―アクティビストや著名投資家が相次ぎ大株主に、日銀の政策変更思惑も追い風─
地方銀行株に対する投資家の注目度が高まっている。地銀といえば長らく割安に放置されていたセクターだったが、再編が一段と進むとの期待感は根強い。加えて日本銀行による地域金融強化のための支援策が奏功し、経営改善が進むとの見方が株価のサポート材料となっている。そんななか、富山第一銀行 <7184> [東証P]のように、著名投資家が大株主に浮上したことを受け、株価が急騰する例も現れた。地銀株を巡る状況を探った。
●くすぶり続ける再編機運
地銀の再編は「国策」である。その起点となったのが、2014年1月にあった、金融庁の畑中龍太郎長官(当時)による「経営統合も重要な選択肢」との発言だ。地銀の存在意義が問われ続けてきたなか、同年11月には、横浜銀行と東日本銀行が経営統合することで基本合意し、16年には地銀首位となるコンコルディア・フィナンシャルグループ <7186> [東証P]が誕生。関西では17年に近畿大阪銀行と関西アーバン銀行、みなと銀行が経営統合で基本合意し、関西みらいフィナンシャルグループを設立。21年にりそなホールディングス <8308> [東証P]が完全子会社化した。
合従連衡が進むなか今年に入ってからは、長野県のガリバー地銀である八十二銀行 <8359> [東証P]と長野銀行 <8521> [東証S]が、来年6月にも経営統合することで基本合意している。
地銀について「数が多すぎる」と菅義偉前首相は発言したが、20年11月には日銀が「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入を発表。経費率(OHR)の一定水準以上の改善と、経営統合などの機関決定という、日銀が定めた2つの条件のどちらかをクリアした地銀の当座預金に、日銀が年プラス0.1%の特別付利を与えるといったものだ。22年度上期時点で支援対象となった地銀は91行。多くの地銀に付利という名の「ボーナス」が支給され、業績の下支え要因となった。22年度までの時限措置だが、日銀による地銀に対する支援となるものであり、金融界では延長の要望もあるようだ。
超低金利の環境は地銀を含む銀行株には、利ザヤの縮小となり逆風だったが、今年はインフレ懸念を背景に世界的に債券利回りが上昇し、銀行業界を取り巻く収益環境に変化が訪れた。更に、来春の黒田東彦日銀総裁の退任後、マイナス金利政策が見直される可能性があるとの観測も銀行株物色の背景となっている。
●強まる株主の発言力
地銀に経営改善を迫るのは政府・日銀などの政策要因だけではない。今年6月には、アクティビストのなかでは企業との対話を重視する「穏健派」に位置づけられている英ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズが、京都銀行 <8369> [東証P]や滋賀銀行 <8366> [東証P]、岩手銀行 <8345> [東証P]などに対し、特別配当を求める株主提案に踏み切った。シルチェスターの提案は否決されたものの、株主総会前となる同年5月までに、各行は連結配当性向や総還元性向に関する新たな方針を公表するなど、株主還元の強化に動いた。
そもそも地銀の多くは、投資家との対話を通じた企業価値の向上を求められる東証プライム市場に上場している。株主名簿にアクティビストの名前がなかったとしても、投資家の存在を無視した経営は難しい。実際に、株主還元方針を見直す地銀は増加の一途をたどっている。今年度に入ってからは、山口銀行と広島県のもみじ銀行、福岡県の北九州銀行を傘下に持つ山口フィナンシャルグループ <8418> [東証P]が配当性向40%程度を目標とする新たな方針を設定。今期の総還元性向は100%を予定する。コンコルディも、今期の配当性向の目安を前期の35%以上から40%程度に見直した。
●TSMC進出の恩恵期待される九州FG
年初来安値からの上昇率の高い銘柄をみると、著名投資家の井村俊哉氏が9月末時点で大株主に浮上した富山第一銀をはじめ、石川県を地盤とする北國フィナンシャルホールディングス <7381> [東証P]、栃木銀行 <8550> [東証P]、七十七銀行 <8341> [東証P]など、配当性向や総還元性向の目安を設定しているところが多い。
これに対し、年初来高値からの下落率が高い銘柄をみてみると、下落率上位の富山銀行 <8365> [東証S]や新潟県の大光銀行 <8537> [東証S]の配当方針には、「安定的な利益配分の維持」「永続的かつ安定的な配当の継続」といった表現が見受けられる。山形県のきらやか銀行と宮城県の仙台銀行を傘下に抱えるじもとホールディングス <7161> [東証S]の下げも大きい。同社は与信関係費用の大幅な増加などに伴い今期は最終赤字の見通しとなっている。本業が苦境にある地銀株を敬遠する投資家の姿勢も垣間見える。
総還元性向や連結配当性向の目標の設定の有無を問わず、20年3月期以降の配当額に変化がなく、今年度に自社株買いを行っていない地銀をいくつかピックアップすると、大分銀行 <8392> [東証P]、新潟県の第四北越フィナンシャルグループ <7327> [東証P]、岐阜県の大垣共立銀行 <8361> [東証P]、傘下に鹿児島銀行と熊本県の肥後銀行を持つ九州フィナンシャルグループ <7180> [東証P]などがある。
このうち九州FGの23年3月期の最終利益は前期比50%増の250億円となる見通しだ。上期(4-9月)は与信費用や経費が想定を下回って減少したことなどが利益の押し上げに寄与。9月中間期時点の最終利益の通期計画に対する進捗率は68%に上っており、業績の上振れ余地が意識される。中期的に営業圏内は、台湾積体電路製造(TSMC)
第四北越FGの9月中間期最終利益は、通期計画に対する進捗率が約75%と高い。同社は配当金と自己株式取得合計の株主還元率40%をメドとする方針を掲げている。
●八十二や秋田銀で旧村上ファンド系が大株主浮上
国内系アクティビストの動向からも目は離せない。22年9月中間期の四半期報告書の「大株主の状況」をチェックすると、旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスが9月末時点で大株主に浮上したところに、八十二と秋田銀行 <8343> [東証P]、埼玉県の武蔵野銀行 <8336> [東証P]、静岡県発祥のスルガ銀行 <8358> [東証P]、岩手銀がある。
いずれの銀行も、大量保有報告書の提出が必要となる5%を下回る水準だ。今後はシティの買い増しを見込んだ先回り買いが、株価の下支えとなる可能性がある。八十二の場合、中期経営目標のなかに今年4月、連結配当性向を40%以上とする方針を追加するなど、既に株主還元を強化する姿勢を示している。プライム上場企業として株主価値の向上に向けて新たにどのようなアクションをとるのか、注視されることになりそうだ。
●SBI系が加わった大光銀と筑波銀
地銀連合を形成するSBIホールディングス <8473> [東証P]グループが大株主となっている銀行も注目されている。9月中間期の四半期報告書では、大光銀と茨城県の筑波銀行 <8338> [東証P]の上位株主にSBI系の名が加わった。SBIグループが大株主の銘柄には、福島県の大東銀行 <8563> [東証S]と福島銀行 <8562> [東証S]、群馬県の東和銀行 <8558> [東証P]、じもとHD、静岡県の清水銀行 <8364> [東証P]、西日本では島根銀行 <7150> [東証S]がある。
このほか、山形県と秋田県を地盤とするフィデアホールディングス <8713> [東証P]や岩手県の東北銀行 <8349> [東証S]、岡山県のトマト銀行 <8542> [東証S]、三重県の三十三フィナンシャルグループ <7322> [東証P]などは、配当利回りの高さに注目した投資家の買いを集めそうだ。
株探ニュース
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