3. セグメント別推移
報告セグメントは地域別(2024年3月期より変更)に日本、中国、欧州、その他としている。過去4期(2021年3月期~2024年3月期)及び2025年3月期中間期の推移を見ると、2021年3月期は新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響により経済活動が縮小したため売上高が大幅に減少し、営業損益も悪化した。2022年3月期はコロナ禍の影響が和らいで売上高が回復傾向となったが、構造改革の一環として計上した一過性損失(営業利益段階で長期滞留在庫評価減の計上、加藤(中国)工程机械有限公司における貸倒引当金繰入額の計上、特別損失で希望退職金の計上、常陸那珂工場の減損計上、タイ工場の解散及び清算に伴う減損計上)により大幅な損失を計上した。2023年3月期はサプライチェーン混乱の影響で減収となったものの、構造改革の効果に加え、収益性を重視した販売戦略なども寄与して営業損益が大幅に改善(黒字化)した。2024年3月期は、主力製品における一部主要部品供給制約の影響が継続したことに加え、中国での需要回復遅れも影響して売上高が横ばいにとどまり、販管費増加がマイナス要因となったものの、売価・原価改善などの構造改革や為替の円安効果などにより営業損益が改善した。さらに2025年3月期中間期は、中国子会社2社の解散及び清算決定が売上高のマイナス要因となったが、一方で販管費削減等により全体の営業損益改善が進展した。営業損益は一過性損失を計上した2022年3月期をボトムに回復基調となっている。
品目別売上高及び海外仕向地別売上高の過去4期(2021年3月期~2024年3月期)及び2025年3月期中間期の推移を見ると、2021年3月期はコロナ禍の影響により、品目別売上高では建設用クレーン、油圧ショベルとも減少、海外仕向地別では中国を中心とするアジアが大幅に減少した。2022年3月期は国内が小幅増収だったが、海外の北米・欧州向けが回復傾向となった。2023年3月期はサプライチェーン混乱の影響を受けたため、収益性や受注残を勘案して優先した建設用クレーンの国内、油圧ショベル等の北米・欧州向けが増加したが、中国における油圧ショベルの需要減少によりアジア向けが大幅減収となった。2025年3月期中間期は、建設用クレーンは国内が一部大型製品の販売時期先送りの影響、海外が前期のアジア向け大口販売の変動で、いずれも減収だった。また海外向け油圧ショベルは中国子会社2社の解散及び清算決定により大幅減少した。なお品目別の売上構成比は建設用クレーンが6割で油圧ショベル等が4割、全体の海外向け売上比率は3割前後で推移している。
なお中国事業については、不動産不況を起因としたインフラ投資鈍化・建設機械需要減少や、中国地場メーカーとの販売競争激化などにより厳しい事業環境が継続しているため、2024年6月に加藤中駿(厦門)建機有限公司の解散及び清算を決議、2024年7月に加藤(中国)工程机械有限公司の解散及び清算を決議した。一方で、中国に代わる新たな主要市場としてインド及びその周辺国を含めた商圏を拡大する方針を打ち出し、2024年1月にインド事業準備室を新設した。そしてインド最大手のクレーン製造・販売企業であるACEと、インド国内での合弁会社設立に向けた協議を進めている。
外部要因により業績が大きく変動するため、収益性重視戦略を推進
4. リスク要因・収益特性と課題・対策
建設機械業界の一般的なリスク要因としては、景気・感染症・地政学リスクなどに伴う需要変動、国内外マーケットにおける競争激化、グローバルサプライチェーンの混乱、為替影響、販売価格と原材料・エネルギー価格の動向、製品不具合に伴う賠償責任、環境規制や技術革新への対応遅れなどが挙げられる。
建設機械業界の市場競合については、最も市場規模の大きい油圧ショベルはコマツ<6301>、日立建機<6305>といった大手をはじめとする競合メーカーが多く、競争の激しさが知られているが、その他の建設機械(建設用クレーン、高所作業車、ブルドーザ、道路舗装機械など)については、それぞれ得意分野を持つメーカーが高い市場シェアを獲得するなど、ある程度のすみ分けができている。同社の市場におけるポジションとしては、建設用クレーンではタダノ<6395>とともに大手、油圧ショベルでは中堅という位置付けになっている。
また建設機械業界おいては、需要変動・為替変動や競争激化の影響などで業績が大きく変動する傾向が見られる。同社の場合は、コロナ禍やサプライチェーン混乱の影響、さらに構造改革に伴う一過性費用計上などにより、2020年3月期から2022年3月期にかけて業績が大きく落ち込んだため、利益回復を最優先とする中期経営計画を策定し、売上拡大よりも収益性重視の戦略を打ち出している。そして2023年3月期以降はサプライチェーン混乱の影響が残りながらも、収益性重視戦略が奏功して利益水準が回復基調となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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