(略)
そしてこの前年に高崎の改装、さらに渋谷、吉祥寺、郡山のオープンと走り回っていた小海も、
文芸書の陣頭指揮をとるために仙台へ何度も通った。
「もうあの頃のことはごちゃごちゃになってよく思いだせません」
と苦笑いする。
震災前には丸善を入れて三店舗だったのが四店舗になり、
それぞれの店の商品構成も特徴を持たせる形であらためて考え直し、
新規商品を発注し、移動スケジュールに合わせて棚づくりを考え、とかで、
もう頭が混乱して──。
そんな小海であったが、佐藤のことはよく覚えていた。
「同じ文芸担当だったので以前から佐藤さんのことは知っていましたけど、
この大移動であらためて真面目で一生懸命だけれど、
ちょっとひととテンポの違うユニークなひとだなって思いました」
などと話していた。
ジュンク堂にはちょっと変わった社員がそこここにいて、
そんな「変わったひと」がのびのびと仕事ができる自由な雰囲気が
私には好もしく思えていた。
二○一二年六月に佐藤は『月刊佐藤純子』という
三〇代女性(書店員)の日常を描いた漫画を出版した。
へー、佐藤さんって漫画を描くんだ。
よく聞くと、池袋店のすぐそばの雑司ヶ谷で開かれている雑貨や古本などを販売する
「みちくさ市」にも個人として出品しているらしい。
オビには「そのとき書店は、人々にとっての光になったのだと思う」
という三浦しをんさんの言葉が記されている本だ。
(略)
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★「書店不屈宣言 わたしたちはへこたれない」
田口久美子著 筑摩書房 1,500円+税 2014.7.10.初版第一刷
P.193~194より抜粋
著者は今でも現役なベテラン書店員で、
3社を渡り歩いてきた経験豊富かつエピソード満載な女性だ。
村上春樹の書籍にも相当に通じていて、引用文も多い。
なのでハルキストとしては、その引用を存分に楽しめる。
電子書籍に対する見識も、そうとうに研究をされており見事なものだ。
概ね悲観的なそれは、しかし、書店はこれからも潰れないんだという戦う意思へと昇華される。
ここに登場する書店員は、すべて実名と思われる。
そこがイイ。
実際に、ジュンク堂池袋店へ赴きたくなること請け合いだ。
中でも、著者の田中久美子に会いたい。
会って、話をしたい。
手短にハードボイルド風に、すべて話せるはずだ。
スペイン酒場で出会った元新聞記者&作家の森さんに話したように。
そして、落選した小説を手渡したい。
それできっと、全部伝わるはずだ。
*
9/17(水)正午付近、読売新聞本社へ電話を入れた。
ある質問があったからだ。
受付嬢から回されて応答したのは、男性職員だった。
とても親切な対応だったので、感心してしまった。
質問事項はこうだ。
「日曜日の『本よみうり堂』に月一回掲載されてきた、
三浦しをんさんが出てこないのは、なぜですか?」
「あれ・・・、もしかしたら契約の問題かもしれませんね。
たとえば二年契約とかあるんですよ。
ちょっとお時間をいただけますか、調べてみますので」
その間、保留音楽が5分以上は流れたと思う。
「あの・・・、ちょっと理由がわからないんですが、すみません」
という男性職員の返答だった。
「最近、言論の世界も怖くなってきたので、どこかから圧力でもかかりましたかね?」
「いやぁ、そんなことはないと思いますが」
「そうですよね、スポンサーの強いTVとは違いますよね。
どうも、ご親切にありがとうございます」
と言って、電話を切った。
なにかの都合で休みなのかもしれない。
そうだったらイイのにと思う。