コロナ禍進行の中での株価鋭角リバウンド
コロナ感染が止まらない。しかし、株価は大底から大きくリバウンドしている。米国株式、NYダウは3週間で高値から38%の史上最速の暴落を記録したが、その後これまた最速の2週間で32%のリバウンドを見せ、早くも下落幅の半分を取り戻した。半値戻しは全値戻し、との市場格言が当てはまるとすれば、市場の本格回復が視野に入ってきた、ということになる。この戻りは本物なのか、それとも偽りで、再度大きく崩れる可能性があるのだろうか。
もちろん、それは新型コロナ感染の制圧次第である。感染が止まらない限り都市封鎖などの経済遮断は続き、深刻な景気の落ち込みは続く。しかし、感染が止まり経済が正常化すれば、急速に景気は立ち直り、株価も上昇するだろう。私見を述べれば、株価は最悪期を過ぎたのではないか、ジグザグを繰り返しつつも、値上がりトレンドに入っていると思う。
その第一の理由は、今回の危機は天災であり、経済と金融は健全だからである。1929年の大恐慌や、2009年リーマンショックでは、過剰なリスクテイク、経済のバブル化、デフレ化等の病が深刻で、株暴落の後、銀行の破綻、貸し渋り・貸し倒れなどの金融収縮、不良債権、不良資産の処理等の長く辛い行程が続いた。今回は銀行も家計も企業も財務は健全で、経済はジャンプスタートできる態勢にある。
The buck stops here,米国の腹の座った政策が下方リスクを消し去った
第二に、政策の支援、安心感がある。過去の危機は全て、インフレ抑制、バブル抑制などを目的とした金融引き締めが起点となった。政策が経済と市場の敵であった。しかし、今回は全く逆、主要国の政府と中央銀行は、できることは何でもやるとして、空前の金融緩和と財政拡大政策を打ち出している。
今や感染者数が73万人、死者3.9万人と感染爆発の中心地になっている米国で株価が堅調なのは、ひとえにこの安心感による。米国政府はいち早く大人1200ドル、子供500ドルの直接給付、失業手当の倍増を含む、2兆ドル(GDP比10%)の財政パッケージを決めた。また、中央銀行は企業への事実上の直接融資を軸とする2.3兆ドルの資金供給を決めた。加えて、2兆ドル以上のインフラ投資を計画している。コロナ収束が遅れれば、この安全網を更に追加する構えである。コロナがどれほど荒れ狂っても、経済と金融への影響はほぼ遮断できる構えができ上がった。
今のところ、外出の禁止、営業の停止などにより、人的接触を伴うビジネス、空運、レストラン、エンターテイメントなどの需要は蒸発し、キャッシュフローは完全に止まっている。失業の増加も著しい。米国の新規失業保険申請件数は4週間で2200万人に達し、職を失った人は総雇用の8分の1に達している。これをベースに失業率を計算すれば13%と大恐慌時の25%に次ぐ記録となる。
これらの困難は全て天災のせいであり、企業や個人の間違いや怠慢のせいではない。真面目に努力をしている個人や企業が破綻していくことを座視することは、政治の責任放棄である。「The buck stops here(ここですべてを受け止める)」はトルーマン大統領の有名な言葉だが、今の米国指導部はまさしくその覚悟で一致しているのである。
日本も米国の覚悟に追随へ
日本でも108兆円の大型パッケージが打ち出されたが、新規財政支出(いわゆる真水)は16.8兆円とわずかであり、節約ぶりが顕著であった。緊急事態宣言が遅れたのも、財政制約から休業補償ができないためと見られている。
これでは本末転倒であるが、節約政策は国民世論に拒絶される情勢である。安倍政権が当初打ち出した、一家庭当たり30万円、ただし被害家庭や低所得者に限定という個人給付は、国民と野党、与党内からの大きな反発により棚上げとなり、全国民一人当たり一律10万円の支給となった。前者の予算規模は3兆円、後者の予算規模は12兆円、財務省が主導したケチケチ路線は国民の反発で砕け散ったのである。
安倍首相はここで覚悟を決めたはずである。
今後のニュースフローは圧倒的にポジティブに
ここからのニュースフローは、ポジティブなものの連続になると予想される。
1. 感染者、死亡者数がピークアウトすることはほぼ確かだろう。武漢の急速な終息の後をイタリア、スペインが追い、米国でも6月頃には、事態は大きく改善しているだろう。
2. 都市封鎖の用心深い解除の後、破局的に落ち込んだ経済指標の改善が続く。
3.新型コロナ感染症治療薬とワクチンの開発が世界各地で成果を見せてくる。
それらのすべてが、早ければ年内、遅くとも2年以内での、コロナ完全終息に結びつくはずである。
じゃぶじゃぶの金融緩和と財政出動により、企業破綻と失業は救済されると考えてよい。パンデミックが収束した時には大きな需要と過剰流動性が想定される。その時の世界経済V字回復(多分)を織り込む動きは、意外と早いかもしれない。
(2020年4月20日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン250号」を転載)
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