2. 事業内容
トレードワークス<3997>は金融ソリューション事業、FXシステム事業、デジタルコマース事業と、子会社のあじょで展開するソフトウェア受託開発及びITコンシェルジュサービス事業、ペガサス・システムで展開する基幹サーバー・ネットワーク設計及び構築、システム運用のコンサルティング事業の5事業に分けて売上高を開示している(従来、区分開示していたセキュリティ診断サービス事業は2024年12月期よりデジタルコマース事業に統合した)。従前は金融ソリューション事業が売上高の約9割を占めていたが、子会社が加わったことで2024年12月期第2四半期累計では64.3%まで低下した。しかし、今後も同社の収益をけん引するコア事業としての位置付けであることに変わりはない。
(1) 金融ソリューション事業
金融ソリューション事業では、主に証券会社や金融情報システムサービス会社向けのシステム開発・保守・運用サービスを行っている。フロー型ビジネス(パッケージ製品販売や請負開発)と製品導入後の保守・運用サービスが2018年12月期までは売上高の過半を占めていたが、クラウドサービスの普及拡大によってここ数年はストック型ビジネス(SaaS型クラウドサービス、顧客に機能の提供のみ行う)の契約が増加傾向にあり、2019年12月期以降はストック型ビジネスが過半を占めている。
主力製品・サービスは、投資家向けインターネット証券取引システム「TradeAgent」であり、売上高の大半を占めている。そのほか、ディーリングシステムや証券取引所売買端末、不公正取引監視システム、個人型確定拠出年金(iDeCo)システムなどがある。これらの製品を顧客のニーズに合わせてカスタマイズ開発し、保守・運用まで行っており、累計導入社数は40社を超える。なお、SaaS型クラウドサービスについては、初期導入費用と月額利用料、保守料等のバランスが開発案件ごとに異なる。現在の主要顧客(売上高構成比率10%以上)は、auカブコム証券(株)、岩井コスモ証券(株)、松井証券<8628>の3社で、2023年12月期はこれら合計で全売上高の43.9%を占めた。新規顧客についても年間2~3社ペースで開拓している。
(2) FXシステム事業
FXシステム事業では、FX会社向けにFX取引システム「TRAdING STUDIO」及びFXチャートシステムを開発・提供している。ヒロセ通商<7185>や(株)DMM.com証券、(株)SBI BITSなどが主要顧客で、取引社数は15社程度である。SaaS型サービスでの提供を行っており、売上高の大半がストック型収入となるため売上変動は小さく、安定収益事業である。
(3) デジタルコマース事業
デジタルコマース事業では、金融システム開発で培ったコア技術をベースにECプラットフォーム及び各種ソリューションを提供している。現在のメインビジネスは、提携先のコネクテッドコマースが展開する「AZLM」で活用しているECプラットフォーム及びOMO(Online Merges with Offline)※プラットフォームである。同システム(EC、決済、専用アプリ等)全般を開発・運営・管理しており、月額サービス利用料に加えて流通額に応じた販売手数料を得る収益モデルである。
※ 実店舗やECサイトから収集する顧客情報を一元管理、多様なチャネルのポイントを共通化することで相互送客を実現するマーケティング手法を指す。
セキュリティ診断事業では、事業会社のWebサイトやネットワークにアクセスし、セキュリティ上の問題点(脆弱性)の有無を診断するサービスを提供している。診断サービスはオンサイトまたはオンラインによる手動診断のほか、自動診断ツール「SecuAlive」も提供している。「SecuAlive」は指定したURLに定期的に自動アクセスし、脆弱性の有無を自動診断する比較的簡便なサービスで、料金も手動診断より安価な水準で提供している。顧客企業は人材派遣会社やEC事業者、サービス業など多岐にわたり、契約社数は30社弱である。
(4) ソフトウェア受託開発及びITコンシェルジュサービス事業
ソフトウェア受託開発及びITコンシェルジュサービス事業では、製造・生産管理システム、販売管理システム、営業支援システム等の受託開発のほか、ITシステムの導入コンサルティングや運用サポートなどを子会社のあじょが展開している。
(5) 基幹サーバー・ネットワーク設計及び構築、システム運用のコンサルティング事業
ICTソリューションサービスを運用するうえで不可欠な基幹サーバー・ネットワーク設計及び構築、運用・保守等のSES(システムエンジニアリングサービス:エンジニアの常駐派遣)事業を子会社のペガサス・システムで展開している。主要取引先は大手電力・ガス・通信会社などで売上高の約8割が継続取引によるものである。
3. 市場動向と同社の強み
同社が主力市場としている証券業界のIT投資額は年間3,000億円前後と見られ、提供形態は、クラウドでの提供が全体の7割以上を占め、残りがスクラッチ開発※やパッケージ製品である。ここ数年インターネット取引の普及拡大や取り扱い商品(外国株式、投資信託、デリバティブ、新NISA、暗号資産、FX、iDeCoなど)の拡大などもあり、IT投資額は着実に増加しており、今後も年率1ケタ台の安定成長が続くことが予想される。
※ 製品を開発する際に、既に存在するものを土台とせずにゼロから新たに作り上げること。
証券取引システムは、従来から大手証券会社系列のシステム開発会社がシェアの大半を握っており、トップベンダーの野村総合研究所<4307>、2位の(株)大和総研のグループで全体の約7割を占めている。同社がこれら大手証券やその系列子会社の取引システムを受注する可能性は低いが、過去には総合証券会社の取引システムをリプレースした実績もあり可能性はゼロではない。また、インターネット取引システムを導入している証券会社数は、ネット専門証券会社の増加もあって2013年3月末の57社から2024年3月末には95社まで増加しており、新規参入する証券会社があれば同社にとって顧客開拓の好機となる。
同社の強みは、証券に関する深い知識を持ったエンジニアを自社で多数抱えることで、顧客ニーズに最適なシステムを競合大手よりも短期間かつ低コストで設計・開発できる点にある。証券システムの開発に関しては精鋭集団とも言える。また、証券業界では新たな金融商品の開発や取引規則の改正などによりシステム改修ニーズが頻繁に発生するが、こうしたニーズに対しても低コスト・短期間で対応可能だ。これは同社がエンジニアに対して金融知識を深めるための研修に注力していることに加え、システム開発を完全オブジェクト指向※で行っていることも要因だと考えられる。
※ ソフトウェア開発技法の1つ。あるデータ処理をオブジェクト(モノ)にまとめて部品として扱い、部品の組み合わせでシステム全体を構築していく開発手法のこと。部品の再利用や分類がしやすく、開発工程を効率化できる利点がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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