葬祭公益セグメントは、東京都23区内に9か所ある火葬場のうち6か所にて火葬事業を担う公益性の高い事業であり、子会社の東京博善が運営している。「墓地・埋葬等に関する法律」により、法律施行前に事業を行っていた民間業者を除き、火葬施設の運営は原則として自治体のみとなっているため、実質的に民間の新規参入が困難な事業である。また、各地域の火葬場ごとに一定の住みわけがなされており、競合環境も発生しづらい。東京都の死亡者数は2065年ごろまで増加傾向が続くと予測され、今後30年ほどは火葬場の稼働率は徐々に高まる見込みだ。2025年3月期は火葬件数が前期比で105.8%と増加し、売上高は5,986百万円(前期比8.1%増)、セグメント利益は1,249百万円(同15.6%増)と堅調に推移。燃料費や人件費の上昇があったものの、火葬料の見直しによって一部のコスト上昇分を適切に反映するとともに、燃料サーチャージ制度の廃止により分かり易い料金体系に移行し、安定的な運営体制を維持した。
葬祭収益セグメントは、総合斎場運営事業と葬儀サービス事業で構成される。総合斎場運営事業を担う東京博善が管理・運営する式場は火葬場と同じ敷地内に併設されており、ご遺族や参列者の負担を軽減する利便性が特長となっている。2022年に開始した葬儀サービス事業は、式場を運営する強みを生かしたエンディング関連事業拡大策の一環であり、子会社の広済堂ライフウェルとグランセレモ東京(同社が51%、燦ホールディングス<9628>が49%を出資)が展開する。2025年3月期は、式場の増床や改修を通じた利便性向上による式場利用の好調な推移に加え、TVCM放映による葬儀サービス事業の集客強化が奏功し、売上高10,442百万円(前期比20.4%増)、セグメント利益4,288百万円(同22.3%増)と大幅に増収増益を達成した。
資産コンサルティングセグメントは、広済堂ファイナンスによる金融サービスと、東京博善あんしんサポートによる相続相談・不動産仲介事業で構成される。2024年3月期から独立セグメントとして開示され、2025年3月期は売上高1,796百万円(前期比291.1%増)、セグメント利益1,447百万円(同404.5%増)と大幅な増収増益を記録。継続中の大型貸付案件が収益に大きく貢献したほか、相続や不動産仲介に関する相談・成約件数の増加も寄与した。
情報セグメントは、縮小する印刷市場に対応するためコスト改革を進めている。2025年3月期は売上高14,793百万円(前期比2.5%減)と減収だったが、セグメント利益は394百万円(同26.9%増)と増益を確保した。同様に事業の再構築を進めている人材セグメントは、売上高5,282百万円(前期比6.0%減)、セグメント損失158百万円(前年同期は78百万円の損失)の着地となった。
「中期経営計画5.0」においては、最終年度である2028年3月期の目標数値として売上高46,800百万円、営業利益10,000百万円、経常利益9,650百万円、当期純利益6,370百万円を掲げている。葬祭公益セグメントでは、自社斎場の効率的運営を進めつつ、周辺地域も含めた火葬取扱い件数の拡大に取り組む。葬祭収益セグメントでは、式場増床を継続する一方、「東京博善のお葬式」ブランドの式場出店推進やTVCM放映を通じて、2028年3月期までに葬儀施行件数を2025年3月期の2,600件から6,500件超に増やすことを目標とする。資産コンサルティングセグメントは、相続分野における不動産案件獲得の取り組みを継続、安定的収益の確保を図る方針である。情報セグメントと人材セグメントは、それぞれ事業構造の見直しを継続し、中核事業の再構築を進める。
資本政策については、株主還元と成長投資へのバランスをとった配分を方針として掲げている。株主還元では、2023年3月期に復配後は増配を継続しており、2026年3月期も前期の12.74円から13.34円へと増配の見込み。配当性向35%を確保しつつ40%を目標とし、配当水準の維持と向上を目指す方針だ。成長投資については、葬儀施行件数の増加に対応するため、既存エリアの外での葬儀場の新規出店と戦略的M&Aなどに資金を振り向ける計画。東京博善の式場増築への投資も進める。高齢化を背景に市場拡大が継続、エンディング関連事業で着実な成長継続が期待できる同社の今後には注目しておきたい。
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