蝶理の強みは、「独自のグローバルネットワーク」「人材」「歴史」の3点となる。グローバルネットワークに関しては、第二次世界大戦後に民間貿易が再開された1949年から、蝶理は海外展開を本格的に再スタートさせて拠点を拡大させてきた背景がある。中国やアジアを中心に中東や欧州、南米に至るまで、幅広いグローバルネットワークを構築。歴史に培われた貿易ノウハウで海外事業を拡大させており、貿易比率は68%(2025年3月期時点)に上る。専門知識を有した人材が顧客ニーズにスピード感をもって対応するほか、160年で積み上げられた取引実績と独自の人脈も競争優位を保つ源泉となる。また、競合他社と比較した際、繊維分野では廃ペットボトルを原料としたリサイクル糸「ECO BLUE」や、北陸地方の伝統技術を応用した高機能ポリエステル糸「SPX」といった独自商材を展開し、脱炭素やサステナビリティをキーワードとした差別化にも成功している。特に繊維分野における原料から最終製品までの一貫対応力や、機能性素材の商業化支援は、他商社と一線を画す存在である。
2025年3月期の売上高は311,546百万円(前期比1.3%増)、営業利益は14,492百万円(同3.6%減)で着地した。親会社株主に帰属する当期純利益は4期連続で過去最高益を更新。原材料価格の高騰や人件費上昇、円安進行といった外部環境の変動がある中でも、各セグメントは堅調に推移。繊維事業では、コロナ後のオケージョン需要の反動減が一部見られたものの、婦人衣料やテキスタイル(輸出)などが引き続き健闘し、安定した収益を確保した。化学品事業では、全般的な市況低迷や需要減退の影響を受けて減収となったものの、子会社の債権一部回収による貸倒引当金戻入の効果などにより増益を確保。高付加価値商材の伸長も見られた。機械事業は、事業の選択と集中によって赤字から黒字へと転換しており、為替差損の反動も業績改善に寄与した。形態別売上高では、国内向け(国内、輸入)が減少、海外向け(輸出、海外)が伸長した。
2026年3月期の売上高は330,000百万円(前期比5.9%増)、営業利益15,000百万円(同3.5%増)と、増収増益を計画している。中期経営計画「CIP2025」最終年度は成長戦略の基盤構築を遂行し、売上高は計画比減収を見込むが、収益性の改善を継続して利益は安定的に確保していく。繊維事業では、引き続き国内衣料向けだけでなく、輸出や機能性素材の需要取り込みを強化し、グローバル対応を図る。海外拠点及びグループ会社と連携し、川上から川下まで網羅できるサプライチェーンにさらに厚みを加え、適地生産・適地販売が可能な体制を構築。「BLUE CHAIN」商材の深化も図る。また、化学品事業では、体制を磨き上げつつ、デジタル融合を図りながら重要分野7分野(電子・半導体材料、電池材料・非鉄金属、ヘルスケア 、香粧品、農薬・飼料・肥料、フードマテリアル・加工食品、グリーンビジネス)に注力する。
中長期目標では、「高機能・高専門性を基盤としてグローバルに進化・変化し続ける企業集団」と基本方針として企業価値の向上を図っていく。VISION2030 ありたい姿で、売上高4,000億円、税引前当期純利益200億円を掲げている。海外事業の強化・拡大や変化に即応したサステナブルなビジネスの創出を基本戦略に、繊維事業では引き続き高機能・高専門性の追求と差別化・競争力強化、化学品事業では、継続したイノベーションにより新たなビジネスの構築を目指す。そのほか、蝶理は、2025年4月に新基幹システム(SAP)の稼働を開始し、業務改革プロジェクト「CARAT」による社内体制の抜本的な変革を進めている。これにより、グローバルスタンダードに基づくガバナンス体制の整備と、効率的な事業推進体制の構築が可能となる見通しである。
株主還元についても、基礎的な収益力や成長戦略への投資資金の確保に留意しつつ、安定的かつ継続的な配当を実施。連結配当性向30%かつ株主資本配当率(DOE)3.5%以上を還元方針としており、今期予想配当利回りは3.5%付近で推移している。
総じて、蝶理は「選ばれる会社」というキーワードのもと、強みである高機能・高専門性のビジネスモデルを軸に着実な成長を遂げている。中期的には海外市場での展開強化、基幹システム(SAP)導入による業務効率化、サステナビリティ戦略の推進など、多方面での企業価値向上策が進行中である。財務体質の健全性、安定配当、高いROEを兼ね備えたバランスの良い中堅商社として、今後の動向に引き続き注目したい。
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