花の一里塚~市場見通しサマリー
2016年7月1日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
今号から、予想期間を 2017年 6月末までに延長した。 大枠のシナリオに変更はない。すなわち、世界経済は、決して強くはないが、一部の悲観論者が主張するような、中国経済の崩壊や米国景気の再後退入り、英国のEU離脱による世界経済の悪化などは想定しがたい。そうした経済実態に対して、特に日本株は売られ過ぎており、「リスク回避のための円高」も行き過ぎている。したがって、現時点から一旦は、世界的な株価上昇、外貨上昇が見込まれる。英国のEU離脱を「口実」とした、各国の政策対応も期待できる。
しかし、日本国内での経済政策の一巡や、米大統領・議会選挙に向けての米国からの米ドル高けん制などにより、(当初想定の年央からやや後ずれして)7~8月と見込まれる株価・の調整が生じる、という見解も変わらない。
これまで、日経平均株価が2万円超え、あるいは米ドル円相場が 120円台に達し、その後、年末に向けて再度2万円・120円割れ、というシナリオを提示してきた。残念ながら、これまでの相場展開の軟調さを踏まえると、7~8月の戻りは当初予想より弱く、高値は2万円・120円に達しないまま、年末に向けての調整局面に入ってしまう恐れが高いと、予想を修正せざるを得ないと考える。
予想数値は前ページの表に示した通りだが、高値安値のイメージは、たとえば
日経平均であれば、 足元→7~8月高値:18000円台のどこか→今年末~来年初:17000円割れ→来年6月:2万円超え
米ドル円相場であれば、 足元→7~8月高値:110円台前半のどこか→今年末~来年初:110円割れ→来年6月:115円程度
といった動きだ。ポイントは、今後の国内株価や外貨相場(対円)は、現水準より高く推移すると見込むが、夏場を過ぎて年末年始までは、調整色が強い、ということだ。
予想レンジについては、読者の方には大変申し訳ないが、年後半の予想を大幅に下方修正した。具体的には、2016年 12月までの予想レンジについて、前月号(6/1(水)時点)から、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 18000~ 21000 ⇒ 15000~19000
10年国債利回り(%) -0.1~ 0.5 ⇒ -0.3~0.3
米ドル(対円) 112~ 125 ⇒ 100~115
ユーロ(対円) 120~ 145 ⇒ 110~125
豪ドル(対円) 80~100 ⇒ 73~90
2017年 6月までの予想レンジは、今号で新規に作成した。
シナリオの背景
・世界の実体経済の状況に、特に変わりはない。引き続き、極めて緩やかな回復、すなわち悪いわけではないが、それほど良くもない、という状況が予想される。
・世界全般には、IMFの見通しによると、世界全体の実質経済成長率は、2015年が3.09%とリーマンショック以降で昀低で、2016年以降持ち直すと予想されてはいるが(図表1)、とは言っても 2016年の成長率は3.16%で、良くなっているのかどうかはっきりしない景気回復と言える。
(図表1)
・世界昀大の米国経済については、雇用者の伸びは極めて緩やかなものの、週当たりの雇用者総賃金額は着実に増えており、直近の水準は過去昀高記録だ(図表2)。また当該総賃金額の前年比は、リーマンショック以降は4%前後の伸びで安定している(図表3)。賃金が単に伸びているだけではなく、伸びが安定しているため、消費者が先行きの計画を立てやすく、個人消費や住宅投資に家計が資金を振り向けやすい。このため、米国経済は、今後も内需非製造業中心の、着実な回復が予想される。
・中国経済については、豪州から中国向けの輸出額で推し量れば、2014年以降、緩やかな景気減速基調が持続していると判断される(図表4)。しかし減速の速度は一定ではなく、浮沈を交えつつ長期的な景気減速(失速ではない)が持続すると見込まれる。
(図表2)
(図表3)
(図表4)
・日本については、雇用をみると、失業率は低下が持続している(図表5、失業率の軸は上下逆)。また、有効求人倍率の上昇や正社員雇用の持ち直しもあり、雇用からみた国内景気は悪くはない。
・ただし、所定外労働時間は前年比で減少気味で推移している(前述の図表5)。これは、企業側が、ワークライフバランスの重視、あるいはブラック企業との批判の回避のため、意図的に労働時間短縮を進めている可能性があり、そうであればあまり懸念視する必要はない。しかし、雇用者数の増加(≒失業率の低下)に見合うほど仕事量が増えていない結果だとすれば、将来の雇用情勢に黄信号が灯っていると言える。
・加えて、昀近の株価下落や円高に関する諸報道が影響しているためか、消費者や市井の景況感は、はかばかしくない(図表6、7)。このため、消費動向についても、百貨店より、低価格の小売店・外食や、安価な日用品に購買がシフトしていると言われており、雇用情勢の改善とデフレ的な消費行動といった、ちぐはぐな現象が表れている。
(図表5)
(図表6)
(図表7)
・企業マインドについては、7/1(金)発表の6月調査の日銀短観をみると、業況判断DIの全般的な悪化が予想されていたところ、(3月調査昀近→6月調査昀近→6月調査先行き、でみると)大企業製造業は6→6→6、大企業非製造業は 22→19→17で、製造業は横ばい、非製造業は小幅な悪化にとどまっている。2016年度の円相場前提が1ドル 111.41円であるため、足元のような円高水準が続いた場合の企業収益への悪影響が懸念されるが、企業側がみた景気の状況は、それほど悪化しているわけではなさそうだ。
・一方、国内株価の水準は、企業収益に比べて大きく売り込まれた水準にある(図表8、安倍政権発足後の予想PERのレンジは、おおむね13~16倍)。当面、物色の柱を欠くが、水準訂正による株価水準の全般的な上昇は、見込まれるだろう。
・米国株価については、PERでみると、決して割安とは言い難い(図表9)。このため、今後のPERの大幅な拡大は見込めないが、企業収益の増加ピッチに沿った、安定的な株価上昇基調(ただし、もちろん、短期的な下振れは時折交えよう)が予想される。
(図表8)
(図表9)
・加えて、英国のEU離脱で、世界経済が大きくどうなるとも考えないが、家計や企業、市場の不安を踏まえて、各国政府・中央銀行は、英国のEU離脱を「口実」として、景気支持にバイアスを意図的にかけた経済運営を進めよう。米国では、経済実態面からは7月の利上げを見送る必要はないが、市場等に不安定さが残ると連銀が判断すれば、金融政策の変更(利上げ)はないだろう。
・日本では、7月の日銀金融政策決定会合(7/28~29)で、手はかなり限られてはいるものの、追加緩和を検討する可能性があろう。また、秋口に向けて、第二次補正予算を含めた経済対策が打たれると見込まれる。
・以上を踏まえると、内外株価は、実態に沿った水準へと上昇をみせるものと期待できるだろう。円相場については、対米ドルでは、米連銀が利上げを先送りすることは米ドルの頭を押さえうるが、世界的な株式市場の好転が、理不尽な「リスク回避のための円高」を後退させる(全面的な円安が生じる)と予想する。また、世界の市場動向が落ち着けば、日米の景気格差・金利格差に、市場の目が向かい、現在より米ドル高・円安方向への修正が入りうる。
・しかしそうした株高・外貨高の流れは、おそらく8月辺りまでで、その後年末・年始に向けては、反動が生じると懸念される。そう見込む理由は、下記の通り。
1)日本株については、秋口(時期不明)とも見込まれる経済対策を市場が好感しても、その後の政権の関心が経済から安全保障に移行する局面が予想される。だからと言って、経済が悪化するわけではないが、外国人投資家は安倍政権の政治的な精力がどこに向けられているのかは、注意深く見ている。また、7月に日銀が追加緩和を行なっても、かえって緩和手法の限界が近く、さらなる追加緩和が難しいとの観測が、かえって先行き広がってしまう恐れがある。
2)円相場については、そうした日本の金融政策の限界が一段と見えてくる(既にある程度知れてはいるが)ことが、全般的に円高方向へ作用することが懸念される。11月の米大統領・議会選挙に向けて、米政治が一段と内向きになり、米ドル高に対するけん制を再度強める恐れもある。米国のそうした動きは米ドル安要因であって円高要因ではないが、対米ドルで円高が生じると、対他通貨でも円高が進む可能性がある。
3)米株価については、前述のように、企業収益の増加に沿った緩やかな株高基調が見込まれるが、そうした地合いが続いて市場に楽観が広がりすぎると、長期金利が跳ねあがって、米国株式市場をかく乱する恐れが生じる。
・こうした年末・年始にかけての市場の調整を経れば、再度内外市場は落ち着きを取り戻すだろう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2016 年6 月号)見通しと、1 月号の2016 年前半見通しのレビュー。
前月号見通し(2016/6/1 時点)のレビュー
・日経平均株価は、当初は予想レンジ下限ぎりぎりで推移していたが、徐々に英国のEU離脱を懸念する空気が広がり、大きく予想レンジを下抜けてしまった。ただ、短期的な市場の反応には行き過ぎた部分があると考え、当面の株価持ち直しシナリオ自体は堅持する。
②国内長期金利
・国内長期金利は、引き続き日銀の国債買い入れやマイナス金利が水準を大きく押し下げており、それに株価下落や円高も加わって、予想レンジ下限を割り込む展開となった。
③外国為替相場
・6月の外貨相場は、英ポンドやユーロといった欧州通貨だけではなく、ほぼ全通貨が対円で下落するといった、全面的な円高商状となった。
・この要因はもちろん英国のEU離脱だが、非欧州通貨に対する円高は、いわゆる「リスク回避のための円高」が行き過ぎていると考えている。
1月号(2016/1/4)における、2016 年1~6月見通しのレビュー
・日経平均株価は、年初から2月にかけての大幅な下落の後、その安値から大きく下げることはなかったが、予想レンジを下回る推移を続け、見通しを全く誤った。ただし、実体経済自体が想定より著しく悪かったわけではなく、売られ過ぎの側面が大きいと考える。
②国内長期金利
・国内長期金利は、日銀のマイナス金利導入や、国内機関投資家のリスク回避的な投資態度により、想定を超える長期金利低下が著しく進んでしまった。
③外国為替相場
・この背景には、米国からの予想より強い米ドル高けん制姿勢、世界的な市場波乱による「リスク回避のための円高」進行、日銀の金融政策に対する限界説の広まりなどがあったが、経済実態に比べてやや円高が行き過ぎていると判断している。
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