「モノを広める業界のFAST COMPANYへ」成長戦略を聞く―
西江肇司氏
ベクトル 代表取締役(CEO)
ベクトル <6058> は、総合PR会社として8期連続で過去最高売上、最高益を達成しており、年間約2万6000社の安定的な顧客基盤を確立している。また、映像製作から動画広告配信までサービスを提供する子会社を複数所有しており、急成長する動画広告市場および顧客ニーズに対応し、今後も高い利益成長を持続する見通しだ。新たな成長戦略について、西江肇司代表取締役(CEO)に聞いた。
――時流にあった情報の伝達インフラを駆使し、市場規模6兆円の広告業界に挑む
当社はPR会社として現在国内トップクラスの企業となり、PRの市場規模は1000億円程度に拡大しています。次に新たに大きなビジネス戦略をプラスする感じで狙ったのが、国内市場規模約6兆円の広告業界です。その戦略が「モノを広める業界」の「FAST COMPANY」を目指すというもので、これで6兆円のマーケットに挑むという考え方です。
例えば、大手広告代理店を高級フランス料理店とすると、当社が目指すのはファストフード店といったところで、モノを広める業界の「ユニクロ」や「ZARA」のポジションを狙っています。なぜ、それが出来るようになったかというと、昔はいわゆる広告が中心だったモノの広め方が、今は変わったからです。具体的には、モノが広まる一番の要素はニュースになってきたことです。また、情報の取得経路や方法も大きく変わりました。ほとんどの人達はスマートフォンを見ていて、そこに動画が配信され、インフルエンサーが登場し、ソーシャルメディアが存在することで、ほとんどの情報伝達は網羅されているのが実情です。
――コスト10分の1にして情報を猛スピードで広める
こうしてモノの広め方が大きく変化するなかで、当社はモノを広めるための要素やノウハウを蓄積してきました。私はローリングストーンズのファンなのですが、ストーンズが全世界で何かイベントをするときに、昔は広告を使っていたものが、今は欧州ツアー開催の情報などを、雑誌やテレビの広告に比べて極めて情報量の多い動画ニュースで知ることになります。また、テクノロジーによってローリングストーンズのファン限定で情報配信するターゲティングも可能です。これによって、モノの広め方が以前に比べ猛スピードで、なおかつコスト10分の1以下で可能なことに気づきました。そして当社はこの新しいモノの広め方であるニュース、動画などほぼ全てのインフラを所有しています。
話は少し変わりますが、中国ではフィンテックサービスが進んでおります。テクノロジーが強烈に発達し、銀行やクレジットカードが減少し、ATMや個人の財布もなくなりつつあります。そして利用者が何をやっているかといえば、QRコードを見せて決済しているだけです。つまり、テクノロジーが強烈に発達すると、行動が極めてシンプルになったわけです。これまでの広告業界は古い体質のなかで、例えば1~5億円のコストでモノを広めてきたのですが、当社のビジネスモデルは、従来のマス媒体を通さずに、発達したテクノロジーを活用し、シンプルにすることで、「ゼロ円から5000万円くらいのコストで必須なインフラを備えたプラットホームカンパニー」を目指しております。
――見たい人に見せたいコンテンツを届けるビデオリリース事業
さらに、ニュース動画や決算発表動画を、動画配信に特化した独自のアドネットワークによりターゲットに直接配信する「NewsTV」は、3年での配信動画実績が1500~1600本と急成長し、今期も1000本程度増加する見込みです。また、有名タレント・モデルのキャスティング以外にも、国内最大級のインフルエンサー・プラットフォームをグループで保有し、独自のサービス提供をしております。例えば、ある化粧品メーカーがメディアを100媒体呼んで新製品の記者発表会を開いた場合に、実際にターゲットとなる30~40歳代の女性数百万人に限定して直接ビデオリリースを配信することで、1週間程度で商品自体が良ければ実際に売り切れるケースもありました。
――タレントを活用したデジタル広告をスマホメディアに載せる
ここからの新たな戦略は三つあります。1つ目は、タレントを使うけれどもテレビCMはあまりやらないモデルのサービス強化です。例えば最近流行っている企業プロモーション動画の「識学」や、企業の人事評価制度の導入や運用の支援事業を手掛ける「あしたのチーム」などでは、タレントは使うけれどもテレビCMはやらずにインターネットやタクシー広告に特化しています。このサービスは順調に伸びており、年内に80件程度へのサービス提供を予定しており、近い将来には1000件を目指せると考えています。1~20億円程度利益の出ている企業は、テレビCMは採算があわず、以前は雑誌や新聞に広告を出していましたが、広告効果が薄れて今ではネット広告を出すぐらいしか方法がありません。そこで、タレントは登場させるけれどもデジタル広告にすることで、5000万円以下のコストで済みます。インターネット広告でタレントが表示されているのと、いないのとではクリックされる率が5倍違うという検証結果もありました。2つ目は、メディア領域への進出です。6兆円の広告市場のなかでメディアの占める比率が7~8割あることを考慮して、スマートフォンのメディアを中心に積極的に買収をし、1年間の総PVで約18億PVのメディア群を形成いたしました。
第3番目が、サービスや業務のデジタル化です。来春には現在オフラインでサービス提供しているさまざまなPRメニューをオンラインで発注できるプラットフォームのローンチを目指しています。このサービスは「ヒロメル」という名称でスタートしようと思っています。
――「ベクトル経済圏」の成長に沿ったM&Aを積極化
当社グループでは、グループ各社でサービス提供をしている商圏を「ベクトル経済圏」と称し、その商圏で提供できるサービスを開発してグループ成長を遂げ、ここ10年程度は年率20~25%の利益成長を持続してきました。M&A戦略ではこの「ベクトル経済圏」を活用することで成長が加速できる企業や事業のM&Aを積極化させます。例えば「ブランドコントロール」というWeb炎上のリスクマネジメントサービスを提供している企業を買収し、ベクトル経済圏にぶつけることで、20%以上の成長を実現しております。
インベストメントベンチャーでは、この3年でベンチャー投資を130社程度に実施し、複数の投資先は株式上場を果たしています。現状6社の投資先がIPOをしました。また、当社がPRとIRを提供させて頂いた30社くらいの上場企業では、時価総額が短期間に2倍程度に拡大するケースもございました。その結果、IPOを予定している企業の多くが、ラストファイナンスの出資を当社に要請してくるようになりました。当社の投資戦略は、レイターステージ・バリューアップキャピタルなのです。
――タクシー後部座席IoTサイネージ広告に新規参入
広告を掲載できるスペースが限定されるなかで、前からタクシーの車内広告に関心を強めていました。タクシーサイネージ広告は現在満稿状態にあります。今回、都内のタクシー会社5社(グリーンキャブ・国際自動車・寿交通・大和自動車交通・チェッカーキャブ)とソニーおよびソニーペイメントサービスの合弁企業の「みんなのタクシー」と、当社がタクシー車両の後部座席IoTサイネージ事業に関するパートナー意向確認書を締結しました。タクシー会社5社が保有する車両数は、現在都内最大規模の1万台を超えており、みんなのタクシーは2018年度中にタクシーの配車サービスや決済代行サービス、後部座席広告事業の提供を予定しています。
この意向確認書締結により、みんなのタクシーに参画するタクシー会社5社が所有するタクシー車両の後部座席IoTサイネージ事業を当社が担当し、新型IoTサイネージ端末設置、メディア運営、広告枠販売までサービス提供を行います。また、各セールスパートナー・メディアとの連携により、独自の広告メニューの展開・販売を通じて、東京都内最大規模の1万台を超えるタクシーサイネージネットワークを創出します。今後もみんなのタクシーと当社では、両社が持つソリューションを活用しながら、全国のタクシー事業者に向けたサービス提供を行う予定です。
――市場開拓余地10倍を想定し、利益成長年率20%にコミットメント
広告業界の「FAST COMPANY」を目指すポイントは、関連するサービスを全てワンストップでできる一気通貫体制の確立です。例えばアドテクの事業で「News TV」では、営業からコンテンツ作成まで全て内製化しています。中期計画では、2019年2月期に40億円予想の連結経常利益を計画しており、今後5期連続で20%超の成長を実現して2024年2月期には、100億円(投資の収益は含まず)を達成します。海外事業は、香港、台湾、上海、北京、タイ、べトナム、マレーシア、韓国、ハワイに拠点を設け順調な成長軌道にあります。株主還元では、配当性向を20%としています。また、過去10年間20~25%という高い利益成長を持続し、今後もマーケット開拓余地は10倍くらいあると判断しているため、利益成長率20%の継続的な積み上げにコミットしていきます。
◇西江肇司(にしえ・けいじ)
1968年、岡山県生まれ。関西学院大学在学中に起業し、1992年に卒業。翌1993年に株式会社ベクトルを設立する。2000年に戦略PR中心に業態を転換し、アジア市場を次々と開拓。独立系のPR会社として急成長をとげている。2012年3月に東証マザーズに上場。2014年11月に東証一部に上場。
◇ベクトル
https://vectorinc.co.jp/
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