東京ディズニーリゾート(TDR)の開業30周年イベントのスタートを4月に控えた
オリエンタルランド(OLC)が、早くも「ポスト30周年」に向けた布石を打つ。
OLCは3月29日付で、長谷工コーポレーションからホテル運営子会社のブライトン
コーポレーションを買収する。買収金額総額は、ブライトンの株式(約5億円)に加え、
その借入金(100億円台後半)を肩代わりすることから、合計で100億円台後半程度
。OLCの100%出資するミリアルリゾートホテルズが子会社化し、OLCにとっては
孫会社となる。
ブライトンは、TDRのパートナーホテルでもある浦安ブライトンホテルの運営会社。
そのほか、京都ブライトンホテル、ホテルブライトンシティ京都山科、ホテルブライトン
シティ大阪北浜を含め、計4ホテルを展開している。
このうち、浦安ブライトンと京都ブライトンは、「婚礼や宴会、レストランなども含め
、ハイクオリティな総合サービスを提供するラグジュアリーホテルであり、当社グループ
が舞浜で展開している3つのディズニーホテルに近い」(OLC)。
「ディズニーホテル」とは、ミリアルリゾートが浦安市舞浜のTDRエリアで直営する
、ディズニーアンバサダーホテル、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ、東京ディズ
ニーランドホテルの3ホテル。TDRエリアには、このほかホテルオークラ東京ベイ、サ
ンルートプラザ東京、ヒルトン東京ベイなど、OLC系ではない6つの「オフィシャルホ
テル」がある。
ディズニーホテルもオフィシャルホテルも、入場制限が行われるような混雑時でもパー
クに入れる「安心の入園保障」や、「パークで遊んで、ホテルでひと休み」、「無料のバ
ゲッジデリバリーサービス」など、TDRエリアのホテルならではの宿泊ゲスト特典があ
る。それが、周辺の他ホテルに対する大きな差別化になっている。
一方、今回買収するブライトン傘下の浦安ブライトンホテルは、TDRエリアではなく
、その近隣・周辺にある「パートナーホテル」の位置づけ。TDRと同じ千葉県浦安市内
ながら、最寄り駅がTDRと同じJR舞浜駅ではなく、隣のJR新浦安駅周辺にある5つ
のホテルが、パートナーホテルに指定されている。その中には、OLC系(ミリアルリゾ
ート直営)のパーム&ファウンテンテラスホテルも含まれる。
パートナーホテルは、ディズニーホテルやオフィシャルホテルに比べて宿泊ゲスト特典
に若干の差がある。ホテル内での「パークチケット販売」やホテル・TDR間の「シャト
ルバス運行」などの特典では共通するが、「安心の入園保障」や「パークで遊んで、ホテ
ルでひと休み」、「無料のバゲッジデリバリーサービス」といった特典は、パートナーホ
テルにはない。
今回の買収で浦安ブライトンがOLC直営になることにより、ディズニーホテルやオフ
ィシャルホテルに“昇格”することはあるのか。今のところ、「それはない」というのが
、OLC側の公式見解。つまり、同じOLC系で新浦安駅を最寄り駅とするパーム&ファ
ウンテンテラスホテルが、パートナーホテルの位置づけにとどまっているのに準じた扱い
になる。
なお、ホテル内でミッキーマウスなどディズニーキャラクターを活用できるのは、OL
C直営の3つのディズニーホテルのみ。OLC直営でない、TDRエリアの6つのオフィ
シャルホテルでは、ディズニーキャラクターの活用は認められていない。まして、パート
ナーホテルである浦安ブライトンにミッキーが姿を見せることは、今のところなさそうだ
。
TDRやディズニーとの関係が大きく変わりそうにないにもかかわらず、OLCがブラ
イトンを買収する意図はどこにあるのか。「最大の目的は、浦安と京都の“ラグジュアリ
ーホテル”を取得すること」とOLC側は説明する。
浦安ブライトンは現にTDRのパートナーホテルであり、「当社が推し進めている、(
地方などからの)TDR来園者に対する宿泊滞在型利用の促進につながる」(OLC)。
また、京都ブライトンについては、「日本有数の観光地である、京都のラグジュアリーホ
テルで、TDRでの経験や実績を生かせることは大きい」(同)という。
なお、ブライトンが運営する、残りの2ホテル(ホテルブライトンシティ京都山科と同
・大阪北浜)は、ラグジュアリータイプではなく、宿泊特化型のビジネスホテル。OLC
側では、これら2ホテルについては、「買収の主目的ではない」と言い切るものの、「安
定的な収益を上げられると考えている」(同)とし、引き続き運営していく意向だ。
これまで、巨大な人口集積地・東京に隣接する浦安市「舞浜」の好立地で、「ディズニ
ー」という世界最強のコンテンツ・キャラクターを活用し、収益成長を続けてきたOLC
。とはいえ、最近の例で見ても、11年3月11日の東日本大震災直後、TDRの施設へ
の被害は軽微だったものの、周辺の道路インフラなどが打撃を受け、1カ月強の休業を余
儀なくされたこともある。
11年度の前半(11年4~9月)には、震災後の外出レジャー自粛の動きもあり、T
DR再開後しばらくは来場者数が伸び悩んだ。「舞浜」「ディズニー」の強さゆえに、O
LCには事業の一極集中のリスクがつねにつきまとってきた。
そうしたリスクを分散させるためにも、脱「ディズニー」、脱「舞浜」は、OLCの大
きな中期的課題の1つ。首都圏以外の大阪や福岡で屋内型ディズニー施設の構想を模索し
たり、舞浜のTDR隣接地で「シルク・ドゥ・ソレイユ」(サーカスを基調としたショー
)を08年に開設したりするなどの取り組みを行ってきた。結局、首都圏ほどの集客は見
込みにくいことから、大阪などへの進出は断念。シルク・ドゥ・ソレイユについても観客
のターゲットを絞りきれず、11年末で撤退を余儀なくされた。
あまりにも強すぎるTDRのテーマパーク事業。それに匹敵する新規事業はなかなか見
つからないというのが、OLCのこれまでの現状だった。
もっとも、広い意味では大部分がTDRに含まれるものの、テーマパーク事業とは一線
を画する「ホテル事業」が、OLCではそれなりのボリュームに育ってきている。
12年4~12月期(9カ月分)の実績で、OLCの売上高全体に占める構成比では、
テーマパーク事業の84%に対し、ホテル事業は12%と、7分の1程度に過ぎない。が
、事業部門別の営業利益率で見ると、テーマパークの24%に対しホテルは28%。意外
にもホテルがテーマパークを上回る高収益事業となっている。
今回買収するブライトンの収益規模は、前11年度実績で売上高が102億円、営業損
益が1億円程度の赤字と見られる。3月末にブライトンを買収する際には、赤字経営と見
られる蓼科ブライトン倶楽部(会員制ホテル)を切り離すこともあり、「取得する4ホテ
ルの合計では現状でも黒字」とOLC側では説明する。
買収金額が買収先の純資産を上回る場合に発生する、のれん代(営業権)の償却費用な
どが出てくる可能性もあり、ブライトンが実質初年度の来13年度からOLCの利益にど
の程度寄与するかは不明だ。
ただ、浦安ブライトンについては、パートナーホテルの位置づけは変わらないとしても
、OLC側からの送客が今以上に期待できそう。京都ブライトンについても、TDRのデ
ィズニーホテルと同じラグジュアリーホテルであることから、一定の相乗効果を発揮でき
そうだ。
また、京都山科と大阪北浜にブライトンが展開しているビジネスホテルを含め、OLC
にとっては事実上初となる、西日本への本格的な“足場”を築けることも大きい。
この4月15日から来年3月20日まで、1年近くにわたってTDRで行われる開業3
0周年イベントを終えた後に、OLCは次の一手をどう繰り出すのか。30周年イベント
がほぼ終盤を迎える来年の年明け早々にも、ポスト30周年の方向性を示す、中期経営計
画が出てくるはずだ。
なお、OLCの業績に対する今回の買収の影響は、今12年度については期末の買収と
なるため軽微。来13年度は売り上げで100億円程度の上乗せ要因になりうるが、利益
面では僅少と見られる。東洋経済ではひとまず、12年度については「会社四季報」新春
号(昨年12月発売)予想を継続。来13年度も下表のように、収益成長が続くと見てい
る。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2012.03 360,060 66,923 66,238 32,113 385.0 100
連本2013.03予 390,000 80,000 80,000 51,000 611.0 120
連本2014.03予 415,000 90,000 90,000 57,000 682.9 120-140記
連中2012.09 188,387 39,080 39,141 25,536 306.1 60
連中2013.09予 205,000 45,000 45,000 28,000 335.5 60-70記