・M&Aが当たり前になってきた。筆者がアナリストレポートを書いている企業においても、自らのサステナビリティの確保、成長性の追加のためにM&Aが実行されている。
・目的は何か。①自らの本業を強化するために、同業他社を傘下に入れる。②事業を多角化するために、土地勘のある異業種事業を手に入れる。③海外事業の拠点と顧客を獲得するために、海外の類似企業を買収する。
・④事業ポートフォリオを入れ替えるために、新規の周辺事業を手に入れる。⑤周辺事業を強化するために、合弁事業を自社の完全子会社にするなど、さまざまな理由があげられる。
・規模はどうだろう。自己資本、営業キャッシュ・フロー、借入余力などからみて、無理のない範囲で行われている場合が多い。公募増資を利用する場合もあるが、その後のPMIに時間を要すると、投資家の反応はネガティブになる。
・買収後、企業価値は向上しているか。投資リターンは、十分見合っているか。本業の中に一体化してしまうと、外からは分けてみることができない。それでも、全体の収益性が高まっているなら問題ない。
・別のセグメントに分けられて、PMIに時間を要していると、低収益性が目立って、その後の対応が課題となってくる。新たな事業基盤を確立し、成長性が高まり、サステナビリティにうまく結びつくと評価は一気に向上してくる。それには、3~4年を要することも多い。
・2023年8月に、「企業買収における行動指針」が経産省から出された。産業組織課の話を聞きながら、M&A戦略を企業評価にいかに活用するかを再考した。
・スピンオフに関する税制改正で、カーブスホールディングス<7085>が、コシダカホールディングス<2157>からスピンオフした。コロナ禍を乗り越えて上手くいっている。
・2022年のパーシャルスピンオフ税制改正で、ソニーフィナンシャルホールディングスがソニーグループ<6758>からスピンオフされる予定である。
・事業ポートフォリオでは、出ていく事業もあれば、入ってくる事業もある。新しいポートフォリオの構築は企業価値向上の根幹である。
・海外企業による日本企業のM&Aも増えている。日本企業の活性化に向けて、これを促進しようという動きも活発になっている。
・PHCホールディングス<6523>が2021年に上場した。もともとは三洋電機にあった事業であるが、三洋電機を買収したパナソニック<6752>の事業ポートフォリオの中で、ノンコアと位置付けられた。
・十分な投資ができない状況にあったが、KKR(米国の大手PEファンド企業)に買収された。KKRからの支援は、資金だけでなく、経営支援チームから事業へのアドバイスもあった。
・医療機器業界において、その後もM&Aを手掛け、業界中位から大手の一角に伸し上がった。そして、上場に至った。パナソニックはノンコア事業を切り離し、KKRは事業再生でリターンを上げ、会社は上場企業として独立することができた。
・日本企業は、コアでない事業を低収益のまま長らく抱えていることが多い。本業の強化や周辺ビジネスに参入に当たって、M&Aを行う事例も増えているが、その後のPMIに手間取っていることも多い。M&A戦略を成功させていくには、マネジメントの力量が問われる。
・M&Aでは、1)その企業を欲しいという投資先が何社もあって、互いに対抗する「競合的買収」が増えている。2)買収対象企業の了解を得ない「同意なき買収」(敵対的買収)も目立っている。前者では東洋建設、後者では新生銀行の例があげられる。
・一方で、買収されたくないということで、買収防衛策を講じる企業もある。それが本当に妥当なのか。会社の何を守るのか。株主やステークホルダーにとって望ましいのか。ここでも戦略とガバナンスが問われている。
・経産省の「企業買収における行動指針」では、望ましい買収について、その考え方をまとめている。なによりも市場機能が健全に発揮されているか。株主の利益、株主の意思が尊重され、手続きにおいて透明性が担保されていることが重要である。
・その上で、1)企業の成長性、2)経営の規律と機会の確保、3)リソースの最適配分や健全な新陳代謝、に資するかどうか。その実効性の発揮が問われている。
・買収する側、買収される側の双方において、その意思決定プロセスは妥当か。執行サイドがフェアに判断し、取締役会での真摯な検討を経て、決定されることが必須である。さらに、十分な情報開示が行われ、一般株主、一般投資家が企業価値向上の行方を判断できるようにしてほしい。
・M&Aがうまい企業とそうでない企業がある。企業の内部成長戦略は相対的に分かりやすいが、M&Aによる外部成長を目指すといわれても、投資家はなかなか判断しにくい。事業ポートフォリオを入れ替え、業界再編をリードし、企業の新陳代謝を促進するM&Aで、ぜひ成功体験を積んでほしい。
・M&Aの戦略を立て、それを実践し、PMIをきちんと仕上げていくことができる組織能力が備わっているか。ここが企業価値を創り出すもう1つのパワーである。この組織能力を見極め、戦略とガバナンスを的確に評価して、投資に活かしたい。
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