(略)島じゅうの山に咲きほこっていた、不吉な赤い花。
どうかしていると思った。
そんな名前を娘につける信之も、獣のように輔(たすく)のまえに這いつくばっている女も。
「椿が変質者にいたずらされた。あなたのアパートに行った日に」
だからもう会えない、と南海子(なみこ)は苦しみを絞るように言った。
輔は見上げてくる南海子の視線を慎重に受け止めた。
引き止めてほしがっているのか、「わかった、じゃあね」と言ってほしがっているのか、
どちらだろう。
いずれにせよ、決断を輔に委ねる、おもねるような色があった。
こうなると思っていた。こうなればいいと思っていた。
子どものころから、ずっと。
大きな波がやってきて、すべてを海にさらっていく。
誰かを痛めつけたものは、いつか必ず復讐される。
見て見ぬふりをしたものも、
暴力の庇護下でのうのうと平安をむさぼるものも、
みな例外なく報いを受ける。
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★「光」
三浦しをん著 集英社文庫 2013.10.25.第1刷 2014.6.7.第4刷 P.162~163より抜粋
1 南海子という名前 → オイラが今世話になっている会社の会長名は南海雄という。
2 黒川という名前 → 相手方の解雇された社長名ではないが、歴代にこの名前が君臨している。
3 信之の職業 → 川崎市の公務員である(オイラは県職だった)
4 椿 → 作品の冒頭から出てくる椿は、この作の象徴である。
椿というと、オイラの大好きな黒澤映画の「椿三十郎」を想起する。
5 光 → これはオイラが体験した白旗神社で遭遇したものだ。
何とも言えない暖かみのある、光のモールス信号。
それから、オイラの大学時代の他界したボスは、「ヨード卵光」の発明者だ。
これに昨日書いた関連の3点を加えると、
この作品はオイラにとって、相当に因縁めいた物語となっている。
そして、上に上げた赤字の部分は、まるでオイラの心中を代弁するものになっている。
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初代ルパン三世のシリーズの中に、
ルパンと石川五右衛門が最初に対立していながら、最後には仲間になる物語がある。
傑作だとオイラは思っている。
オイラにはこのルパンが、村上春樹に思えてきている。
石川五右衛門が、オイラなのである。
五右衛門は、結局は師匠だと思っていた男に騙されていたのだ。
(県職上部は、魑魅魍魎どもに支配されていたのだ)
それを結果的に、ルパンが救うというシナリオだ。
デイヴィッド・ゴードンは米国人のなのだから、どうどうと拳銃を所持できる。
なので、彼は次元大介だ。
となると・・・。
峰不二子ちゃんは、三浦しをんってことになっちゃうんだな、これが。。
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「光」のラストシーンは、真っ赤な椿が咲き乱れる情景で終わっている。
「椿三十郎」では、赤でも白でも、椿が隣の家から小川を流れてきたら、
それが攻撃開始の合図なのであった。
オイラの受けた傷から流れ出た血が、
三浦しをんを刺激して「光」が生まれたかのような錯覚を覚えるしかない。
あるいは、この作品が生まれたのは、オイラの免職前のようだから、
錯覚でないとしたら、それは予言になるのだろう。
だとしたら、「1Q84」と組み合わさるとこれは、
ペンという武器を通じた相当な武力になるのではないか?
PS:このあいだTV東京の番組を視ていたら、
日本の観光地で外国人に人気があるのはどこなのか発表があった。
驚いたことにそのトップになったのは、
三島由紀夫の書いた「金閣寺」でもなく、平家の氏神「厳島神社」でもなかった。
なんと「伏見稲荷大社」だったのだ。
世界は不思議だと、つくづく思う他はない。
世界中で読まれている「1Q84」には、きっと ” ウインダム ” が憑いている。