4月に「LIFULL(ライフル)」に社名変更、
グローバル企業に
●井上高志氏
ネクスト 代表取締役社長
国内最大級の不動産・住宅情報サイト「HOME’S」を運営するネクスト<2120.T>が、設立20年目の今年4月に社名を「LIFULL(ライフル)」に変更、本社も移転して、グローバル企業へと新たなスタートを切る。世界の不動産市場で幅広いサービスの提供を目指す戦略について、井上高志代表取締役社長に聞いた。
――不動産情報検索サイト「HOME’S」の特色と強みは?
井上 「HOME’S」は、国内最大級の不動産・住宅情報サイトで、物件情報が昨年12月末時点で815万件と同業他社との比較では、圧倒的ナンバーワンの地位を占めています。この件数は賃貸と既存住宅を含めたもので、47都道府県を全てカバーし、現在国内で出ている空き家の60%超を網羅しています。とりあえず「HOME’S」で検索すれば間違いないという評価を受けており、情報量の見える化に成功しています。さらに、加盟店数についても、昨年12月末で2万1944店舗に拡大しており、これはコンビニエンスストア最大手のセブンイレブンとほぼ同水準の数です。中期的には、日本の主要コンビニ店舗を合わせたのと同水準の4万店舗達成を目指しています。
2つ目に、従来あった不動産価格の不透明性をクリアにする独自のサービスとしての「HOME’S プライスマップ」があります。マンションなどの参考売買価格や参考賃貸料を地図上に表示し値札のように一目瞭然にしたシステムです。これまで、日本の不動産価格の透明度は先進国のなかで26位(JLLグループ調べ)と大きく遅れていて、最近の調査でようやく19位(同)となったものの、まだまだの感があります。当社はこの不透明な状態をクリアにする努力をしていきます。
3つ目は、お客様から見ると、「どこの不動産会社が良いのかわからない」という疑問を解決する仕組みです。専門の調査員が、不動産会社の店舗についてメール対応から接客対応までをお客様目線で覆面調査します。一定の水準に達している不動産・住宅会社を表彰する「HOME’S 接客グランプリ」や、顧客からの接客や物件説明に対する口コミによる評価などで、どの不動産屋さんに相談したら良いのかということを見える化しています。
4つ目は、まだ準備中ですが、外部のホームインスペクターという建築士など専門の調査員を派遣し、建物の性能評価をする仕組みを準備しています。例えば、中古物件の価格が正しいのか、あと何年もつのか、耐震性はどうなのかなどの点で分からないものを買うのは不安です。そこで、土地自体の評価、建物はあと何年くらいもつのか、内装の再調達原価などの要素を全て弾き出すことで、性能や妥当な価格もわかるようにします。
――創業のきっかけについて教えてください
井上 「起業」を強烈に意識したのは、大学4年生の時。きっかけは、当時つき合っていた彼女に振られたのと、望んでいたベンチャー企業に就職できなかったことです。彼女は「ニュースキャスターを目指して、ニューヨークに留学する」と、夢を明確に持ち、その実現に向けて歩き出そうとしていました。一方、何かを成し遂げようという意志もなく、周囲に流されて生きていた自分自身の不甲斐なさにショックを受けました。そこで、中途半端でチャランポランだった自分に別れを告げ、「起業して、人生を賭けて大きなことを成し遂げよう」と決心したわけです。
社会に出て5年以内に起業するつもりだったので、若いうちから大きな仕事を任されると評判だったリクルートコスモス(現:コスモスイニシア)を修業の場と位置づけて入社しました。その当時、ある若い夫婦の顧客が新築マンションを気に入ったものの、残念ながら住宅ローンの審査が通らず、購入を断念せざるを得ず落胆していました。そこで、その夫婦のニーズに合う物件を探し回り、競合他社の物件も紹介しました。その結果、夫婦は競合他社のマンションを購入することになりました。当然、上司からは叱られましたが、後日その夫婦がお礼を伝えに来てくれました。その時の夫婦の満面の笑顔を見て、「あらゆる不動産情報を提供する仕組みをつくり、この笑顔をもっと増やしたい」と思うようになりました。本当にお客様のことを考えてサービスを提供するということが原体験となり、後年ネクストの「HOME’S」の事業へとつながったわけです。
――グローバル事業の現状と今後の展開についてお話ください
井上 2025年までに、100社の子会社設立と100カ国で事業を展開することを目標にしています。人口の多い順に100カ国を並べると人口比率では95%程度のカバー率となり、ほぼ全世界のユーザーにサービスを提供することができます。世界中の不動産データベースをシームレスで繋ぐグローバルプラットフォームを構築していきます。2014年に、住宅・不動産情報を中心に、中古車、求人情報を提供する世界最大級のアグリゲーションサイトを運営するトロビット社(本社・スペイン)を買収し、既に51カ国に展開しています。
これとは別に、国内での「HOME’S」のようなサービスモデルを海外で展開しつつあり、インドネシア、オーストラリアに既にサービスを展開し、次は欧州に進出するため準備を進めています。グローバル領域のマトリックスで示すと、日本人の顧客が国内の不動産を買うときには「HOME’S」を利用していただき、日本人、外国人問わず海外の物件を見たいときには、トロビットの「グローバルプラットフォーム」で51カ国の情報が入手できます。もう1つは外国人の顧客が日本の物件を買いたい場合は、マリモ社の国際事業部を譲り受けることで強化したアウトバウンド事業で対応します。グローバルプラットフォームには2つの目的があり、1つは日本の顧客が海外駐在するときにニューヨークやパリの物件を探す実需、2つ目は不動産投資です。
不動産投資は金融商品型になるので、小口のクラウドファンディング化することで、個人でもニューヨーク、ロンドン、パリの個別物件に数十万円単位から投資することが可能になります。今は、不動産投資のための流動化はREIT(不動産投資信託)くらいしか進んでいません。このクラウドファンディング型を積極推進すれば、すそ野が広がり世界中の物件に対して投資できるようになります。世界の株式市場の時価総額は約7000兆円で、不動産はそれの10倍くらいの市場規模があるので、クラウドファンディングを活用して小口化すれば、膨大な金融資産の投資プラットホームになります。
――民泊新法の行方と市場規模拡大を踏まえた取り組みを教えてください
井上 民泊新法については、新経済連盟で政策提言をあげています。昨年の4月から旅館業法「簡易宿所営業」の許可要件(客室延面積など)の規制が緩和され、今年1月からは、国家戦略特区で認められた「特区民泊」の営業が可能となり、最低宿泊日数が6泊7日から2泊3日に緩和されました。そして、3つ目が現在議論されている「民泊新法」で、その内容について新経済連盟で政策提言をしています。今月始まった通常国会で審議され、何らかの結論が出ると思います。民泊などホームシェアによって、インバウンド消費を含めた経済効果は10兆円と試算され、「“GDP600兆円”の実現」に貢献します。
当社では既に、民泊専用の「Lifull Stay」というサイトをオープンしていますが、当然のことながら全て法律的にクリアな範囲での展開です。今後、民泊新法が成立し、その後圧倒的な情報量を持つ当社が本格参入した場合、民泊仲介サイトとして断然トップの存在となります。また、地方創生、観光立国といった政府の方針にも大きく貢献できそうです。
――今後の株主還元策についての方針をお願いします
井上 基本的な考え方は、当社は継続的に年率2ケタの成長を達成してきた企業で、財務基盤を安定させつつ事業投資できるところにどんどん投資して企業価値そのものを高めていく方針です。2006年の10月に東証マザーズに上場、そして東証1部上場となり、その後の10年間で、売上高は約10倍、当期利益は約7倍、株式の時価総額もピーク時では約7倍と急成長を遂げています。未来の成長に期待していただいて、良きタイミングで株式を売買していただければ、キャピタルゲインが得られます。一方で、配当性向も10%、15%、20%と徐々に高めており、インカムゲインでも株主に還元する方針です。
――5年後、10年後の将来像をどう描いていますか
井上 今年4月から社名を「LIFULL(ライフル)」に変更し、同時に本社も移転します。社名変更には、これまでの「ネクスト」という社名とか、「HOME’S」といった不動産情報の会社という立ち位置から、「世界中のあらゆる人々の人生や暮らし(LIFE)を満たす(FULL)」、「笑顔あふれるしあわせな暮らしを提供する」という意味を込めました。「HOME’S」という住み替えのメディアに留まらない幅広いサービスを目指します。今年はネクスト設立20周年ですが、株式上場までの最初の10年間が第1成長期、次の10年間が第2成長期とすると、今後の10年間はグローバルでさまざまなサービスを拡大し、第3成長期として飛躍的な成長を目指します。
(聞き手・冨田康夫)
●井上高志(いのうえ・たかし)
1968年11月23日生まれ。1991年4月株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)入社。1992年4月リクルート転籍。1995年7月ネクストホーム創業。1997年3月株式会社ネクスト設立、代表取締役社長。2011年11月代表取締役社長 兼 HOME’S事業本部長。2014年4月 代表取締役社長 兼 国際事業部長。2016年4月代表取締役社長 兼 グローバルコーポレートコミュニケーション部長。
●株式会社ネクスト
http://www.next-group.jp/
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