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広瀬川の幽霊(3)8月1日(金)18時08分

 (世の中には、怖い話が苦手な人がおります。無理して読まないことが、平穏な生活になります。)


車のエンジンは幸い軽快に動きました。信号無視をしたかもしれませんが、その時刻は深夜なので、信号機は黄色の点滅がほとんどでしたので、幸い、交差点での衝突事故にはなりませんでした。気持ちが動転しているので、そしてどこをどう走ったのか、よく覚えておりませんが、郊外のそして辺りが畑で、寂しい処に来てしまいました。遠くに農家らしき点在が、星明かりか何だか分かりませんが、木々の暗闇の中に、ほのかに見えました。ふっとする思いでした。この辺りは前橋大室公園で、そうすると1キロ先は赤堀の5差路に出る。


 やや安堵の中で運転していると、助手席の修子は言いました。今まで何も言わない修子でしたが、少しうつむいた顔で小さな声で、最初は「くっくっくっくっ」とかといった感じで、うつむき加減に笑ったようでした。そしてはっきりと、その声です。

「もう、いいんじゃない。」


 私はぞっとして心臓が破裂しそうでした。恐ろしさが一気に広がりました。その声は、修子の声では無かったのです。一体この女は誰だ。

 そして、女の顔が面を上げ、静かにこちらを向き、その手がハンドルを握る左手をつかみました。か細いごわごわした腕でした。それは氷の様に冷たかったのです。そして対向車の光が目に射しました。わたしの記憶はここで終わります。


 次の日の早朝、辺りが白み始めの頃、大型トラックと小型車の正面衝突の現場検証が有りました。事故の現場検証で、大型トラックの運転手は言いました。「急に、対向車が向きを変え、こちらに突っ込んできた。どうしようも無かった。避けられなかった。」「確か2人の同乗者のはずだ。確かに見えた。運転席は男で、助手席は確か、老婆のようだった。」

 小型車からは、一人の男性の遺体が運ばれたそうです。他には、死傷者は無かったとの事です。



    (完)




 



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