―沖縄北部と横浜で大規模パークの構想が進行中、人流増で周辺産業に商機は拡大へ―
国内で巨大テーマパーク の建設構想が相次いで打ち出されている。モノづくりの分野から、コンテンツやサービスといった領域へ産業構造の転換を迫られている日本にとって、観光立国の実現を目指す動きはもはや不可逆的なものとなったと言っていい。VR(仮想現実)など最先端の技術を導入するアトラクションが次々と誕生することも見込まれており、関連銘柄の業績に浮揚力を与える可能性が高まっている。
●「お買い物天国」状態は当面は継続か
日本政府観光局によると、10月の訪日外国人客数は、単月として初めてコロナ禍前の水準を上回った。中国人観光客の回復の鈍さが指摘されるなかで、欧米や東南アジアからの観光客数が増加の一途をたどっている。
インバウンド需要の増加には円安の影響も大きいと指摘されている。そのドル円相場は11月に1ドル=151円台をつけた後、円安基調は一服し、足もとでは日銀による金融政策の正常化への思惑もあって荒い動きをみせている。それでも市場では「120円を下回って推移していたかつての水準と比べれば、円安基調であることには変わりがない。中国人観光客がコロナ禍からの落ち込みから戻り切っていないなかで、日本は依然として海外からみて『お買い物天国』。インバウンド関連は当面は有望な投資先となる」(国内証券アナリスト)との声が出ている。
観光業界の事業環境は一気に好転し、国内景気に好影響をもたらしたが、日本経済が今後もインバウンド需要にあずかり続けるには、「リピーター」づくりが欠かせない。そこで必要となるのが新たな観光コンテンツであり、テーマパークが果たすべき役割は大きい。
11月27日、沖縄県北部でのテーマパークプロジェクトのコンセプトとブランド名が公表された。その名は「JUNGLIA(ジャングリア)」。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の経営再建に携わった森岡毅氏が代表を務める刀(大阪市北区)が参画する巨大テーマパーク構想とあって、大きな話題を呼んでいる。世界自然遺産「やんばる」が広がる沖縄県北部で、恐竜に追われる体感型アトラクションや気球ツアー、スパ体験が楽しめる施設を2025年にオープンするという。
9月には、横浜市の旧上瀬谷通信施設地区における「テーマパークを核とした複合的な集客施設」の立地に向け、三菱地所 <8802> [東証P]が事業予定者となることが決まった。同社が市に提案した「KAMISEYA PARK(仮称)」の事業コンセプトでは、日本のコンテンツと最先端の技術を活用した敷地面積51ヘクタール規模の「ワールドクラス」の次世代型テーマパークを導入し、31年頃に開業する計画。開業時の総来客数は年間1200万人を見込むという。
既存の施設のリニューアルや拡張の動きも活発化している。前述の刀は24年春に東京・お台場の旧「ヴィーナスフォート」で、完全没入体験ができる12種類のアトラクションなどを備えた「イマーシブ・フォート東京」を開業する。USJを運営するユー・エス・ジェイ(大阪市此花区)は12月5日、任天堂 <7974> [東証P]の人気キャラクター「ドンキーコング」をテーマにした新たなエリアを24年春に世界で初めてオープンすると発表した。
●人流増加の効果はテーマパーク周辺にも拡大へ
USJが非上場なのに対し、「東京ディズニーランド」のオリエンタルランド <4661> [東証P]はテーマパーク関連株の筆頭格だ。福島県の「スパリゾートハワイアンズ」を展開する常磐興産 <9675> [東証S]や、「富士急ハイランド」の富士急行 <9010> [東証P]、「サンリオピューロランド」のサンリオ <8136> [東証P]も代表銘柄となる。
電鉄株では富士急のほか、西武ホールディングス <9024> [東証P]が「西武園ゆうえんち」や「横浜・八景島シーパラダイス」を展開。20年8月に閉園した「としまえん」の一部敷地では西武鉄道と米配給大手ワーナー・ブラザース・ディスカバリー
既存のテーマパークの多くはすでにインバウンド需要を満喫している状態にあるが、巨大テーマパークの建設は運営企業だけでなく、周辺企業の業績にも中期的なインパクトを及ぼしそうだ。「JUNGLIA」の運営会社にはオリオンビール(沖縄県豊見城市)や、近鉄グループホールディングス <9041> [東証P]などが参画。サムティ <3244> [東証P]や全保連 <5845> [東証S]も運営会社への出資を明らかにしているほか、琉球銀行 <8399> [東証P]やおきなわフィナンシャルグループ <7350> [東証P]も金融面でバックアップしている。JUNGLIAの成功は各社にそれなりのリターンをもたらすと期待されるが、沖縄県内でスーパーや商業施設を展開するサンエー <2659> [東証P]にも、観光客の増加は業績を押し上げる効果を及ぼすだろう。外資系高級ホテルとともに、地場企業系のホテルが数多く立地する県内では、リソルホールディングス <5261> [東証P]や藤田観光 <9722> [東証P]、ロイヤルホテル <9713> [東証S]も現地でホテルを運営。宿泊施設関連も成長余地が広がりつつある。
横浜のテーマパーク構想では、旧上瀬谷通信施設地区の南部に駅を構える相鉄ホールディングス <9003> [東証P]や、周辺にバス路線を持つ神奈川中央交通 <9081> [東証P]がアクセス面で協力を求められる公算が大きい。人流の変化に伴って宅地開発が進めば、ASIAN STAR <8946> [東証S]など地場の不動産企業に商機をもたらすに違いない。
また、横浜市は「ポケットモンスター」関連の大型イベントなど公民連携でさまざまな取り組みを行っていることから、地元ではポケモンに関連した大規模テーマパークが誕生するのではないかとささやかれている。ポケモンパンで知られる第一屋製パン <2215> [東証S]、ポケモングッズを手掛けるエスケイジャパン <7608> [東証S]なども恩恵を享受する可能性がある。加えて、旧上瀬谷通信施設地区では国際園芸博覧会の開催も予定されており、市内に本社を置くサカタのタネ <1377> [東証P]の造園事業に追い風が吹きそうだ。
●デザイン関連・遊戯施設・VRも恩恵享受
このほか、テーマパークの新設・拡張は、乃村工藝社 <9716> [東証P]や丹青社 <9743> [東証P]、スペース <9622> [東証P]などディスプレー企画を手掛ける企業の業績回復スピードを一段と速めることとなるだろう。アトラクション設備の需要増の恩恵を受けるのが、ジェットコースターなどで多くの納入実績を持つ三精テクノロジーズ <6357> [東証S]だ。中期経営計画では、遊戯機械事業のグローバル化を進める戦略を示し、25年3月期に最終利益40億円(24年3月期見通しは20億円)を計画する。配当利回りは3.6%近辺とあって、200日移動平均線を一時的に下回った株価水準は押し目買いの好機にも映る。
サノヤスホールディングス <7022> [東証S]も傘下企業が観覧車をはじめ、富士急ハイランドの「ええじゃないか」などの販売実績を持つ。東京・お台場のパレットタウンで大観覧車の営業が終了したことに伴い、23年4~9月期のレジャー事業は減収減益となったが、来期以降の業績拡大と、140円近辺で推移する株価の反騰モメンタムの高まりに期待したい。
映像制作技術サービスを主力とするIMAGICA GROUP <6879> [東証P]は、AR(拡張現実)やVRコンテンツの企画などを展開。同社には1倍を下回る株価純資産倍率(PBR)の是正に向けた思惑が広がっている。加えて、ピー・ビーシステムズ <4447> [東証G]は360度スクリーンに3D映像を切れ目なく表示する特許をもとに、VR空間を生み出す「4DOH」シリーズの製造販売を手掛けているが、株価は割安感を強めている状況だ。
パナソニック ホールディングス <6752> [東証P]のグループ企業とともに大阪メトロに顔認証型の次世代改札機を導入する高見沢サイバネティックス <6424> [東証S]の製品は、テーマパークでも活躍が見込めそうだ。テーマパーク向けセントラルキッチン事業を持つ櫻島埠頭 <9353> [東証S]、音響・映像サービスのヒビノ <2469> [東証S]なども関連銘柄に位置付けられている。
株探ニュース
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