でも同様に物価のみが上昇し、コロナ融資の返済に窮する企業も出てきた。
上記及びネガティブ、ポジティブの要因や過去からの推移から、今年は以下の倒産件数を予想する。
<倒産件数>
〔上 場〕 → 3(±1)
〔全企業〕 → 7,500(±300)
※ 参照資料
・東京商工リサーチ 『2022年(令和4年)の全国企業倒産6,428件』
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2022_2nd.html
『2022年の「休廃業・解散」4.9万件、2年ぶり増加 コロナ支援縮小のなか、
黒字率が過去最低の54% ~ 2022年「休廃業・解散企業」動向調査 ~』
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20230116_01.html
・帝国データバンク 『全国企業倒産集計2022年報』
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/22nen.html
・週刊ダイヤモンド 『2023総予測』
・週刊東洋経済 『2023年大予測』
・日経ビジネス 『徹底予測2023』
・週刊エコノミスト 『世界経済総予測2023』
・週刊エコノミスト 『日本経済総予測2023』
・日経トレンディ 『2023-2030大予測』
・渡邊哲也 『世界と日本経済大予測 2034-24』
・大前研一 『日本の論点 2023~24』
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