―オンラインでの大会開催相次ぐ、5GやAI駆使しコロナ禍でも大型イベント目白押し―
eスポーツに熱い視線が向けられている。新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、さまざまなイベントが中止や延期を余儀なくされているが、こうしたなかスポットライトが当たっているのがeスポーツだ。ここ数年は、集客を伴う大規模イベントとしても注目を集めていたが、最近ではオンラインでの大会開催決定が相次いでいる。eスポーツとオンラインは、もともと親和性が高く、これを契機に更なる市場拡大が期待されている。コロナ禍のいま、活発化の様相を見せるeスポーツ市場と関連株の動向を追った。
●続々とイベント開催決定!
eスポーツは、ここ数年株式市場でも注目されており、関連株には折に触れて物色の矛先が向かったが、正直なところ理想買いの段階から抜けきることができなかった。しかし、コロナ禍のいまニューノーマル(新常態)で活躍期待が高まるセクターの一角として関心が集まり始めており、これを契機に次のステージに向けて一気に駆け上ろうとしている。
エンターテインメントやスポーツ分野などで、ここ大会の中止や縮小が相次ぐが、こうした現下の状況とは逆にeスポーツを巡る動きは旺盛だ。日本eスポーツ連合(JeSU)は7月8日、経済産業省のコンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金の採択を受け、国際的eスポーツ団体主催の大会へ派遣を行うための日本代表を選抜する「eスポーツ日本代表選考会」を9月に実施すると発表。新型コロナ感染拡大の影響で、集客を伴うイベントの実施が困難になるなか、会場を訪れることなくオンラインでも盛り上がることができるeスポーツの特徴を生かし開催する。都内でAR(拡張現実)や5G、AIといった先進技術を用いて日本代表選考会を行い、配信コンテンツとして国内外に発信するという。
更に、同月21日には、かごしま国体文化プログラムeスポーツ実行委員会(27日に全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA実行委員会に名称変更)が、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA」を継続して実施することを発表した。かごしま国体・大会実行委員会事務局は、かごしま国体の延期決定を受けて文化プログラム事業を中止することを決定し、同選手権はかごしま国体・大会文化プログラムではなくなった。しかし、eスポーツ実行委員会では、同選手権が各都道府県から日本一を目指すeスポーツの大会として毎年継続して実施することに意義があるとし、大会の実施に向けて引き続き準備を進めていくことを決定している。
●先行投資から企業活動として現実味
eスポーツ業界を取り巻く状況も変化している。あるeスポーツを運営する関係者は「少し前までは、eスポーツ事業については将来に向けての先行投資的な色彩が強く、企業としての収益という面では微妙だった。ただ、ここにきては企業活動としても現実味を帯びてきた」という。また、別の企業の担当者は「一つひとつの大会では、採算が取れはじめている。恐らくこれは当社に限らず、他社でもそうだろう。一般的な収益構造としては、スポンサー収入が大きな部分を占めており、いかにスポンサーやファンに向けて魅力的な大会にしていくか、そしてそれを継続的に開催していけるかがポイントとなる」と話す。
●大手企業も続々参入
さまざまな業種のeスポーツを巡る取り組みも目立ち始めた。直近では、7月8日に凸版印刷 <7911> とサイバー・コミュニケーションズ(東京都中央区)は共同で社会人eスポーツリーグ 「AFTER 6 LEAGUE」の設立を発表。今月から参画企業の受け付けを開始し、20年度内に登録企業数50社、年間約200試合、登録ゲームタイトル数6本を目指すという。6月には、電通グループ <4324> 傘下の電通が、eスポーツ事業をグローバルで推進するため、グローバル・eスポーツ・フェデレーション(GEF)と戦略パートナシップを締結したことを発表した。GEFは、昨年12月にシンガポールで設立されたeスポーツの国際団体で、日本ではJeSUが加盟している。今後両者で、世界的普及を目指し新たなマーケティングプログラムやeスポーツイベントなどの開発に取り組む方針だ。また、1月には、NTT東西、スカパーJSATホールディングス <9412> 傘下のスカパーJSAT、タイトー(東京都新宿区)などが共同で、eスポーツ分野のための新会社「NTTe-Sports」を設立している。
●C&Rは「eスポーツ企業対抗戦」
こうしたなか、クリーク・アンド・リバー社 <4763> は、NTTe-Sports、大日本印刷 <7912> と共同で、6月から「eスポーツ企業対抗戦」をオンラインで開催し動画配信を行っている。C&Rは、過去5回にわたりeスポーツ企業対抗戦を企画・運営してきたが、多くの大会が延期や中止となる状況を受け、社会人プレイヤーが熱戦を繰り広げられる場を提供するため、初めてオンラインに開催場所を移した。同社では「(eスポーツは)間違いなく伸びるとみている。もともと日本では、草の根的な大会も含めて開催が非常に多いと言われているが、更に加速するのではないか。企業対抗戦については、都市対抗野球に近い、いうなれば実業団的なイメージだ。いままでeスポーツに関心の薄かった人も、企業対抗戦では“おらがチーム”を応援しており、すそ野の広がりを感じている」(デジタルコンテンツグループ)。コロナ収束後については「オンラインでの開催も継続していくつもりだ。ただ、決勝などいわゆるビクトリーマッチに関しては、やはりリアルイベントで行いたい」(同)と話す。同社は業績も好調だ。7月9日に発表した21年2月期第1四半期(3-5月)の連結業績は、売上高が前年同期比15.2%増の94億8600万円、経常利益は同34.5%増となる10億6200万円で着地。国内クリエイティブ分野で主力のテレビ、ゲーム、Webの派遣・請負事業に加え、YouTubeや電子書籍などの案件が伸びた。経常利益の上期計画(14億円)に対する進捗率は75.9%に達しており、業績上振れ期待も出ている。
●ピアズ、eスポーツイベント企画運営受託事業を展開
通信キャリアの販売代理店を中心とした研修コンサルなどを展開するピアズ <7066> [東証M]もeスポーツ分野に進出している。同社は昨年11月、eスポーツイベント企画運営受託事業をスタート。若年層向けゲーミングスマホを製造販売する携帯製造販売業者の販売促進を支援するのが狙い。事業内容としては、スポンサーのコアゲーマーへのリーチや、新たなユーザー層の開拓などを目的としたeスポーツ業界参入の橋渡し役となり、情報管理や広告企画・提案、実施のスケジュール・予算管理などの役割を担う。日本最大級のeスポーツイベント「RAGE」ではスポンサー枠を企画運営し、スポンサーのeスポーツ業界参入の支援を行っている。また、5月にはリモートワークを推進する子会社を設立、更にWeb 会議システムZoomで使える「オンライン名刺」作成サービスをスタートさせるなど、時流を捉えた戦略を次々に打ち出し成長ステージでの活躍期待が高まる。商い薄ながら、株価は3月19日につけた年初来安値836円を底に切り返し、3ヵ月後の6月19日には上ヒゲで4030円まで買われ年初来高値を更新。現在は3000円近辺でもみ合っている。
●頭角を現すGFA
ここ、eスポーツ関連の一角として頭角を現しているのが、不動産流動化ビジネスを展開するGFA <8783> [JQ]だ。6月18日に、関連会社のDKアソシエイションと次世代レーシングゲームアプリ「ドリフトレーシングゲーム」(仮)の共同開発に着手すると発表。同作は、実在する渋谷の街や車好きに人気の高い峠を舞台とした公道レースを繰り広げるレースゲームで、プロドライバーの土屋圭市氏を監修に迎え、eスポーツ事業のゲーム開発第1弾として取り組むという。7月21日には、開発中の同ゲームのイメージムービーを公開している。更に、7月13日には、子会社を通じてeスポーツ大会やイベントの企画運営及び選手のマネジメントを行う施設作りに着手したことを発表した。株価は、低位株物色人気に乗って6月下旬に3日連続ストップ高を見せるなど急速人気となった後に調整を入れていたが、株価は目先200円台前半でジワリ煮詰まり感も。
●ゲームウィズに再評価余地
スマホゲームの攻略情報メディアサイト「GameWith」を運営するGameWith <6552> にも注目したい。今月から、同社所属のeスポーツ選手のネフライト選手やゼラール選手、YouTuberの「なうしろ」さんなど起用し、「まだ、あなたの知らないゲームに出会える」をテーマにしたテレビCMを開始した。昨年11月には、タイでeスポーツ大会イベント企画・運営を手掛けるInfofed社(本社シンガポール)への出資を決定したことも話題となった。業績は苦戦を強いられてはいるが、巣ごもり需要で、ページビュー数や動画再生数は急増したことなどを受け再評価余地に言及する調査機関もある。
●ヒューマン、デジハHD、TOWの動向注視
その他では、ヒューマンホールディングス <2415> [JQ]は、6月に子会社のヒューマンアカデミーが、プロeスポーツチーム「Crest Gaming(クレストゲーミング)」を運営するACTRIZE(東京都千代田区)のeスポーツチーム運営事業を譲受すると発表。また、ヒューマンアカデミーが運営する全日制専門校の総合学園ヒューマンアカデミーは、今年4月からeスポーツを専門的に学べる「e-Sportsカレッジ」を開講するなど、eスポーツ関連事業を積極的に推進する構えだ。
また、コアゲーマーだけでも4000人以上のスタッフが在籍しており、eスポーツへの参加を積極的に進めているデジタルハーツホールディングス <3676> 、eスポーツイベントの企画制作プロデュース、演出クオリティー向上のためのパッケージ・プロダクト開発を行う専門チーム「TOW×T2 Creative e-Sports Unit TTe」を昨年9月に設立したテー・オー・ダブリュー <4767> の動向からも目が離せない。
●「RAGE」初の国際大会でヒートアップも
8月29日、30日には「RAGE」が初の国際大会「RAGE ASIA 2020」の開催を予定している。エイベックス <7860> グループのエイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日ホールディングス <9409> 傘下のテレビ朝日、CyberZ(東京都渋谷区)などの共同運営となる今大会は、ローンチから1ヵ月で5000万人ものプレイヤーを獲得した「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」と、全世界で3億人のユーザー数を誇るバトルロイヤルゲーム「荒野行動-Knives Out-」という全世界でも絶大な支持を受ける2タイトルを採用し、RAGE史上最強の王者を決める最大規模の国際大会となる。今大会では、新型コロナの感染予防の観点から、初の「完全オンライン形式」とし、日本及び海外のチームや選手は、自宅などからオンライン上で試合に臨む。観客はさまざまな配信プラットフォームから生中継を観戦することになる。
新型コロナは日本経済に大きな影を落としている。しかし、テレワークをはじめとするオンラインを活用した企業が社会構造の変化を捉え、株価の居どころを変えたことを忘れてはならない。ようやく長い梅雨が開け、eスポーツ関連株は熱く燃える夏を迎えようとしている。
株探ニュース
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