―地合い悪で強さみせるか、株主還元強化を打ち出した高配当株リストアップ―
東京証券取引所が昨年3月、上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」の推進を要請したことをきっかけに、株主還元を強化する動きが加速している。25年3月期の配当予想を開示した約2100社を調べたところ、今期に増配を予定する企業はおよそ900社に上った。全体の4割以上が前期よりも配当を増やす計画だ。増配企業の数は1年前の24年3月期の期初時点と比べて2割も増加している。一方、減配予想を示した企業は約220社にとどまった。今回の株探トップ特集では、株主還元に積極的な姿勢をみせる企業群のうち、配当利回りが高水準な割安有望株にスポットライトを当てた。
●高配当株は調整局面でも底堅く推移
3月期決算企業の25年3月期業績は、海外景気の減速懸念や為替の先行き不透明感などを背景に、最終利益が減益となる見通しだ。増益基調が続くとの期待が強かっただけに、市場コンセンサスに届かない慎重な業績予想が相次いだことは全体相場の重荷となった。日経平均株価は年初から急騰劇を演じて3月4日に初の4万円台に到達し、22日には史上最高値4万1087円まで駆け上がったが、その後は業績期待が剥落したこともあって上値の重い展開が続く。17日の日経平均は一時800円を超える下落で3万8000円割れまで売り込まれており、再び波乱含みの様相を呈している。
一方、配当利回りの高い主力株で構成する「日経平均高配当株50指数」は今月3日に算出開始来の最高値を更新するなど、4月以降も頑強な動きをみせている。また、時価総額が小さい企業でも高配当株は底堅さを発揮するものが目立つ。配当利回りが高い銘柄は相場の下落に強いとされる。株価が値下がりすると配当利回りは上昇するため、高配当を狙う買いが入りやすいことのほか、配当を重視する投資家は下落局面でも株式を保有し続ける傾向があるというのがその背景だ。
●持続的で高水準な配当が期待できる銘柄に注目
今回の決算シーズンは、安定配当につながる指標として投資家の注目を集める「DOE(株主資本配当率)」の導入や配当性向の引き上げを発表する企業が多くみられた。ここでは、決算発表と同じタイミングで株主還元強化策を打ち出し、持続的で高水準な株主還元が期待できる銘柄に注目。このうち配当利回りが3.5%を上回り、かつ予想PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった株価指標から見て水準訂正余地があるとみられる6銘柄をピックアップした。
※配当利回りは6月17日終値ベースで算出。
【椿本チ】 配当利回り3.95%
椿本チエイン <6371> [東証P]の25年3月期業績は、マテハン事業の黒字転換やモーションコントロール事業の回復などを通じ、営業利益段階で6期ぶりに過去最高益を更新する見通しだ。決算発表とあわせて、9月末を基準日とする1株から3株への株式分割と配当方針の拡充(配当性向を35%以上に引き上げ)を打ち出した。今期配当は146円とし、株式分割を考慮した実質ベースで50%の大幅増配を見込む。更に、100億円規模の自社株取得と消却に加え、株主優待制度を強化することも明らかにした。これら資本コストや株価を意識した施策などが評価され、株価は約9年ぶりの高値圏に急浮上している。一方、予想PER9倍台、PBR0.8倍近辺、配当利回り4%前後と指標面では依然として割安感が強く一段の上値期待は強い。
【ダイセル】 配当利回り3.57%
ダイセル <4202> [東証P]は配当方針を見直し、25年3月期以降は新たに「DOE4%以上」の目標を追加すると発表。これまでも総還元性向を40%以上に設定し、自社株取得と消却を定期的に実施するなど、株主還元に意欲的な姿勢をみせてきたが、7倍台で低迷するPERの上昇に向けてギアを一段上げる構えだ。今期配当は55円と前期比5円の増配を計画する。自社株買いはここ9期連続で実施しており、今年も期待される。今期業績は酢酸原料プラント稼働に伴う減価償却費増加の影響はあるものの、エンジニアリングプラスチックでの増産効果やセイフティ事業の構造改革によって増益基調を維持し、営業利益ベースで9期ぶりの最高益更新を狙う。株価は75日移動平均線をサポートラインにリバウンドをみせている。
【ヨータイ】 配当利回り5.00%
耐火物メーカーのヨータイ <5357> [東証P]は27年3月期を最終年度とする中期経営計画の株主還元策として、配当性向60%もしくは1株あたり85円のいずれか高い方を目標とする方針を掲げた。投資ファンドのキャピタルギャラリーの要求を踏まえて、従来の配当性向30%から大幅に拡充した格好だ。この方針に沿い、前期の配当を従来予想の53円から85円に大幅増額し、今期も前期比5円増の90円と8期連続の増配計画を示した。株主還元は配当に加え、3年連続で15億円規模の自社株買いを実施している。こうした姿勢が評価される形で株価は上場来高値圏に浮上し、PBRも1倍を超えてきた。ただ、配当利回り5%と高水準で指標面からの過熱感もなく、更なる上値に含みを持たせている。
【イーグル工】 配当利回り4.26%
イーグル工業 <6486> [東証P]は自動車業界をはじめ、航空機、半導体製造装置、原子力発電プラントなど幅広い分野に展開するメカニカルシールの大手。ロケットエンジンのターボポンプシールを供給できる国内唯一の企業として宇宙開発関連としても注目される。同社は5月の本決算発表時に、中期経営計画中の株主還元を一部修正すると発表。配当政策を「DOE3.0%以上、年間80円以上を継続」(従来はDOE2.5%以上、年間70円継続)に変更し、自社株買いは総額120億円の取得枠を撤廃して柔軟に取得を進める方針に見直した。これを踏まえ、前期配当を10円増額し、今期も年80円配当を維持する計画を示した。配当利回りは4%を超える一方、PBRは0.7倍台と会社解散価値を大きく下回る水準にあり、株価の見直し余地は大きい。
【スタティアH】 配当利回り4.61%
スターティアホールディングス <3393> [東証P]の25年3月期業績は売上高、営業利益ともに過去最高を更新する見通しだ。積極投資を続けてきたクラウド型マーケティングツール「Cloud CIRCUS」を展開するデジタルマーケティング関連事業が足もとで力強い成長をみせており、今期から本格的な収益化フェーズへの移行を見込む。こうした状況を踏まえ、利益還元重視の姿勢を明確にするため、累進配当を導入し、配当性向のメドを従来の35%から55%に引き上げる方針を打ち出した。今期配当は前期比28円増の97円に大幅増配する計画だ。好決算見通しと株主還元の強化が好感され、株価は上場来高値に迫る水準まで上昇したが、予想PER12倍近辺、配当利回り4.6%と上値余地は残っているとみられる。
【日新】 配当利回り4.44%
国際物流大手の日新 <9066> [東証P]は配当指標のDOEをこれまでの2.0%以上から4.0%以上に引き上げる。25年3月期の配当は前期比90円増の200円に大幅増配する計画だ。また、27年3月期までの自社株取得枠を従来の100億円程度から160億円程度に増やす方針を示した。あわせて、発行済み株式数の23.61%に相当する450万株を上限とする大規模な自社株買いの実施を発表し、翌日に東証の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)で取得を完了した。前期の業績はコロナ特需の反動で大幅減益を強いられたが、今期は営業利益91億円(前期比12.7%増)と増益に転じる計画だ。指標面では予想PER6倍台、PBR0.6倍台で、配当利回りも4.5%近辺と高く、3拍子揃ったバリュー株として注視したい。中期経営計画では成長投資と資本政策の拡充で、27年3月期にPBR1倍超と営業利益110億円を目標に掲げる。
株探ニュース
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