●バンナムは「ガンダム」IP好調も、下期の業績はダウントレンドか
先月に続いて、筆者がウォッチしている各企業の2026年3月期第2四半期(25年7-9月期)の決算動向をまとめていきたい。まずはゲームセクターである。バンダイナムコホールディングス <7832> の26年3月期上期(25年4-9月期)は、前回の第1四半期(25年4-6月期)決算時に上方修正した数字を上回る形で着地し、前年同期比7%の営業減益ながらも比較的堅調な決算だった。
筆者が第1四半期決算時に述べたように、「機動戦士ガンダム」シリーズの好調が大きな要因となっている。テレビアニメ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ガンダムジークアクス)」が人気となったことや、大阪・関西万博での展示が好評だったからである。第1四半期時に「ガンダム関連のIP(知的財産)の売上高は2000億円に迫りそうだ」と想定したが、今回の決算での会社発表ではさらにそれを上回り、2300億円に上方修正されている。
上期までの好調に合わせて通期計画も上方修正されたものの、26年3月期通期では上期同様に減益計画である。これは下期にゲームソフトの大型タイトルが予定されていないこと、万博効果の剥落などが想定されているためである。グループ会社が運営する動画配信サービス「バンダイチャンネル」が不正アクセスで停止している問題も含めて、下期の業績は若干、ダウントレンドになるのではないかという見方もあり、株価的にはネガティブに受け止められているようだ。ただ、中長期的には多彩なIPを持つ同社の業績は世界的なアニメ文化の広がりもあって、アニメやゲームを中心に拡大傾向が続くと見ている。
次にソニーグループ <6758> の決算だが、26年3月期上期(25年4-9月期)は非常に良かった。「プレイステーション(PS)5」のハード販売は依然として前モデル「PS4」のペースを下回っているものの、継続的な課金収入を得るリカーリングビジネスが全体的に好調で、オンラインサービスの堅調さもあり、ゲーム事業の利益は安定的に創出されている。
孫会社のアニプレックスが手掛ける劇場版アニメ「鬼滅の刃」最新作に加え、実写映画の「国宝」も邦画としては異例のヒットとなっており、同グループのコンテンツ企業としての地位は高まっていると言えるだろう。スマートフォン(スマホ)用のCMOSセンサーも含めて、文句のない好決算だったと捉えている。今回の決算で同社は通期業績予想を上方修正したが、CMOSセンサーは顧客企業のスマホの販売好調が伝えられていることもあり、さらなる上振れも期待できそうだ。
●日本のゲームユーザーの間でプレステへの関心が低下した理由
もうひとつ、 前回も触れたが、ソニーグループは「PS5デジタル・エディション」の日本語専用モデルで実質的に大幅な値下げを行った。だが「ファミ通」が調査している販売データを見る限り、任天堂 <7974> の新型ゲーム機「Switch2」に迫ることはできなかった。これは同モデルにディスクドライブが装着されていないことで、ディスクドライブを使うかもしれないと考えるユーザーたちから、「買うに至らない」と思われてしまったことが要因のようだ。
一部のメディアが頑張って盛り上げようとしているのとは裏腹に、「プレイステーション」に対するユーザーの関心が低下しているように筆者には思えてならない。この大幅値下げにも関わらず、「Switch2」に大きく後れを取った週販の結果を見れば、かつて筆者が予想していた「『プレイステーション』ブランドは凋落する」という説が正しかった、と言わざるを得ない。同社に取材しても、日本のシェアが低いことがこの国内専用モデル発売の要因だとしていたので、危機感はあるのだと思う。だが、私が指摘したことをもっと真剣に受け止めて対処していたら違う結果になったのではないか、というのが本音である。
当時、日本ではスマホゲームが隆盛で、世界市場の約半分を占める米国市場が活況となると、同社が日本市場を軽視したくなるのも無理はなかったとは思う。米国市場開拓への戦略をシビアに立てる一方、日本や欧州では競合としては比較的戦いやすいマイクロソフト
●AIブームの負の側面、半導体不足でゲーム機や電子機器の価格が上昇
電子部品、半導体ではメガチップス <6875> の26年3月期上期(25年4-9月期)決算に触れておきたい。同社はゲーム機用のソフト格納用半導体が主力だが、過去に投資し、持ち株を一部売却した米企業、サイタイム(SiTime)
AI関連では、先月も触れたように、米ハイテク大手企業によって "驚愕"と言えるほどの巨額の設備投資が行われており、GPU(画像処理半導体)だけでなく、DRAMやフラッシュメモリー、HDD(ハードディスクドライブ)など、多くの電子部材が需給バランスを崩している。すでに自作パソコン用のメモリーでも、店頭での販売制限が行われるようになっているほどだ。まだ読者の方々には実感が乏しいと思うのだが、AIへの巨額投資がこのまま続くなら、来年はゲームセクターにもかなり大きな影響が出そうな雰囲気である。
「PS5」は24年に部材を安く調達できたらしく値下げを繰り返したが、今後は不透明だ。「Switch2」もDRAM、フラッシュメモリーともに前モデルの「Switch」よりも使用量が増えており、トランプ関税の影響も考えると、価格情勢が不透明になっている。「Switch2」はこのままメモリーなどの価格が上がりコスト負担が増すような事態になると、26年の販売台数が増えるほど、損失が出るような状況も想定しないといけないと思う。
特に「Switch2」の2年目である26年は、適切な施策で販売台数を大きく伸ばしたいタイミングでもある。任天堂は価格と調達量をよく考える必要があろう。日本では需要が強く、多少の値上げは容認されると思われる。新たなカラーリングなどの施策に合わせて、値上げも考えないといけない局面もあり得よう。
ゲーム機を例に挙げたが、AIブームはスマホやパソコンなどの価格にも大きな影響を及ぼしているように思う。筆者も生成AIは試していて、その成果物を見れば確かに性能の高さは理解できるのだが、半面、マネタイズはいま一つうまくいっていない印象がある。ブームを本物に変えられるかが26年後半以降に問われることになるだろう。
●人気Vチューバーのイベントで盛り上がる近鉄に期待
鉄道セクターでは近鉄グループホールディングス <9041> を取り上げたい。26年3月期上期(25年4-9月期)決算自体には大きなサプライズはなかったものの、万博効果は期初計画の125億円を大きく上回る250億円となる見込みだという。これほど好調だと下期以降の影響が懸念されるのだが、前回もお伝えした通り、志摩スペイン村で3回目となる、にじさんじ(ANYCOLOR(エニーカラー) <5032> 運営の人気Vチューバーグループ)所属の周央サンゴさんを中心とした「七次元生徒会」のイベントが実施されている。
筆者も先日、志摩スペイン村を訪れたのだが、平日ながら若い人たちを、スペイン村最寄りの鵜方駅で多数見かけたので、改めてVチューバー人気の高さを確認した次第である。三重交通(三重交通グループホールディングス <3232> 傘下)が志摩スペイン村へのバスを大幅に増発するなど、以前の閑散としたイメージとは打って変わった印象だ。近鉄グループによると、今回のイベントの初動来場者は、前回に比べて大幅に増えたそうで、動画コンテンツ一本の力で、ここまで集客に変化を生む時代がやってきたというのは感慨深い。同社の伊勢志摩特急の利用も堅調とのことなので、将来性も含めて楽しみである。
ところで鉄道セクターでは、日中関係が急速に悪化したことによるインバウンドの減少が懸念材料として挙げられている。もちろん、今後の動向は注視する必要があるだろうが、筆者は大幅な減少は想定していない。初期の頃のインバウンドに比べると多様化も進んでいて、中国の旅行者頼りの状況ではなくなっているからだ。
最後にJR九州 <9142> にも改めて触れておきたい。26年3月期第2四半期(25年7-9月期)決算については前回すでに述べたが、11月に「JR博多シティ」に開店した「Nintendo FUKUOKA(ニンテンドーフクオカ)」が大いに盛り上がっているのである。オープン初日は午前5時から並ぶ人が現れたそうで、マグカップ付きのホットチョコレートの販売も期間限定で行われ、これも大盛況だった。SNSでは整理券配布の混乱や転売などの問題も見られたようだが、筆者はこれらによって人気の高さを再確認できたと考えている。むしろこうした事象がメディアで取り上げられたことで、全国的に「JR博多シティ」の知名度向上につながったのではないだろうか。
鉄道会社はどうしても沿線の顧客を重視しがちであるが、テナント販売からの収益も大きな収益源である。地域ローカルの需要だけでなく、首都圏を含めた広範な人の動きを引き込むことで、さらに成長を図ることができるのではないかと考えている。
各社の決算は総じて良好だったが、相場全体を見渡せば、現時点では株価的にはAI銘柄に偏りがあるのは確かだと思う。そのすそ野が広かるかどうかが、バブルか否かの分かれ目だと考えている。今後も各社の動向を追って、お伝えしていきたい。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開。(任天堂 とソニーグループの決算解説動画はこちら)
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