・アナリストの役割は変質している。セクターアナリストよりもESGアナリストの方が重要性を増している。セルサイドアナリストよりも、実際に投資を行う機関投資家においてチームを組むバイサイドアナリストの方が実践的である。
・筆者は、かつてセルサイドアナリストの役割を、「アナリスト10か条」としてまとめたことがある。その中で、セクターや企業を分析し、正確な業績予想をもとに、株価評価を行うのが第1フェーズであった。
・第2フェーズは、企業や投資家と活発に対話して、分析の質を上げていく。そして、第3フェーズでは、企業には、財務戦略や経営戦略について経営トップと真剣に議論し、何らかの提言をしていくことが目標であった。機関投資家に対しては、ポートフォリオの見直しを通して、具体的なパフォーマンスに貢献することが重要であった。
・この第3フェーズは、かなり高いレベルの目標なので、容易にできるものではない。しかし、ここを提言できるアナリストこそ、本来のあるべき姿であろう。企業や機関投資家がアナリストに求めるものは、今も変わっていない。実は、社外取締役に求められる役割も、同じようなレベルにあるのではないか、と常々感じている。
・早大の宮島教授は日経の経済教室(9月7日)の中で、コーポレートガバナンスのあり方について、3つの提言を行っている。それを解釈しながら検討してみたい。
・日本はもともとステークホルダー重視で、株主第一ではなかった。しかし、企業収益の相対的低迷の中で、もっと企業価値を上げる必要があった。そこで、コーポレートガバナンス改革がスタートした。しかし、その効果は学術的にみて明示的に確認されておらず、まだ道半ばである。
・企業価値イコール株主価値ではないが、資本効率の向上を図ることは、ステークホルダー重視の中で強調されてよい、と宮島教授はみている。但し、新しいステークホルダーのあり方を踏まえていく必要がある。
・ESGでいえば、地球的な環境保全、社会的不平等や包摂への対応をより強化していく必要がある。特に、正規雇用者中心の日本型モデルでは不十分であり、社会的価値の将来世代への影響を内部化していくべしと指摘する。
・そのために、ガバナンス改革に当たっては、第1に、取締役会の監督強化が引き続き重要である。しかし、独立社外取締役が、投資やリスクテイクに貢献する経路はあいまいであり、効果も不明確である。よって、他の政策的手段で補完する必要があるという。
・第2は、株主と他のステークホルダーとの利害が対立することは常にありうるので、投資家やアクティビストの提案に対して、独立社外取締役はその裁定者としての役割を果たす必要がある。
・第3は、社会のサステナビリティに関わる戦略策定やESG投資への決定に際して、社外取締役はより強く関与していく必要がある。中でも、環境、自然資本、循環型経済がよくわかった専門家が取締役会に参画していく必要があると強調する。
・これを実現する上で、アクティビスト、ブロック保有者(創業者ファミリー、企業の株式保有)、年金などの長期機関投資家が、それぞれ役割を果たすべきと提言した。ここで最も大事なことは、株主の視点を踏まえた専門家としての力量が問われるということであろう。
・もう1つ、日経の小平編集委員がコロンビア大学のジェフリー・ゴードン教授にインタビューしたグローバルオピニオン(日経9月9日)の内容が注目される。コーポレートガバナンスに、もっと戦略の重みを持ち込むべしという主張である。
・社外取締役に独立性の高い人材を求め、経営の執行を監視、監督するモニタリングボードで海外は先行し、日本でも今その実効性を上げようとしている。
・ところが、モニタリングするといっても、大企業の不祥事はいろいろ起こっており、実際には十分機能していない。無理なリスクをとって行き詰ってしまうケースを見ると、十分な守りのガバナンスも果たせていない。一方で、リスクを適切に評価できないようでは、攻めのガバナンスも機能しない。
・ビジネスの経験や専門性が十分でなく、しかも取締役会に求められるニーズに合っていないならば、独立社外取締役をいくら増やしても役に立たない。それよりは、アクティビストの方が有用である、とゴードン教授は主張する。
・アクティビストも、短期的利益志向、中長期的価値拡大志向などさまざまであるが、企業を分析して、戦略を提案するという意味ではいずれも先鋭的である。
・これを別の角度からみると、企業の取締役会に、新しい価値創造を担う戦略担当の社外取締役を入れて、その企業に合致した戦略を執行サイドと共に練っていく。取締役会が中長期の戦略を議論して決定する場にするには、このような戦略担当の社外取締役が必要である。こうした取締役会を「ボード3.0」と名付けている。
・アナリストや投資家の役割として、中長期の企業価値向上に役立つ経営戦略や財務戦略の提言、あるいはサステナビリティやESGへの助言を真剣に行うには、かなりの力量が求められる。このレベルにある社外取締役が会社を変革に結び付ける、という認識を持って、日本企業のガバナンス改革を評価していきたい。
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