―半導体・AIに並ぶ日米協調政策のレールに乗る、サイバー防衛は安全保障の要衝に―
人工知能(AI)が大方の予想を上回る進化スピードで我々の日常と同期し、一方で企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)シフトの強力な推進力ともなっている。しかし、光があれば必ずそこには影(リスク)も存在する。膨大な情報いわゆるビッグデータがネットワークと恒常的に接続する現在、その安全性や信頼性を確保することは、実は最も優先されるべき重要課題といってもよい。人類にとってAI・IoTやDXといった時代の要請ともいうべき技術革新が諸刃の剣であることは論をまたず、同じ次元におけるセキュリティーの担い手もまた必須の存在として注目されることになる。世界的に国策レベルでサイバー防衛に対する意識が高まるなか、株式市場でも関連銘柄に改めて刮目すべき局面が近づいている。
●日米協調でサイバーセキュリティーに新風
今週は岸田文雄首相が国賓待遇で渡米し、10日にバイデン米大統領との日米首脳会談が行われた。その共同声明では安全保障協力の一項目として、日米が増大するサイバー脅威に先んじ、情報・コミュニケーション技術分野での強靱性構築のため、情報保全や サイバーセキュリティーに関する協力を深化させるということも掲げられた。
ロシアとウクライナの紛争では、武力攻撃にとどまらず、早くからサイバー攻撃を絡めたハイブリッド戦の様相を呈した。また、過去の米大統領選においてロシアのサイバー攻撃が複数回観測され、その後に中国がロシアに倣う形で近隣諸国への「サイバー政治介入」を策動させるなど、まさに電脳空間が国家の安全保障における要衝となっている。
米国主導による日米間の協調関係強化は日本にとっては福音となるものだが、脱中国をコンセプトにサプライチェーンを構築するにあたって、先端半導体分野やAI技術と合わせ、サイバーセキュリティー分野でも資金支援や税制優遇など国策として協調路線を敷く構えにある。この流れは株式市場でも早晩大きなテーマとして、投資マネーを誘引する可能性が高い。
●ランサムウェア駆逐に腐心する米国
くしくも米国では医療機関やヘルスケア関連企業をターゲットとしたサイバー攻撃が頻発していることが報じられている。医療データをハッカー集団が「人質」にして身代金を要求するランサムウェア攻撃が相次ぎ、バイデン米政権もその対応に乗り出した。米調査会社のチェーンアナリシスによれば、2023年にランサムウェア攻撃によって払わされた身代金は10億ドル以上に達し、過去最高額となったことが伝えられている。
当然ながら日本においてもこれは対岸の火事ではない。米国では重要なインフラに対するサイバー攻撃が確認された際には、関連省庁にインシデントの報告が義務付けられているが、日本でも個人情報漏洩のケースはもとより重要インフラへの攻撃があった場合も対策・報告が義務化されている。国を挙げてサイバー攻撃を駆逐する動きは今後更に強まることが予想される。
●IT関連予算との比較でも伸びしろ意識
こうしたなかも、日本国内ではコンピューターウイルスや不正アクセスの件数は増加の一途にあり、その意味で逆説的な言い方をすれば、サイバーセキュリティー分野を深耕する企業が注目されざるを得ない土壌が生成されているといってよい。
日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)によると、21年度の日本国内のセキュリティー市場の規模は1兆3321億4000万円(前の期比5.2%増)、これが22年度には1兆4064億4400万円(5.6%増)に、更に23年度には1兆4983億3500万円(6.5%増)と拡大傾向が顕著となることが予想されている。JNSAでは、サイバー攻撃や従業員が情報を不正に持ち出すことによる情報漏洩に対して、ログの解析や原因究明、未然防止の必要性が高まっているためと分析している。
また、市場構造も多岐化している。エンドポイント(端末)やネットワーク保護に使われるウイルス対策ソフトなどの製品分野以外に、コンサルティングや運用代行業務、セキュリティー人材教育といったサービス分野もあり、産業の裾野は広い。日本企業のIT関連予算におけるセキュリティーが占める割合は1割弱に過ぎないという試算もあるが、それだけに今後の市場拡大に向けた伸びしろが大きいという見方もできる。
●中堅企業向け案件が本格離陸局面に
個人はもちろん、企業や公的機関に対するサイバー攻撃が苛烈化する傾向にあることが確認されており、その対応は必須かつ緊急性が求められる状況だ。特に中堅・中小企業をターゲットとしたインシデントが急増していることから、それにどう対応するかは喫緊の課題となっている。大企業は対策を講じていても、中堅・中小企業はコスト面の問題や認識の甘さからどうしても後手に回りがちで、それが逆にハッカーやクラッカーの攻撃の対象になりやすい背景となっている。
22年の春先にトヨタ自動車 <7203> [東証P]に自動車部品を納入するサプライヤーがサイバー攻撃を受け、トヨタ全体のシステムにも影響が生じ国内14工場の稼働を全面的に停止する事態に追い込まれたことは、まだ記憶に新しい。部品を必要最小限にとどめることが可能な生産管理システム「かんばん方式」がトヨタの強みだが、非常に多くのサプライヤーが同システムに連携していることから、セキュリティーレベルの脆弱な会社が狙われ全体の動きを止めてしまう事態となった。この事件を契機に、日本自動車工業会をはじめ多くの業界団体がサプライチェーン構築の一員となっている企業に対しセキュリティー対策の充実を求める状況となっている。そして目指すべき方向ははっきりしているものの、全体観として今はまだその途上にあるといってよい。
●相対的に出遅れる銘柄の戻り足を捉える
サイバーセキュリティー市場の伸びしろは大きいが、そのなかでもカギを握るのは中堅・中小企業エリアで、ここを顧客基盤に業績を拡大させるという戦略が有効となる。投資家の見地に立った場合、株式市場でサイバー防衛に携わる企業は専門性が高い一方、銘柄としては時価総額が膨張していない中小型株が多いことが注目点だ。そのため製品やサービスに高度な技術やニッチ性があれば、株価的にも飛躍余地は大きいといえる。
関連銘柄としては、標的型攻撃で強みを発揮する研究開発型企業のFFRIセキュリティ <3692> [東証G]、投稿監視で抜群の実績を誇るイー・ガーディアン <6050> [東証P]、セキュリティー製品の輸入販売とソリューションを手掛けるセグエグループ <3968> [東証P]、サイバー攻撃監視に定評があり官公庁案件も豊富なラック <3857> [東証S]、認証・セキュリティーサービスを主力展開するサイバートラスト <4498> [東証G]などがマークされる。このほか、大型株では法人を対象としたネット接続サービスの草分けであるインターネットイニシアティブ <3774> [東証P]、業界最大手クラスでは、個人向けソフトや法人向けセキュリティーサービスで世界屈指の実力を有するトレンドマイクロ <4704> [東証P]などが挙げられる。
これ以外にもサイバーセキュリティー分野に展開する企業は非常に多い。今回のトップ特集では、その中から高い成長力を内包しながら株価が相対的に低い位置にあり、ここからの見直し余地が大きいと思われる有望株を6銘柄選りすぐった。
●逆襲高秒読みのセキュリティー関連6選
◎サイバーセキュリティクラウド <4493> [東証G]
サイバーセキは世界屈指ともいえるサイバー脅威インテリジェンスとAI技術を駆使したサイバーセキュリティーの開発・提供を行っている。Webサイトをサイバー攻撃から守るクラウド型WAF「攻撃遮断くん」で実力をいかんなく発揮。クラウド向けセキュリティーツール開発では富士ソフト <9749> [東証P]と業務提携し、事業領域の拡大にも抜かりなく取り組む。業績面も目を見張る成長路線を邁進中。売上高、利益ともに毎期大幅な伸びを続けており、24年12月期は売上高が前期比24~31%増の38億~40億円、営業利益は同18~36%増の6億5000万~7億5000万円を見込む。成長投資に傾注し無配ながら、自社株買いに積極姿勢を見せるなど株価意識の高さは評価される。株価は年初から13週移動平均線を下値サポートラインとする下値切り上げ波動を継続、2月28日につけた年初来高値3090円奪回から、中期的には昨年6月中旬の高値3450円クリアが視野に入る。
◎ソリトンシステムズ <3040> [東証P]
ソリトンは総売り上げの9割以上をITセキュリティー部門で占めており、サイバー攻撃対応のセキュリティー対策ソフトや認証システム開発などのシステム構築を手掛けている。自社技術を使った独自開発製品を主軸としていることもポイントで高技術力に定評がある。3月中旬にはサイバー安全保障などをミッションとする子会社「サイバー防衛研究所」を設立するなど、スペシャリスト集団としての存在感を放っている。また、超低消費電力のアナログエッジAIチップの開発にも取り組んでおり、AI全盛時代に活躍の裾野を広げる可能性がある。23年12月期営業利益は前の期比28%増の26億800万円と大幅な伸びを示し過去最高を記録したが、続く24年12月期は前期比10%増の28億7000万円予想と2ケタ増益で連続ピーク利益更新を見込む。来期以降も成長が続く公算が大きく、12倍台の時価予想PERは買い場を示唆。1月につけた年初来高値1521円が当面の目標に。
◎グローバルセキュリティエキスパート <4417> [東証G]
Gセキュリは中堅・中小企業を対象にサイバーセキュリティーの自衛力向上を主眼とした教育ビジネスと関連サービスを提供している。中堅・中小企業のサイバーセキュリティーに関する潜在市場は大きく同社の活躍余地は大きい。民間だけでなく官公庁向けで高実績を有していることもポイントだ。また、電子デバイスに強みを持つ商社の兼松 <8020> [東証P]などと共同でサイバーセキュリティーに特化したファンドを日本で初めて新設し注目を呼んでいる。業績も特筆に値する目覚ましい伸びを続けており、24年3月期売上高は前の期比26%増の70億円、営業利益は同47%増の10億8500万円と初の10億円台乗せが有力。更に中期経営計画として26年3月期に売上高110億円、営業利益22億円を目標に掲げ、成長力に全く陰りはみられない。株価は4月に入り急な調整を入れたが、ここは絶好の買い場となり得る。中長期視野なら昨年6月につけた上場来高値7800円(分割後修正値)更新も期待。
◎網屋 <4258> [東証G]
網屋はデータセキュリティー事業とネットワークセキュリティー事業の2部門に特化しSaaS(必要な機能や分量のみをネット経由で利用者に提供)を軸にストックビジネスに力を入れている。データセキュリティーでは自社開発の「ALogシリーズ」を展開、高評価を得て大手企業の利用も相次いでいる。また、ネットワークセキュリティーではネットワークの設計・構築を、クラウド環境を活用して遠隔で行うことを特長とし、サイバーセキュリティー人材の育成でも優位性を発揮する。自社株買いに積極的で株式需給がタイトであることも先高期待につながる。業績はトップライン、営業利益ともに過去最高更新基調が続いており、24年12月期は売上高が前期比26%増の45億円、営業利益は同15%増の4億1900万円を予想。株価は1920円近辺を横に走る25日移動平均線を足場に上放れが想定される。2100~2500円は滞留出来高が希薄なゾーンで上値が軽い。
◎デジタルアーツ <2326> [東証P]
デジアーツは情報漏洩対策ソリューションや閲覧制限ソフトの開発を手掛ける。安全なネットへのアクセスとメールの送受信を実現する「ホワイト運用」では1200万人を超える顧客基盤を有し、国内で群を抜く導入実績を誇っている。企業向けではコンサルタント人員の強化を背景とした包括的なサービス提供により新規受注が急増。また公共向けでは「GIGAスクール」関連の更新需要獲得が収益に貢献している。トップラインの2ケタ成長が続いており、24年3月期は前の期比10%増収の115億円を予想、営業利益は同17%増の51億5000万円を見込む。株主還元にも前向きで毎期増配を続けており、24年3月期は前の期実績に5円上乗せとなる80円を計画。PERに割高感はなく、23%台の高ROEも評価される。株価は今年1月中旬の5250円の高値形成後に大幅な調整を入れたが、実態面から4000円台前半のもみ合いは買い場を示唆。5000円台復帰を目指す。
◎大興電子通信 <8023> [東証S]
大興電子は通信機器販売とシステム開発(ソリューションサービス)の二つの分野に展開し、富士通 <6702> [東証P]を筆頭株主とするシステムインテグレーターとして存在感を示す。機器販売は富士通との連携強化に伴い収益機会が急増、合わせてインボイス制度対応のソフトウェア案件の寄与で好採算のソリューションサービスも好調を維持、業績は足もと著しい伸びを示している。24年3月期は営業利益段階で前の期比51%増の28億2000万円予想と急拡大。更に最終利益は同92%増の19億1000万円と変貌を見込んでおり、PER6倍台は同業他社と比較しても割安感が際立つ。株価は昨年11月にストップ高を交え連日の急騰で脚光を浴び、その後も売り物をこなしながら下値を切り上げた実績あり。2月上旬に第3四半期決算を契機にいったん売り込まれたものの、その後は実態評価で戻り足が鮮明だ。株価は3月29日の年初来高値1141円を通過点に水準訂正高が続く公算大。
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