―トランプ逆風なんのその、カーボンニュートラルで設置拡大に待ったなし―
「EV(電気自動車)充電器」関連株に改めて注目してみたい。 EV不振による欧州メーカーの戦略転換や、米国においては“脱EV”を唱えるトランプ氏が次期大統領に決まったことで、強い逆風が吹いている。当然、株式市場でもEV関連株への風当たりが強まることは予想される。とはいえ、日本においてEV推進の礎(いしずえ)となる充電インフラの整備が滞るわけではない。出遅れが指摘される日本だが、政府が目標に掲げる2030年までの充電インフラ30万口設置に向けて着実に歩みを進めており、ここにきては設置スピードも加速している。
●トランプのおかげで…
トランプ米次期政権の誕生を前に、早くも購入補助金の廃止検討が伝わるなど、EVに対する逆風は強い。テスラ
この分野で大きく後れを取った日本だが、そもそも国産メーカーは急速なEVへの移行については、充電などインフラ面からも推進に懐疑的だったといえそうだ。こうしたインフラ整備の遅れは日本に限らず、消費者をEV購入に向かわせない大きな理由のひとつになっている。最近では、寒冷地での性能低下なども需要拡大の足を引っ張る形だ。当然ながら、国も更なる設置加速に向けて手をこまねいてはいない。ある業界関係者は「トランプのおかげで、(在任中の4年間)日本としては遅れが取り戻せるチャンスかも」と、こっそり話す。
●30年に30万口の充電器整備へ
経済産業省によると、今年3月時点では急速・普通を合わせて約4万口の充電器が整備されたという。急速充電器では22年度末と比較して約1100口増加し1万口を超え、普通充電器は集合住宅などで22年度末から約5800口増加するなど合計で3万口を超えている。更に、昨年10月に策定した指針では、30年に30万口の充電器の整備、平均出力の倍増(高出力化)を目標に設定した。
政府などによる補助金の増額が、充電インフラの整備を大きく後押しした格好だ。また、今年3月には、経済産業省及び国土交通省が、新築の集合住宅を供給する事業者に対して、EV用充電器の積極的な設置に向けた対応を行うよう文書で要請。既築の集合住宅に比べて、新築の方が設置に伴う合意形成が容易であることや、工事費用が少ないケースが多いとの見地から、こうした要請を出したようだ。
政府がEV拡大を推進するなか、既設EV充電器の更新需要に加え、充電器の空白地域も存在するだけに、見方を変えれば伸びしろの大きさが意識される状況でもある。官民一体となったEVインフラ整備の波は、大きなうねりとなり設置加速へとつながることが予想される。
こうしたなか11月1日、不二サッシ <5940> [東証S]は積水ハウス <1928> [東証P]と共同で、積水ハウスの賃貸住宅シャーメゾンと戸建住宅向けEV充電器設置用ポールを開発し、12月から出荷すると発表した。今回開発した「シャーメゾンEV充電器設置用ポール」は、1本のポールでコンセントを1個付と2個付できるオリジナルポールで、年8000セットの販売を目指している。今後、集合住宅でのEV充電器設置が進むことで、インフラ整備に拍車がかかることが見込まれる。
●オートバクス、急速充電器100店舗設置へ
また、さまざまな企業が充電インフラ設置加速に向けて動き出している。オートバックスセブン <9832> [東証P]は10月、EV急速充電器を30年までにオートバックスグループ100店舗に設置すると発表。同社はこれまでも、普通充電器をオートバックスグループ105店舗(急速5店舗・超急速1店舗を含む)に設置するなど、EVユーザーの利便性の向上を図ってきた経緯がある。同社の25年3月期上期(24年4~9月)の連結決算は、営業利益段階では前年同期比27.3%減となり、株価も下値を探る展開。ただ、通期は前期比49.8%増の120億円の見通しを据え置いている。また、今冬はラニーニャ現象の影響を受け、日本海側では昨年よりも降雪量が多いとの予報もある。冬用タイヤ、チェーンなどの売り上げは、降雪量が大きく影響するだけに、冬を迎えるなか注目は怠れない。
●高値圏でもみ合うミライトワン
通信工事大手のミライト・ワン <1417> [東証P]は、EV充電スタンド構築で豊富な施工実績を持ち、充電インフラ整備への取り組みを積極的に展開している。同社は、成長ドライバーとしてグリーンエネルギー事業の拡大を掲げ、そのなかEV充電器を太陽光発電や蓄電池関連とともに、同事業の中核としている。今年3月には磯子カンツリークラブ(横浜市磯子区)の駐車場に、双日 <2768> [東証P]などと蓄電池・EV充電スタンド併設型ソーラーカーポートを提供・運転開始した。ソーラーカーポートの商用導入は、今後グリーン電源とEVインフラの普及拡大に大きく寄与するとみている。同社の25年3月期の連結営業利益は、前期比51.4%増の270億円を計画。株価は高値圏でもみ合う展開だが、11月7日につけた年初来高値2291円50銭奪回からの一段高期待も。
●販売台数トップクラスの東光高岳
東光高岳 <6617> [東証P]は東電系で送配電機器を手掛けるが、蓄電池に加えEV充電器関連の一角としても投資家の視線は熱い。11月14日には、EV急速充電器「SERA(セラ)」シリーズに、新たに大容量の150キロワットモデル「HFR1-150B12」を追加し、来年4月から販売を開始すると発表。同社の急速充電器の全国販売台数は、これまでで約5000基(24年3月時点)としており国内トップクラスだ。10月28日には、25年3月期連結業績予想について営業利益を40億円から50億円(前期比39.4%減)へ上方修正すると発表。一般向けのプラント物件やスマートメーター、計器失効替工事の増加で業績の好転が見込まれるという。同社は4月に不適切事案を巡る影響で、好調だった前期から一転して25年3月期の予想を減収減益とした。株価はこれを受けて急落したが、ここにきてようやく織り込む展開を見せ始めている。
●ニチコン、エプコ、平河ヒューテにも注目
ニチコン <6996> [東証P]は世界有数のコンデンサーメーカーだが、EV・PHV(プラグインハイブリッド車)用急速充電器にも傾注しており投資家の視線が向かう。100キロワット(2口)及び50キロワット(1口)、そして省スペース型で10~50キロワットのラインアップでニーズに応える。会社側では中間期の決算短信のなかで、EV走行の環境整備が推進されるなか、同社の急速充電器の設置が進んでいるとしている。ただ、業績は芳しくない。11月6日に25年3月期通期連結業績予想の修正を発表。営業利益は従来計画の100億円から52億円(前期比41.6%減)に大幅下方修正した。足もと株価は冴えないものの、業績については株価に織り込みが進んでいたこともありアク抜け感はある。また、生成AIサーバーなど、データセンター用途の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーが好調な点も、業績回復を後押ししそうだ。株価指標面では、PBRが0.6倍台と売られ過ぎの水準にあることにも目を配っておきたい。
エプコ <2311> [東証S]は水道給排水設備の設計とコンサルが主力だが、EV充電器事業にも注力している。11月11日に発表した24年12月期第3四半期累計(1~9月)の連結経常利益は、前年同期比14.0%減の1億8400万円となった。これは、再生可能エネ分野における基盤整備のための投資が先行したためで、営業利益段階では同91.7%増の2億6600万円で着地している。再生可能エネサービスは蓄電池及びEV向け充電器関連の設置工事請負が好調で、設計サービスでは同充電器の設置に関する申請図作成業務の受託が増加した。
電線・放送機器メーカーの平河ヒューテック <5821> [東証P]も、EV・PHV用AC普通充電器を手掛ける。また、充電器設置後の動作確認、メンテナンスに活用する普通充電器チェッカーなども扱う。11月1日に発表した同社の25年3月期上期(24年4~9月)の連結決算は、営業利益段階で前年同期比61.9%増の12億5100万円となり、通期計画の19億4000万円に対する進捗率は65%近くに達した。車載用ケーブルが引き続き堅調に推移している。株価は、11月12日に1679円まで買われ年初来高値を更新し、その後は調整局面入り。現在は、1400円台後半で再起の時を待つ。
●正念場のエネチェンジ
ENECHANGE <4169> [東証G]は、日本各地でEV充電設備の導入促進を進めており、関連銘柄の中核的存在といえそうだ。11月13日には、全国賃貸管理ビジネス協会に入会したと発表。これにより、全国の有力な賃貸仲介・管理会社約2000社に、「EV充電エネチェンジ」「空室通電エネチェンジ」を同協会の推奨商品・サービスとして提案していくとしており、導入加速に大きく寄与しそうだ。業績は22年、23年12月期と連続で営業大幅赤字となるなど厳しい状況が続く。EV充電事業を巡る会計処理問題も重荷となっていたが、9月には新体制のもとで新たな事業計画を発表しており、復活への足場を固めている状況だ。株価は、底値圏での上値の重い展開が続くが、再生ロードに向けた動きが出るか注視しておきたい。
株探ニュース
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