2015年4月2日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
大枠の、世界経済持ち直しの流れや、それに伴う世界市場における、株価上昇、主要国の長期金利上昇、外貨高・円安という見解に、全く変わりはない。
その一方で、これも従来から述べてきたように、年央近辺に、世界市場が米国発の大きな波乱に見舞われる、というシナリオにも、一切変更はない。足元3月に生じ始めた、米国市場の「きしみ」は、一旦は後退し内外市場が明るくなった後で、予想するような年央の大波乱に突入する、という予想がメインシナリオだが、足元のきしみから、ほぼそのまま波乱に突入する、という展開も否定はできない。衝撃に備える投資姿勢が適切であろう。短期的な目先の利益を欲張らず、一旦現金比率を高めることも一つの手段だ(波乱の正確な時期、程度、波乱に入る前の株価等上振れの有無など、不透明要因が多いので、空売りを積み上げることは薦めない)。
具体的な予想レンジの修正については、2015年6月末までの予想については、予想期間末までの時間が短くなっているなか、豪ドルが予想レンジ上限まで達することは難しいと考え、豪ドルの予想レンジ上限だけを下方修正する。他に修正はない。
すなわち、2015年6月までの予想レンジを、前号(3月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.25~1.0 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 105~122 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 127~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 88~115 ⇒ 88~110
2015年12月までの予想レンジについては、修正は全くない。
シナリオの背景
・世界の景気は国によって差がありながらも、米国を中心として、徐々に回復基調を鮮明にする、という経済環境の認識には全く変わりがない。こうした経済環境については、本年1月号以降、繰り返し述べたので、今号では改めて述べることはしない。
・ただし中国については、景気減速色が徐々に強まりつつある(そう考える一方で、極端な中国経済失速、あるいはクラッシュ(墜落)を唱える向きには、賛同はしない)。最近の住宅投資への規制緩和策(※1)やAIIB(アジアインフラ銀行)(※2)への欧州諸国の参加などが、中国経済に対する好材料と捉えられているが、逆にそうした策を打ち出す必要に迫られるほど、景気減速が進む恐れが切迫している、と解釈ができるだろう。
・その一方で、中国上海株式総合指数は、上昇基調が続いている。世界の主要な株価指数の推移(図表1)(※3)をみると、経済実態の良し悪しに沿って、先進国では米→日→欧の順に並んでおり、BRICs諸国ではロシアが最悪で、少し前までインドが最善であった。これに対し、中国株が一気に躍り上っているのは、いかにも行き過ぎだ。
(図表1)
・このように、特に足元の中国株価については警戒的に臨みたいが、世界全般としては、長期的に(たとえば今年末や来年に向けては)株高、長期金利上昇、外貨高・円安基調を引き続き予想している。
※1 中国人民銀行は、3/30に、個人が2軒目の住宅を購入する場合に必要となる住宅ローンの頭金比率を、これまでの60~70%から40%に引き下げると発表した。
※2 Asian Infrastructure Investment Bank。インフラプロジェクトに融資する国際機関である、ADB(Asian Development Bank、日米主導で設立された)と並行する形で立ち上げると中国が発表し、日米は参加に後ろ向きだが、英国をはじめとする欧州諸国は出資を表明している。AIIBが融資する案件から中国企業に発注が増える、と期待する向きが多い。
※3 全て円換算後の数値。株価指数は、TOPIX(日本)、S&P500(米国)、ユーロSTOXX(ユーロ圏)、上海総合(中国)、SENSEX(インド)、RTS(ロシア)。
・一方で、これも従来からの主張と変わらないが、年央近辺から(おそらく5月から)、世界市場は米国発の大きな波乱に見舞われると予想している。その主因は、米景気の実力と比べて低すぎる米国の長期金利(図表2、ISM製造業指数と米10年国債利回りの比較)が、大きく上昇することであるが、実力より低すぎる金利が米景気の実力並みに上昇すること自体は、悲観視すべきことではない(よって、長期的な世界市場の動向も悲観視しない)。しかし金利の跳ね上がりがあまりにも急速であると、長期金利の水準が落ち着くまでは、米株式市場やさらには米ドル相場に、大きな調整を招きかねない。
(図表2)
(図表3)
・そうした波乱が生じるタイミングとして、5月の可能性が最も高いと考えている。その理由は、
1)米連銀の利上げは6月あるいは9月が予想され、今のところ市場は9月説をとっている。そうした市場の観測の背景にあるのは、1~2月分の経済統計が弱かった点が要因としてあるだろう(図表3)。しかし昨年も1~2月に経済データの下振れが生じており(図中の楕円印)、昨年も今年も、厳冬(気温の低さや大雪など)の影響であったと推察される。そうした気候要因が剥落し、3月以降のデータに強いものが多く表れれば、市場の利上げ予想も6月に再度前倒しとなる可能性はあろう。その場合、先んじて5月辺りから、連銀の利上げ観測を材料に(※4)、米長期金利が跳ね上がる恐れがある。
2)ギリシャへの財政支援は、現時点では6月末までの期限付きだ。最終的には、まただらだらと支援策を先延ばしすることとなろうが、そうした結論が出る前は、支援打ち切りではないかと、市場が騒ぐ可能性がある。
3)日本株については、4月下旬~5月上旬に発表される企業決算で、業績の良さを織り込みに行くと見込んでいるが、そうした決算という好材料が剥落すると、株価が反落する恐れが生じる。
※4 連銀の利上げが問題だ、とは考えていない。経済の実力に応じたゼロ金利からの脱却だと考えるからだ。問題なのは、利上げを材料(あるいは口実)として、米長期債券市場が大騒ぎしてしまう展開だ。
・このように、タイミングとして5月から波乱局面に入る可能性が最も高い、と見込んではいるが、時期は前後することが十分あると考えられ、不透明感が強い。たとえば、予想に反して米経済指標に強いものがなかなか現れず、市場において9月利上げが有力との見解のまま推移すれば、波乱の時期は後ずれするかもしれない。
・また、足元では、米国株や米ドル相場が、一本調子で上昇するという感触が薄れている。これは、現時点での、米国経済の他の諸国に対する優位性から、「米国しか買うものがない」といって米国株、米国国債、米ドルが買い上げられてきたことに、無理(きしみ)が生じてきた表れと考えている。たとえば米国株のPERをみると、おせじにも割安とは言い難い水準となっており(図表4)、そうした買われ過ぎのつけが、足元市場で表面化してきた、と捉えられる。
・一番ありそうな展開として、足元の米国株や米ドルのもたつきが一旦一巡し(たとえば米ドルが対円でまた121台に復し)、そうした米国市場の落ち着きから日本では日経平均が20000~21000円に達して、その後、前述したような波乱で米ドル安・円高や日本株・米国株の下落が生じる、と見込んでいる。しかし、今のようなずるずるとした日米株や米ドル円相場の状況から、大きな明転がなく、そのまま5月以降の大波乱になだれこんでいく、という展開も否定はできない。
(図表4)
・以上のように、米国発の大きな世界市場の波乱が予想通り生じたとしても、5月なのか、それが後倒しになるのか、あるいは足元のもたつきからそのまま波乱に入ってしまうのか、タイミングを的確に予想しがたい。加えて、目先は日米株価や米ドル円相場が小幅上昇してから大きく下落するのか、現水準からそのまま下落するのかも、見定めがたい。
・したがって、来たるべき「衝撃」に備えて、一旦は現金比率を高め、慎重な投資姿勢をとることをお薦めする。ただし述べたように市場波乱のタイミングは不透明なため、たとえばすぐに現金保有を増やしたのち、株価などが8月にかけて上振れするような展開もありうる。余り目先の利益を追い求めない姿勢が適切だと考えている。その意味で、一気に株式などを売却するのではなく、相場動向などをみながら、徐々に現金保有を増やすような形がよいだろう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2015年3月号)見通しのレビュー。
前月号見通し(2015/3/2時点)のレビュー
・3月の日経平均株価は、予想レンジの中で強含んで推移した。おそらく5月上旬までの決算発表に向けて2万円を超え、その後大幅調整に至ると予想しているが、株価下落のタイミングや幅などについては、確度を持って予測しがたい。
②国内長期金利
・国内長期金利は、3月は、予想レンジの中で下限に近い位置で推移した。今後、予想しているような内外市場の波乱が生じた際、国内長期金利もぶれる可能性がある。
③外国為替相場
・3月の外国為替相場については、米ドルの上限、ユーロの下限は、良く機能した(米ドルが上限を超えて上昇したり、ユーロが下限を割れて下落したりしたことは、ほとんどなかった)。
・米ドルの独歩高商状は今後も薄れ、むしろ一旦は下限に向かって下振れするものと予想している。
・その際、全面的な円高圧力がかかり、ユーロや豪ドルの上値も対円で重くなる恐れはあるが、円高というより米ドル安という状況を想定しているため、ユーロや豪ドルが予想レンジの下限を大きく下回ることはなく推移すると見込む。
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