―根強い国内金利の上昇期待、「トランプ・ラリー」で物色候補の急先鋒に─
12日の東京株式市場で、日経平均株価は1033円安と急反落した。6月の米消費者物価指数(CPI)が前月比で低下し、米連邦準備制度理事会(FRB)による9月の利下げ観測が一段と強まった。米ハイテク株の調整と円相場の急伸が日本株には逆風となったが、値上がり銘柄数は値下がり銘柄数を上回った状況となったほか、東証グロース市場250指数は3%高で終了している。大型株に極端に傾いていた資金の巻き戻しが起きたとみるのが自然だろう。日経平均と東証株価指数(TOPIX)が史上最高値圏で上値追いの展開となっていたなかで、市場では健全な調整とみる向きもある。
今後の相場を見通すうえで重要なポイントの一つとなるのが、米大統領選を巡る情勢だ。6月下旬のテレビ討論会を境に、マーケットは一時的に「トランプ・ラリー」の様相を呈するようになり、これを機に投資家のリスク選好姿勢が一段と上向いた。トランプ氏の財政拡張路線を織り込む形でこの先、金利にじわりと上昇圧力が掛かることとなれば、バリュー株へのシフトがより鮮明となる可能性が高い。思い起こせばトランプ氏が大統領選で勝利した2016年、米長期金利が上昇に転じたのは7月だった。
バリュー株のなかでも、金利上昇の恩恵をダイレクトに受けるのが金融株である。このうち 地銀株は政策保有株の解消による資本効率の向上と、株主還元の余力拡大期待が広がっており、物色候補の急先鋒に立っている。
●財政拡張路線なら米金利に上昇圧力
11日発表の6月の米CPIを受け米長期金利は一時4.1%台に低下したが、米財務省が実施した30年物の国債入札で需要の弱さが示されると、金利の低下は一服した。この先の金利低下(債券価格の上昇)トレンドにベットできない債券投資家の心理が透けてみえる。
FRBによる年内2回の利下げが織り込まれつつある一方で、次期大統領の財政・通商政策が債券市場にどのような影響を及ぼすのか、市場参加者はシミュレーションを始めている。6月のテレビ討論会を経てトランプ氏が勝利を収めるとの見方が台頭するなか、同氏の拡張的な財政政策と、関税強化によるインフレの高進リスクを「本格的に」市場が織り込み始めた際には、米国の長期金利に上昇圧力が掛かり、その影響で日本の長期金利が一段と水準を切り上げる展開が想定される。こうしたシナリオが現実となった場合は、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る銘柄が山積する地銀株への物色意欲が高まることとなるだろう。
●日銀の7月会合経て金利は上昇するか?
日本の長期金利の方向性に関しては、日銀の金融政策を抜きにしては語れない。7月30~31日の日銀の金融政策決定会合では、国債買い入れ減額の具体策が示される見通しだ。日銀の植田和男総裁は前回の決定会合後の記者会見で、今後1~2年程度の買い入れ減額は「相応の規模」になると述べている。
9~10日に日銀が開いた債券市場参加者との会合では、月間6兆円程度の国債買い入れ額に関し、銀行グループとの会合では2年後に月間3兆円程度とするのが望ましいとの声が多数あったと伝わっている。国債買い入れの減額や政策金利の引き上げにより、債券利回りが上昇(価格が下落)すれば市中金利にも上昇圧力が掛かることとなる。貸出金利の上昇が銀行の収益を押し上げる効果をもたらすのは言うまでもないだろう。
注目点は金利動向だけではない。金融庁が政策保有株に対する監視の目を光らせるようになった結果、具体的な削減目標を公表する地銀が相次いでいる。歴史的な株高を背景に、政策保有株の含み益に対する市場の期待は高まるばかりだ。加えて、後継者不足にあえぐ中小企業が事業承継に向けて地銀を通じてM&Aに踏み切りやすくなるよう、金融庁は監督指針の改正にも動いている。地銀が担う新たな役割はトップラインの拡大余地を広げる要因となるかもしれない。これらの観点のもと、バリュー株物色の有力候補となる地銀株のうち、中期的な観点で投資妙味が高まった銘柄をピックアップしていく。
●株高機運高まる地銀6銘柄
◎池田泉州ホールディングス <8714> [東証P]
23年度の貸出金残高は4兆8585億円と近畿の地銀8行中3位。近畿経済はインバウンド需要の追い風が吹き、日銀は7月8日発表の地域経済報告(さくらレポート)のなかで、景気判断を引き上げた。来年には大阪・関西万博が開かれ、その先はIR(統合型リゾート)構想による経済効果が期待される。池田泉州HDの25年3月期純利益予想は前期比1.1%増の110億円。上場地銀との比較では、資産全体に占めるリスクアセットの割合は高くはなく、中小企業貸し出し比率も低い状況にある。4%台半ばのROE(自己資本利益率)を8%程度に引き上げる長期目標の達成に向け、収益性を向上させるための「伸びしろ」が意識される状況だ。株価は300円台後半で年初来のパフォーマンスはTOPIXを下回っており、挽回を期待したい。
◎琉球銀行 <8399> [東証P]
関西地域と同様に、インバウンド需要に沸く沖縄県を地盤とする。沖縄の本土復帰前は中央銀行の役割を担っていた。25年3月期の純利益は前期比微増の57億円を計画。ベースアップによる人件費の上昇や与信コストが利益を圧迫する見込みとなっており、今期の利益の伸びの物足りなさが株価の上昇力を抑制する形となっている。一方、県内では普天間基地など米軍基地の返還予定地の一体開発に向け、地元の自治体・経済団体や企業が参画する新組織が設立されると報じられており、中期的に資金需要が拡大する可能性が高い。大型テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」向けの協調融資で、商工組合中央金庫とともに地銀ながら幹事を務めた実績は特筆すべき点であり、法人向けのコンサルティングサービスの成長期待も高まっている。琉球銀のPBRは0.3倍台にとどまっており、1倍に向けた是正余地を意識させる。
◎百十四銀行 <8386> [東証P]
香川県を地盤とする同行は25年3月期の純利益予想を前期比3.7%増の100億円と、中期経営計画で示した26年3月期の目標(85億円以上)を上回る水準に設定。債券関係損益と資金利益の増加が利益を押し上げる。PBRは0.2倍台と「ディープバリュー」銘柄の側面を持つ同行だが、シップファイナンスを中心とする24年3月期の外貨貸出金の利回りは4.77%と高く、海外金利が一段と上昇した際は、貸出金利回り全体の更なる底上げに寄与しそうだ。株価は上昇圧力が掛かっているとはいえ18年以来の水準にとどまっている。
◎ちゅうぎんフィナンシャルグループ <5832> [東証P]
傘下の中国銀行は岡山県地盤。株価は22年10月発足後の最高値圏内で上値指向を強めているが、PBRは0.5倍台にとどまる。連結ベースでの総自己資本比率は24年3月末時点で14.05%。中国銀単体の総自己資本比率を含め、バーゼル規制で国際統一基準行に求められる水準(8%以上)との上方カイ離幅の大きさが意識される。資本の有効活用に向け、ちゅうぎんFは「普通株式等Tier1比率」を現状の12.12%から11%台後半に引き下げる目標を掲げ、自社株買いの実施に動いたほか、配当性向は40%程度を目標とする方針を示している。25年3月期の純利益は前期比12.2%増の240億円を計画。保守的ではなく意欲的な業績予想を開示したと前向きな受け止めもあり、攻めの姿勢への変化が企業価値を更に向上させるためのドライバーとなりそうだ。
◎あいちフィナンシャルグループ <7389> [東証P]
中部圏の愛知銀行と中京銀行が経営統合して発足。25年1月に両行は合併し、新銀行名を「あいち銀行」とする。25年3月期の純利益は前期比87.9%減の10億円と大幅減益を計画。今期は統合関連費用の計上がピークとなる。業績予想開示後に株価に強い下押し圧力が掛かった結果、配当利回りは足もとで3.8%台とインカムゲイン狙いの投資妙味が増す形となった。統合関連費用の影響は来期以降、徐々に薄れる見通しであるほか、24年3月末時点において時価で1010億円に上る政策保有株についても縮減する方針。利益回復シナリオを踏まえれば、足もとの株価水準は仕込み場ととらえることもできるだろう。
◎山陰合同銀行 <8381> [東証P]
島根県に本店を構えるが、隣県の鳥取県でも高いシェアを持つ。鳥取県といえば自民党総裁選の候補者として有力視される石破茂元幹事長のお膝元であり、鳥取銀行 <8383> [東証S]とともに「石破関連銘柄」とみなす向きもあるようだ。25年3月期の純利益は前期比8.3%増の182億円と、4期連続で過去最高益となる見通し。法人・個人向けの貸出金と利息の増加が収益拡大のドライバー役となる。金融政策の変更による影響を今期の収益計画には織り込んでおらず、追加利上げは業績の上振れに直結する状況。株価は1990年以来の高値圏で推移する半面、PBRは0.6倍台だ。更に信用倍率は0.73倍と売り長の状況にあり、ショートカバーの誘発による株価の一段の水準修正が期待される。
株探ニュース
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