花の一里塚~市場見通しサマリー
2015年1月5日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
2015年の世界経済・市場の展望の大枠に、変更はない。
すなわち、実体経済面では、各国の明暗の格差が強く残りながらも、米国を中心として世界経済は緩やかな持ち直し軌道にあると考える。このため世界市場の年を通じてのトレンドは、国、産業、企業ごとの差が大きいものの、総じて株価上昇、長期金利上昇、外貨高・円安方向であると予想する。
しかし引き続き、中国・ブラジル等、新興主要国の景気減速・低迷懸念が残り、地政学的リスクからも目を離せない。これに加えて、主に下記の3つのリスクを指摘したい。
1)原油価格の一段の下落と、それがロシア等産油国経済に多大な悪影響を与える可能性。
2)米国の利上げそのものより、それを材料とした米国債市場発の種々の市場の混乱。
3)国内金融政策に対する期待と実際のギャップ発生。
特に2)、3)については、年後半(早ければ5月以降)の世界市場のかく乱要因となる恐れが高い。2015年の世界市場は、小波乱を交えながらも年前半は穏やかだと見込むが、年央以降に大きな混乱が生じる局面も懸念される。
このため、あわてて国内株式や外貨(特に米ドルの現水準は高すぎる)の上値を買い上げることはせず、押し目を丹念に拾う投資姿勢を薦める(逆に、予想したような株価や外貨の下振れが生じた場合、あわてて売らないことも肝要だ)。
具体的な予想レンジの修正については、2015年6月までの予想レンジについて、これまで予想していたより国内長期金利の低下が進んだため、レンジ下限のみを下方修正する。他に修正はない。
すなわち、2015年6月までの予想レンジを、前号(12月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.45~1.5 ⇒ 0.25~1.5
米ドル(対円) 105~122 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 135~150 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 95~120 ⇒ 変更なし
2015年12月までの予想レンジについては、前号からの修正は一切ない。
シナリオの背景
・シナリオの背景としては、前号(2014年12月号)から見解の変更はない。したがって、以下では前号の記述(図表も、もちろんデータの更新は行なっている)の繰り返しになる部分が多いが、ご容赦いただきたい。なお、全く前回の繰り返しではなく、新しい分析を加えているので、お読みください。
・大枠として、内外経済の回復に沿って、投資家のリスク許容度もさらに高まり、中長期的な世界株高、長期金利上昇、外貨高・円安を見込む、という考え方に変わりはない。
・世界をみわたすと、やはり足元で最も堅調なのは米国経済だ。住宅、自動車といった高額商品にはやや頭の重さも見えるが、鉱工業生産、小売売上高は増勢だ(図1)。また、雇用情勢の回復基調は持続している。
(図表1)
(図表2)
・原油価格下落の功罪が議論されているが、米国にとっては、シェールオイル・ガスなどの開発投資にブレーキがかかる部分がありうる(※1)ものの、ガソリン・燃料油の値下がりが個人消費を刺激する効果の方がはるかに上回るだろう。
・先進諸国中で景気の先行きが最も懸念されているのは欧州経済であるが、ユーロ圏の鉱工業生産は低迷しているものの、前年比はプラスマイナスゼロ近辺で推移しており、底割れに向かっているとも言い難い(図表2)。一方ではECB(欧州中央銀行)が追加緩和の構えを見せている。
・ただし、経済制裁や原油安の影響を受けてロシア経済が悪化し、それが欧州に降りかかってくる恐れはある点は注視する必要がある。
・国内経済は、決して悲観視する必要はないだろうが、やや変調が長引いており、要注意だと懸念している。まず、国内の主要な経済指標をみると、消費増税の影響から徐々にでも回復すると見込んでいたところ、どうも「回復」というより「低迷」という事態に陥っている(図表3)。
(図表3)
※1 シェールガス・オイルの生産コストは、企業によってかなり幅広いと推察されており、原油換算で1バレル40~80ドルであると言われている。80ドル近辺の高コスト業者は収益が苦しく、先端開発技術への投資を手控えざるを得なくなる、という「ジリ貧」状態に陥る恐れがあるが、先行投資し積極的な効率化を図った業者は、現状のような50ドル台の原油価格でも生き延びる可能性が高いと言える。また、現在のような原油価格水準で立ち行かなくなった中小の業者の買収を、大企業が進めている。買収された後、資金に余裕がある大企業が、先端開発技術に投資すれば、生産コストが低下する、という指摘も聞かれる。
・ただし、最も重要な個人消費の先行きをみるうえでは、雇用情勢を把握することが必要だ。失業率は低下(図表4、失業率は右目盛を使っており、軸が上下逆になっているので、グラフが上に向かっていることは、失業率の低下(改善)を示している)しているが、最近になって、所定外労働時間(=平日の残業時間と休日出勤の時間)前年比がマイナスになっている。すなわち、採用を増やし人員増を進めたところ、仕事量がそれほど増えておらず、労働時間が短くなっている(雇用がだぶつき気味になっている)ことを示唆している。だからといって、急激に雇用情勢が悪化するとは言えないが、黄信号が灯り始めたと懸念される。
(図表4)
・一方、雇用増の中身を見ると、一般労働者(=正社員+派遣社員等)の増勢が強まっており、それ自体は明るい動きだ。ところがパート採用の伸びが大きく抑えられることで、常用雇用者数(日雇いを除いたもの)全体(「労働者計」)の前年比は頭が重くなってきている(図表5)。
・加えて、市中の景況感を測る景気ウォッチャー調査をみると(図表6)、消費増税直後の下振れから戻った後、再度低下を始めた。特に現状判断指数は、消費増税直後の水準を下抜けた。一旦はベアや夏のボーナス増を受けて消費に明るい動意が生じたが、その後財布の中身が軽くなり、小売・サービス業の動向が鈍くなってきているのだろうか。
(図表5)
(図表6)
・心理が悪化すれば、インフレ期待による景気浮揚が働きにくい。すなわち、本来インフレ期待による景気浮揚策とは、「物価が先行きもっと上がるのであれば、値段が高い将来よりは今のうちに買っておこう」「今のうちに借金してでも買おう」となって、消費や投資が拡大して、それが実際に景気を押し上げる、というものだ。しかし現在のように心理が悪化している局面では、「物価がさらに上がるのであれば、永遠に買うのを止めよう」「借金などしたら、将来返せるあてがない」という形になってしまう。
・肝心なのは、インフレ期待による景気浮揚は、家計や企業が購入するモノの価格がインフレになるという展開ではなく、家計や企業の所得(家計収入や企業の売り上げ)がインフレになる(増加していく)という期待によって実現する、という点だ。長年のデフレを経験した家計や企業の心理は「SHOW ME」(まず、見せてみろ)という状態だ。つまり、「日銀や政府が、景気がよくなる、と言っても信じられない、まず我々の所得を上げて見せてみろ、そうしたら信じてやる」といった状況ではないだろうか。
・また円安にもかかわらず、日本からの輸出数量が前年比でプラスマイナスゼロ近辺をうろうろしている点も気がかりだ(図表7)。輸出数量が伸び悩んでいる背景として、日本企業が輸出品の売価の外貨換算額を引き下げず、円ベースの手取りを増やすことに専念しているためであり、輸出数量が伸びなくても輸出企業の採算は改善しているから、心配はいらない、という意見も聞こえる。それはある程度事実だろうが、100%楽観もしがたいところだ。
(図表7)
・以上をまとめると、日本の経済は決して下向きトレンドにはないが、薄氷を踏むようなものだ、という認識は必要だろう。
・続いて、前号では触れなかった豪州経済の状況について述べると、中国経済減速の影響を受けて、豪州から中国向けの輸出額前年比はマイナスに陥っている(図表8)。しかし輸出額、前年比共に、直近はやや持ち直す動きも見いだせる。
・加えて内需については、小売売上高の前年比はそれなりの水準を保って堅調に推移している(図表9)。こうした点からは、豪州経済はもちろん加速するような状態にはないが、決して悪化しているとも言い難いと考えられる。
・これに対して豪ドルは、中国景気減速の影響を過度に懸念したり、最近の原油価格の下落により、産油国であるかどうかにかかわらず資源国通貨全般に売りが嵩む展開が生じたりして、売られ過ぎの一面があると考えている。豪州準備銀行は、内需の堅調さなどを背景に今年中に利上げに転じると見込んでおり、今年は全般に豪ドルの対円での上昇を予想している。
(図表8)
(図表9)
・新興諸国については、中国やブラジルの景気減速などにより、先進国との経済成長率格差が縮小した(図表10)。一方で、ウクライナやイラク情勢など地政学的リスクが意識されたため、先進国と新興国の株価・通貨の推移に格差が生じている(図表11、円換算後の株価指数の推移を示しているので、先進国と新興国の株価と通貨の推移の両方が反映されている)。
・しかし一方で、地政学的リスクは(よほど想定外のことが今後起こらない限りは)場に晒され織り込まれた感が強くなっており、一方で先進国と新興国との成長率格差は、かなり縮小はしたとは言え、依然として新興国優位が保たれると見込まれる。こうした点を反映して、新興諸国株価・通貨は(ロシアなどを除けば)徐々に底固さを示し始めている。
・新興国投資ブームが再燃するとまでは見込みがたく、一斉に新興諸国市場が立ち直ることは難しいだろう。それでも、各国の実情に応じて、選別的に投資資金が新興国市場に向かうことは今後ありうると予想される。
・先進国、新興国を合わせて、既に株式・通貨市場は、各国の格差を反映している。先進国では景気実態が最も堅調な米国が先行し、懸念が強いユーロ圏が低迷しており、日本はその中間だ。BRICs諸国では、モディ首相の経済改革期待が強いインドが株価上昇が大きく、後述のように原油価格下落が直撃したロシアが最も不振だ(図表12)。
(図表10)
(図表11)
(図表12)
・以上より、2015年の世界市場については、それぞれの国の経済実態格差を背景とした選別色が強いながらも、全般的に基調としては株価上昇、長期金利上昇、外貨高・円安を継続して予想している。
・ここで、国内株価と米ドル円相場のバリュエーション(価値判断)もみてみよう。
・TOPIX(東証一部株価指数)のPER、PBRをみると(図表13)、懸念するほど高いとは言えないが、ここ2年ほどの推移の中では高位にあると言える。日本企業の収益は、2014年度、2015年度と増益が見込まれるが、株価上昇が増益より先んじている部分があり、国内株価の上昇基調はここからは緩やかなものになると予想される。
・米ドル相場は、現状は高すぎる。たとえば購買力平価(図表14)との乖離率(図表15)で見ると、既に11月の月中平均値で乖離率は18.54%と、最近の最高値(2007年6月)をはるかに上回っている。その後の購買力平価が11月と同じ(98.19円)として、米ドル円相場が120円と置いて乖離率を計算すると、22.2%と試算される。乖離率が20%を超えたことは長期的に見ても1982年と1985年の2回しかない。中長期的な米国経済の堅調推移に沿った米ドル高基調は良いとしても、少なくとも足元の米ドル高・円安は行き過ぎ感が強い。
(図表13)
(図表14)
(図表15)
・以上が2015年の世界相場見通しの背景であるが、ここで3つのリスクを指摘したい。その3つとは、
1)原油価格の一段の下落と、それがロシア等産油国経済に多大な悪影響を与える可能性
2)米国の利上げそのものより、それを材料とした米国債市場発の種々の市場の混乱
3)国内金融政策に対する期待と実際のギャップ発生
である。
(1)原油価格の一段の下落と、ロシア経済の悪化
・原油価格に下げ止まりの兆しがなかなか見いだせない。背景には、サウジアラビアがシェア確保のため減産しないことや、長期的には代替エネルギーの拡大や省エネの潮流が、要因として挙げられる。
・ロシアは輸出の約7割が、原油や天然ガスといった鉱物性燃料であり(図表16)、エネルギー価格下落の打撃は大きい(※2)。また、ウクライナ情勢を巡っての欧米諸国の経済制裁も継続している。
(図表16)
・ロシアの直近の外貨準備高は4000億米ドルにのぼり、2013年末の5097億ドルから減少してはいるが、2013年年間の総輸入額(3150億ドル)を上回っている(全く架空の世界で、輸入代金を全て政府が肩代わりしても、1年以上はもつ)。今のところロシアは外貨準備を通貨介入などで「浪費」する構えは見せておらず、しばらくは「塹壕戦」を戦うことは可能だろう。
・しかし、ロシアの経済・金融が危機に陥る展開は否定できない。その経路は、①ルーブル建て輸入物価の跳ね上がりによる景気悪化、②外貨建て債務を有する企業の破たん、
③政府による民間支援等の結果としての外貨準備枯渇、④ロシア国債の格下げが国債需要の瞬間蒸発を招くことによる、ロシア政府の資金繰りデフォルトなどが想定される。
(2)米国国債市場発の混乱
①米長期金利の水準は低すぎ、水準訂正が急速に生じる恐れ
・米国内外の実体経済は、述べたように堅調だ。それを受けて米連銀は、2015年に利上げを行なうと予想される(今のところ、6月16~17日のFOMCが、最も利上げの公算が高いと見込まれている)。とは言っても、利上げのタイミングも政策金利の上げ幅も2回目以降の利上げも、慎重なものになると見込まれる。したがって、連銀の金融政策そのものから、米国景気の緩やかな改善がかき乱される、という可能性は低いと考える。
・ただし証券・金融市場の乱れが生じ、それが経済のかく乱要因となりうる、という懸念は残る。その市場の乱れとは、具体的には、まず米長期金利の跳ね上がりである。
・そもそも現状の米長期金利は、実体経済に比べて低すぎる。米国製造業企業の景況感を示す、ISM製造業指数と10年国債利回りの推移を比べてみると(図表17)、過去は両者の相関が高かったものが、最近では景況感に比べての長期金利の低迷が際立っている。
・一時は、米国経済が弱い時期があったため過度の米景気悪化懸念が生じたことや、連銀が量的緩和という形で国債の大きな買い手であったこと、欧州財政懸念が広がり欧州国債から米国債への資金シフトがあったことから、景況感と長期金利の格差を説明できた。そうした3つの要因はその後大きく剥落し、実際の長期金利も一時は景況感が示す水準に近づくという、「正常化」が進んだ局面もあった。しかし現在の長期金利は再度低下を鮮明にしており(欧州経済に対する懸念は再燃してはいるが、財政危機時ほどではないだろう)、これは長期金利が低すぎると判断せざるを得ない。
(図表17)
・低すぎる金利は、いずれ景気の実力に見合った水準へと修正されよう。それ自体は、景気の堅調展開を背景としたものであるため、さしたる問題ではないが、市場はしばしば、激しく変動する。金利上昇が緩やかに起こればよいところ、急速なスピードで動くと、後述のように、様々な影響を生じる恐れが強まる。
※2 比較対象として、同じ「資源国」と言われるブラジルを並べているが、輸出構造が大きく異なる。原油価格下落により、資源国通貨が一斉に売り込まれる局面がしばしばあるが、それでブラジルレアルまで大いに売るというのは、行き過ぎの感がある。
②貸出金利上昇が実体経済に影響を与えようが、限定的か
・まず、長期金利上昇の影響として懸念されるのは、住宅や自動車など、高額で、借り入れに頼った購買の比率が高い分野だ。特に足元の自動車市場については、販売業者がサブプライムローンを含めた融資攻勢で購買を支えている面があり、金利上昇により借り入れにブレーキがかかると、販売台数の水準が落ちる可能性がある。
・とは言うものの、前掲の(図表1)で述べたように、住宅や自動車には既に軽い一服感が漂っている。この点では、住宅や自動車が過熱状態から一気に悪化する、というような事態は見込みにくく、「山低ければ谷浅し」といったような、軽微な調整にとどまるものと予想される。
・また、そもそもどうして長期金利が上昇するかに立ち返れば、上昇の理由は景気が堅調だからである。景気が強くもないのに金利だけが上がるような状態(たとえば財政悪化懸念で国債が売り込まれるような事態、いわゆる「悪い金利上昇」)ではないために、悪質な金利上昇が景気を傷める、という展開にはなりくにいだろう。
③株価、社債価格反落の恐れ
・悪影響が大きく表れるとすれば、それは実体経済面より、むしろ証券・金融市場だろう。
・まず株式については、企業の増益企業が続いているものの、株価の上昇の方が速く、PER(株価収益率、株価÷一株当たり利益)は、近年では高めの水準にある(図表18)。しかし長期金利の水準を勘案したイールドレシオ(PER×10年国債利回り)は、長期的な低下傾向に沿った動きにあり(図表19)、金利も勘案すれば、株価は割高とは言えない、という結論となる。しかしそれば裏返した言い方をすれば、長期金利の低さに頼った株価の割安さと解釈できる。すなわち、金利上昇が生じた際には、株式市場は割安さの根拠を失うことになりかねない。
(図表18)
(図表19)
(図表20)
(図表21)
・国債の低金利に頼み、割高になっているのは、株式市場だけではない。投資家は国債金利が低すぎるため、利回りを求めて社債を買い進めている。そのため、社債と国債の利回り格差は、投資適格債でも(図表20)、ジャンク債でも(図表21)、かなり縮小した。足元は高値警戒感から利回り差がやや開いてはいるが、近年と比べれば低水準だ。
・ここで、利回り格差が「正常化」して開くとともに、「土台」となっている国債利回りの上昇が生じれば、社債価格の下落が大幅になる展開も否定できないだろう。
④公社債価格下落は広範囲に悪影響を
・社債価格の下落は、様々な悪影響を引き起こしうる。もちろん米国企業にとっては、資金調達コストが増大することになる。足元は、米国以外の企業も、低金利を活用しようと、米国内での米ドル建て社債発行を増やしてきた。こうした非米国企業も、資金調達がこれまでほどは安易にできなくなるだろう。
・ちなみに一部の海外企業は、米ドル建てで調達した資金を、米国の証券市場に投資する、といった、利ザヤ稼ぎ、マネーゲームに走っているのではないか、との疑念も強いようだ。もし資金調達が細れば、米国内の証券市場に売りが広がる、という展開が生じうる。
・加えて、米長期金利の上昇が米ドル高を招けば、海外企業にとっては、既発の米ドル建て債務残高の、現地通貨換算額が膨張し、債務の返済負担が増大する恐れも広がるだろう。
・また、国債のみならず社債の価格下落が懸念されるのは、そうした公社債が、レポ取引(買戻し条件付き債券売買取引、日本の現先に相当)の担保によく使われているからだ。国債や社債の価格が下落すれば、場合によっては資金の出し手は取り手に対し、追加担保の差し入れを要請する。資金の取り手が追加担保を供することができず、資金もすぐには返せない、となれば、レポ取引がデフォルトする。この場合、資金の出し手は担保の債券を売却して資金回収に走るので、そうした売りがまた債券価格を押し下げる、といった、悪循環を引き起こすことも生じかねない。
・さらに心配なのは、このところの銀行規制の強化で、米銀が社債などリスク資産の保有を減らしている点だ。社債価格の下落が進む場合、銀行が社債の売買市場への参加度合いを低減させているので、少ない売買高の中、社債の値段が急落する展開もありうるだろう。
⑤長期金利の上振れによる混乱が生じても、短期的なもので、タイミングもわからない
・もちろん、述べたような金融取引の決済不能の広がりなどが、金融システム全般を脅かすリスク(システミックリスク)に対しては、米連銀は既にリスクの可能性を踏まえて事態を注視しており、個別の案件はともかく、米国金融システム全体を揺るがすようなことにはなりくにいと考える。
・加えて、米国経済の回復度合いの緩やかさや、前述のような連銀の慎重な利上げ姿勢を踏まえれば、米長期金利が長期的持続的に大きく上昇し続ける、という展開は見込みにくく、最悪の場合でも、金利の水準訂正が短期的に急速に生じる形だろう。したがって、述べてきたような米国証券・金融市場の動揺が現実に起こるとしても、短期的な混乱であり、深刻な事態に陥るとまでは想定する必要は薄いと考えている。
・問題は、本当にそうした長期金利の急速な跳ね上がりが(実現する可能性が高いとは考えてはいるが)必ず起こるかどうかはわからない(跳ね上がりというより、極めて穏やかな金利上昇がゆっくり続くかもしれない)、ということだ。また、長期金利の跳ね上がりは、何かタイミングが決まったイベントにより引き起こされるようなものではないだろう。年央近辺とみられる連銀の利上げが迫るほど、長期金利の上振れは起こりやすいため、まず5~6月に前倒しで長期金利が跳ね上がる展開が想定できると考えてはいるが、上振れが始まる前日まで、その気配は捉えられないだろう。
・したがって、投資スタンスとしては、2015年央以降に、市場の波乱が米長期金利の上昇により引き起こされることが必ず実現する、という前提を元に投資行動を行なう、というより、そうした波乱が生じるかもしれない、ということを頭において、株高・外貨高(円安)時にレバレッジをかけた買いポジションを拡大しない、また波乱が実現した時にあわてない、という心構えを薦めたい。
(3)国内金融政策に対する市場の期待が、梯子を外される可能性
・日銀が、「2015年度を中心とする期間に2%程度に達する」ことを目標としている全国消費者物価の前年比は、生鮮食品を除くベースで、2014年11月分は0.7%(消費増税の影響を除く)しか上昇していない。前年比上昇率の低下は、7月から4か月連続だ。
・このため、日銀の物価目標は達成できない、との見方が広がっている。昨年12月17日付の、ブルームバーグによるエコノミスト33人を対象にしたアンケートでは、32人が、日銀の物価見通しが実現しない、と答えている。
・もし物価見通しが達成できない、との観測が広がる場合の市場の期待は、日銀は量的緩和をいくらでも追加するだろう、というものだと推察される。実際に黒田日銀総裁は、種々の発言で、目標を達成するために追加手段をいとわない、という姿勢を示し続けている。このため、物価上昇率が低迷すれば、追加緩和期待から、国内株価が上昇し円安が進む局面がありえよう。
・ところが、上記のアンケートでは、5人のエコノミストが、日銀は(2015年終わりまで展望しても)追加緩和しない、と答えている。すなわち、「日銀は物価目標を達成できないが、それでも追加緩和しない(あるいは追加緩和できない)」と考えている専門家が、最低でも4人はいることになる。実はこうした展開がありうると想定される。もしそれが実現し、その時追加緩和期待から国内株高や円安が進展していれば、梯子を外されることにより、極めて大きな反動が生じる(株安・円高が生じる)だろう。
・日銀が梯子を外す(追加緩和を行なわず、2%の物価目標達成をあきらめるか、達成時期を先送りする)要因は様々考えられるが、一つの可能性は、現在の物価上昇率押し下げに、原油価格下落が作用している、という点だ。現時点での原油価格の前年比下落は大幅だが、仮に足元の原油価格がずっと横ばいで推移するという前提を置けば、来年末に向けては原油による物価押し下げ効果が縮小していく(図表22)。
(図表22)
・すなわち、(あくまでも原油価格横ばいが続くという前提の下の議論だが)今年半ばに消費者物価上昇率が低迷していたとしても、そのまま放置しても原油効果の剥落からインフレ率が回復していくと見込まれれば、追加緩和を行なわなくてもよい、という結論になりうるのである(これに、エネルギー価格低迷による需要増効果が加わっていれば、なおさらだ)。
・したがって、国内株式市場や為替市場で、追加緩和間違いなし、との期待が広がる局面があれば、逆に警戒的に臨むべきだろう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2014年12月号)見通しと年間見通し(2014年1月号)のレビュー。
前月号見通し(2014/12/1時点)のレビュー
・12月の日経平均株価は、予想レンジ内での推移となった。2015年前半は、企業増益などを背景に緩やかながら上昇基調に向かい、2万円超えの可能性があると予想する。
②国内長期金利
・国内長期金利については、このところ予想が全く当たっていない。このため、2015年前半の予想レンジ下限を下方修正する。ただし、国内景気の持ち直しや米長期金利の上昇、日銀の追加緩和見送りの可能性を踏まえると、2015年内の長期金利上昇が見込まれる。
③外国為替相場
・3通貨のうち、米ドルは予想レンジ上限を超えたが、大きく上離れることはなく、ほぼ予想通りであったと言えよう。ユーロと豪ドルは予想レンジ内での推移となった。
・米ドルは実態からやや上方にかい離し過ぎていると考え、一旦は下振れのリスクが高いと予想する。ユーロは、足元のユーロ圏経済の低迷や追加緩和の可能性から、やはり当面は下値リスクが高い。豪ドルはやや売られ過ぎと考えている。
2014年年間見通し(2014/1/5時点)のレビュー
・2014年を通じて、日経平均株価はほぼ予想レンジ内での推移となった。特にレンジ下限は良く機能した。上限には届かなかったが、2015年には2万円乗せの可能性を見込む。
②国内長期金利
・国内長期金利の見通しは、全く外れてしまった。米長期金利のこれほどまでの低水準での推移や、消費増税後の国内景気の戻りの遅さを予想できなかった。ただ、国内株価や円相場の水準などと比較して、いくら量的緩和があっても、長期金利水準は低すぎると考える。
③外国為替相場
・2014年の外国為替相場は、米ドルの年末に向かっての上昇は想定以上であった。また、ユーロはやや想定より強く、豪ドルは若干想定より弱い動きとなった。
・ただし、年初に策定した予想レンジは、概ね的確なものであったとは言えるだろう。
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