―15兆円の待機資金を覚醒させる、グロース株とバリュー株のモンスターを探せ―
早いもので2023年相場も折り返し地点に立った。来週からは名実ともに7月相場入りとなる。6月30日の東京株式市場は日経平均株価が3万3000円近辺で下値を探る展開となったが、後場後半に入ると下げ幅を縮小し、あと一歩でプラス圏に踏み込むような場面があった。結局45円安の3万3189円と3日ぶりに反落したものの、週央の650円あまりの急騰が利いて週間ベースでは上昇した。
4月新年度入りから今月中旬までの2ヵ月半にわたり、日経平均は大方の想定を大きく上回る強烈な上値追いトレンドを形成してきた。最近は足を止める回数もやや増えてきたとはいえ、個別株の物色意欲は旺盛といってよい。値上がり値下がり銘柄数をもとに算出した相場のバロメーターとして注目される騰落レシオ(25日移動平均)は、6月29日現在でプライム市場、グロース市場いずれも113%とほどよくエンジンがかかったままの状況にある。
一方、個人投資家の体感温度を示す信用評価損益率は、ネット証券大手の直近データによると全体でマイナス4.8%とこちらも投資家マインドは良好な状態だ。おおむね資金の回転が利いた環境にあり、回収したキャッシュはMRF(マネーリザーブファンド)に待機資金として寝かされ、これが過去最高の15兆円規模に膨らんでいる。
この眠れる個人マネーが次はどこを目指すのかが問題である。グロース(成長)株の追撃もしくはバリュー株の押し目買いなど投資家のスタンスによって異なるが、グロースもバリューも銘柄選別が進む中で輝きを放ち続けている銘柄が何であるのか、それを探す作業こそが重要となってくる。今回のトップ特集では、中長期的に上値余地が大きいとみられる成長期待株と割安株にスポットを当てた。
●AI関連人気でグロース株の新章開幕
世界的な金融引き締めモードが続くなかで、ハイテク系グロース株は意外なほどの強さを発揮している。米国株市場を見ても一目瞭然で、パウエルFRB議長がタカ派的発言でどんなに牽制しようとも、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は上値指向を強め、今年に入ってからのパフォーマンスはNYダウと比べても大きな差がついている。まして、日本では日銀の植田総裁が強力なハト派路線を継承しており、低金利環境下でグロース株に優位な地合いが続く。最近では、日米ともに半導体関連への投資資金の流入が目立ったが、この背景にあるのが 生成AI市場の急拡大がもたらした半導体特需だ。この生成AI人気は当然ながらソフト分野にも波及、デジタライズの波に乗るAI関連株にも物色の矛先が向かっている。
ハイパーグロース株に象徴される成長期待の強い銘柄は、足もとの業績が絶好調ということよりも、そのビジネスモデルで数年後にどういう収益が想定されるかということが重要な意味を持つ。時流に乗っているだけではだめで、収益基盤の伸びしろが将来的に広がっていくのか、それとも食い潰して終わりなのかを見極める必要がある。今後の成長に確信が持てれば、足もとのPERは株価を測るモノサシとして意味をなさない。爆発的な成長への期待は株価上昇の最強の原動力といってよい。
株式投資の醍醐味ともいえるテンバガー銘柄発掘は、成長株投資の代名詞ともなっている。テンバガーを狙うのであれば、原則的に他とは違う収益成長スピードが求められるが、もう一つ外せない条件としては当該企業が設立後それほど時間を経ていない若い会社である必要がある。言うまでもなく時価総額は小さいほうが、株価の変化率は大きくなる。それを念頭に置いて銘柄選びをするのがコツである。
●バフェットと東証効果でバリュー大復活
一方、バリュー株も負けてはいない。今年4月に来日した著名投資家ウォーレン・バフェット氏が総合商社株への追加投資を表明し、三菱商事 <8058> [東証P]をはじめ総合商社株がかつてみたこともない大相場を演じた。ここでの大きなポイントとなったのがPERやPBRなどトラディショナルな投資指標の割安さだった。特にPBRについては、東証によるプライム・スタンダード上場企業に対する低PBR改善要請も加わり、新たな株高潮流を生んだ。
低PBR株を選別する場合のポイントは2つ。一つは業績が赤字ではないこと。赤字もしくは今後に赤字決算が予想される銘柄は投資対象とはなりにくい。そしてもう一つは株式需給面からの切り口で、日々の商いがしっかりと行われていること。超薄商いでは資金は寄ってこない。逆にある程度の出来高流動性が担保されるのであれば、株価には黙っていても浮揚力が働く。また、1倍を大きく下回る「超低PBR株」は地銀株に集中しているが、地銀は他の業態と同じモノサシとして低PBRをあてがいにくい面がある。地銀セクター以外で低PBR修正期待株を探すと、出来高が全く伴わないことで蚊帳の外に置かれている銘柄が多いことに気づかされる。
東証が掲げる改善要請の真意を端的に言えば「株価意識を持った経営」ということであり、常態的に出来高をこなせなければそのスタート地点にすら立っていないことになる。このハードルをクリアして初めて低PBR株の投資対象として浮上する。そしてマーケットに認知されれば、株価はグロース株顔負けの“変身高”を演じる可能性も秘めている。
今回の特集ではグロースとバリュー2つの切り口で、それぞれ株価の変貌余地が大きいと思われる有望株を3銘柄ずつ厳選エントリーした。
<その1>収益高成長シナリオに期待満載の3銘柄
【Arentは建設DXでニッチトップ目指す】
Arent <5254> [東証G]は今年3月下旬に東証グロース市場に新規上場した直近IPO銘柄だが、成長期待は非常に高く、近い将来に株価の居どころを大きく変える可能性を内包している。建設業界を主要顧客としたデジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティングを展開、システムの受託開発や販売も手掛ける。デジタライズ化の推進で、顧客企業の業務内容を改善するだけでなく、新規事業の創出によりトップラインの拡大を実現するプロダクト共創開発が同社のビジネスの主柱を担う。日本最大級のDXコンテストで特別賞を受賞するなどその実力は折り紙付きだ。23年6月期業績は売上高が前期比ほぼ倍増となる19億8800万円を見込み、増収効果の発現で営業利益は同2.8倍の6億7400万円予想と急拡大する。続く24年6月期の営業利益は10億円突破も十分視野に入りそうだ。株価は6月6日に上場後の高値である7540円をつけた後、調整を入れているが、最高値圏への再浮上から1万円台活躍を目指す。
【プライムストはWeb高速化で飛躍的成長へ】
プライム・ストラテジー <5250> [東証S]は今年2月下旬に東証スタンダード市場に新規上場したニューフェース企業で、DX推進時代の波を捉えニッチ分野でシェアを急速に開拓している。Webサイトの高速化及びセキュアに稼働させる保守・運用サービス(=超高速CMS実行環境「KUSANAGI」を中心とした製品群)を主力展開。フルマネージド型のサポートサービス「KUSANAGIマネージドサービス」を軸にクラウドインテグレーションサービスなども手掛ける。Webサイト最適化診断ツールと「チャットGPT」の連携などAI分野の研究開発も強化の途上にある。業績は22年11月期に営業利益が前の期比で倍増、続く23年11月期も前期比21%増の3億5800万円と好調な伸びを見込む。更に24年11月期以降も2ケタ利益成長局面が続きそうだ。株価は上場3日目につけた3935円の高値奪回が目前であり、青空圏である4000円台を短期間で駆け上がる可能性もある。
【ビープラッツはサブスク基盤提供で時流に乗る】
ビープラッツ <4381> [東証G]は販売・管理プラットフォームをサブスクリプション(継続課金)サービスで提供する。月額料金を払って車に乗れるトヨタ「KINTO」も同社のシステムを採用している。今年2月にはソフトバンク <9434> [東証P]のIT子会社と業務提携し、サブスク商材の販売で協業するなど業容拡大に向けた布石にも余念がない。今後も企業のビジネスモデル構造はサブスク型への転換が一段と進んでいくことが想定され、つれて同社の活躍余地も高まっていくことが予想される。業績は既に急成長路線に突入している。成長加速局面に入った23年3月期は営業利益が前の期比10倍となる1億8000万円、続く24年3月期は前期比6割増の2億8700万円を見込む。提携戦略などで25年3月期以降も高水準の利益拡大トレンドをまい進する公算は大きい。時価総額100億円未満と小型で株価の値動きは速く、6月20日の年初来高値更新から3000円台を走る展開へ。
<その2>好業績・超割安で水準訂正必至の3銘柄
【ミクニは電動化時代見据えた部品技術で活躍へ】
ミクニ <7247> [東証P]は独立系の自動車部品メーカーで、スズキ <7269> [東証P]やヤマハ発動機 <7272> [東証P]などを主要顧客に高度な商品技術が評価され安定した販売実績を誇る。電子制御による燃料供給装置ではCO2排出削減などで優位性を発揮するほか、EVトラック向け電動オイルポンプの生産なども手掛けている。同社の技術は電動化時代を見据えたもので、eアクスルなどの駆動ユニット向けで今後の需要開拓が期待できる状況だ。自動車生産拡大の流れを背景に足もとの業績も回復色が濃い。24年3月期は営業利益が前期比3割増の40億円予想、最終損益も前期の16億8200万円の赤字から16億円の黒字に急改善する見通し。時価予想PERは9倍台と割安なほか、PBRも0.4倍台と水準訂正余地が大きい。しかも24年3月期は記念配当を加えて年20円配を計画しており、配当利回りは4.4%前後に達する。株価は昨年1月につけた高値546円が当面の目標となる。
【タイガポリは需給面も軽く上昇トレンド一貫】
タイガースポリマー <4231> [東証S]は自動車向け樹脂成形部品や産業用ホースなどを製造している。自動車向け成形品についてはコンピューターを利用した工学支援システムであるCAE技術を駆使して付加価値の高い商品開発・設計を行っている。主要顧客のホンダ <7267> [東証P]向けを中心に自動車用の吸気系・空調部品や、エンジンカバーなどの成形品が回復局面にあるほか、産業用ホースも米国で高水準の需要を確保しており、今期業績は営業利益段階で前期比倍増の22億円予想と拡大が顕著だ。株価は4月中旬以降もみ合いを上放れ一貫して上昇基調を明示しているものの、PERは8倍台、PBRも0.3倍台半ばにとどまっている。24年3月期の年間配当は前期比2円増配となる14円を見込んでいるが、来期以降も増配が続く可能性がある。信用買い残は低水準で600円近辺の株価は依然として値ごろ感十分といってよい。需給面からも600円台から上は滞留出来高が少なく上値が軽い。
【ウッドワンは業績急回復でPBRも超割安圏に】
ウッドワン <7898> [東証S]は木製の住宅建材大手で、ニュージーランドに林木の更新から育成全般にわたる造林を有し、アジアで加工を行っている。今年4月に建材の価格改定を実施し利益採算が改善、24年3月期営業利益は前期比2.5倍の19億円を見込むなど業績回復が急だ。また、環境対応にも抜かりなく取り組んでおり、高品質で耐久性の高い構造部材「JWOOD」の開発・製品化などで実力を発揮している。PBRが0.2倍台と低PBR株の中でも割安感が際立っているのが特長。年間配当は21年3月期以降、今期計画も含め4期連続の24円配で配当利回りも2%を超えるが、自社株買いなども合わせて一段の株主還元が期待されるところ。株価は26週移動平均線との上方カイ離を解消し、テクニカル的にも買い場と判断される。今年2月下旬から3月末にかけて株価を60%以上も切り上げるなど急騰性も内包。3月末につけた年初来高値1473円奪回が当面の目標に。
株探ニュース
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