語源の快楽(17)-鬼のいぬ間の洗濯

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語源の快楽(17)-鬼のいぬ間の洗濯

 T氏から聞いた話です。
 碁仲間のK氏から、「今日は女房が留守です。打ちに来ませんか?」という誘いにホイホイと乗ってK氏宅へ出かけた。夕方まで碁友二人で充分楽しんで、さあ、帰ろうとしたところ、玄関先で奥さんのご帰宅にバッタリ出会わせた。びっくりして、とっさに「鬼のいぬ間に洗濯をしていました」と、とんでもないご挨拶が口からでてしまったそうだ。 まぁ、口から出たものはしようがない。

 ところで、この「鬼のいぬ間の洗濯」という諺、一般的な意味は誰もが知っているように「主人や監督者など、気兼ねしたり、恐れたりする人がいない間に、気楽に寛(クツロ)いで息抜きすること」だから、T氏の用法は間違っていない。鬼に面と向かって言ったのは大失態ではあったが・・・。

 不思議なのは「洗濯」だ。洗濯は労働だ。そんなものをいくらしても、寛げるとは思えない。調べてみました。

 英語では
"When the cat’s away, the mice will play."(猫がいない時、ネズミは遊ぶ)
これは分かりやすい。ネズミがK氏とT氏、猫がK氏の奥さんだ。

何時もお世話になる「語源海」にこの諺は収録されていなかった。広辞苑で「洗濯」を引いてもそれらしきものは出ていない。「鬼」で引いたらありました。

鬼のいぬ間に洗濯=はばかる人のいない間に、命の洗濯をする。思う存分楽をするにいう。
なぁんだ。正しくは「鬼のいぬ間に命の洗濯をする」だったのですね。
 こういうようにキーワード「命」を脱落させた省略形はあんまりよくないと思うが、他にも例がないではない。

「鬼に金棒」といわれる。「ただでさえ強いものが最高の条件がそろって更に強力になる」という意味はこれで十分通るが、正しくは
鬼に金尖棒(カナサイボウ)
と言う。
金尖棒とはイボが一杯でている太い鉄の棒の武器です。鬼の絵によくでてくるあれですが、これもいつの間にか「尖」が抜け落ちてしまっている。

 もう、はるか昔の古い話。
 鉄棒を得意としたオリンピックで日の丸を揚げた体操の小野喬選手のこと。当時の新聞は「小野に鉄棒」と称えたのを覚えている人はもう少ないでしょう。
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