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下町の太陽から(7)3月28日(金)9時59分

 話がずれるので、歌の世界に戻ろう。この先、この歌の世界ではどうなるかと思うが、たとえ歌謡曲不毛の時代となっても、これも時の流れの一コマと捉えれば、あれこれ考えることもあるまい。人は千年も生きられない。この宇宙の時のなかでは、果たして、あったかどうかも定かでない、わずかな寿命しかない。


 男っぽい歌もある。村田英雄の「無法松の一生」と三橋美智也の「一本刀土俵入り」である。

ここでは「一本刀土俵入り」を述べてみよう。前橋には駒形町がある。両毛線では駒形駅がある。この駒形出身の茂兵衛は実在の人物である。そしてやくざではなく、地元の有力者であった。この茂兵衛は江戸時代の人である。徳川幕府の年貢の重さに耐えかねて、幕府に直訴した人物である。


「上毛かるた」には、「天下の義人 茂左衛門」がある。この茂左衛門も実在の人物である。沼田城主の悪政を、幕府に届けたのである。そして家族もろとも磔の刑になったのである。「駒形茂兵衛」も同じく、幕府に直訴したのである。そして、幕府に直訴した罪で、家族と共に死罪になったのである。


ここで歌舞伎では、本当の事が言えない。幕府が悪いなんて演じれば死罪になる。そこで、駒形茂兵衛をやくざにして、相手方の悪いやくざ(徳川幕府)を懲らしめる話にしたのである。これが「一本刀土俵入り」である。江戸時代でも、これは口こみで、当然知れ渡っていたのである。歌舞伎見物では、茂兵衛に、やんや、やんやの喝采をしたのは、当然である。当時の歌舞伎は、農民歌舞伎で、普段は百姓で生計をたてているが、冬の農閑期に、地元農民は茂兵衛を讃え、弔ったのである。このようにして芝居小屋を、竹材などを利用して作り楽しんだ。(茂兵衛の弔いとしても)。


今の東京の歌舞伎座というような立派なのではない。むしろとか、ござで覆った粗末な舞台である。どさ臭いと言われるかもしれないが、わたしには歌舞伎座の歌舞伎よりも、農民歌舞伎の方が、魅力がある。そこには農民の生活を感じられるからである。ただ美しいだけで他に何もないのは、ぬけがらが、格好だけつけて演技しているように思えてならない。歌舞伎座では、生活感覚のない芝居なのである。それで歳をとれば勲章とかの話は、わたしに言わせれば、ふざけた話である。最近まで駒形町の広瀬川沿いに、茂兵衛地蔵尊があったが、無くなっているのが、残念である。





 



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