―経産省は社会実装に向けロードマップ作成に着手、関連企業のビジネスチャンス広がる―
経済産業省は1月28日、二酸化炭素(CO2)を回収して地下などに貯留する技術の普及に向けた工程表を検討する初めての会議を開いた。CO2の回収・貯留は「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と呼ばれ、政府が掲げる「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)」を実現するカギになる技術と位置づけられている。会議では30年中にCCS事業を開始するためには、23年度から調査・検証などを開始し、26年度までに最終的な投資判断をする必要があると指摘。今年5月中にロードマップの中間とりまとめを行い、脱炭素を経済成長につなげるための「クリーンエネルギー戦略」に反映させるとしており、関連銘柄が注目されそうだ。
●政府30年までの商用化見据える
政府はCCS技術の30年までの商用化・社会実装を見据え、北海道の苫小牧で12年から大規模な実証実験を行っている。苫小牧CCS実証試験センターは16年からCO2を貯留する作業を開始し、19年には目標としていたCO2の30万トン封じ込めを達成した。このプロジェクトは経産省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本CCS調査(東京都千代田区)が中心となって実施され、日揮ホールディングス <1963> や三菱ガス化学 <4182> 、Jパワー <9513> などが参加している。
第1回CCS長期ロードマップ検討会の資料によると、国際エネルギー機関(IEA)の試算に基づいた国内CCSの想定年間貯留量は50年時点で2億4000万トンとなり、480本の圧入井が必要になるという。今後のCCS事業の拡大が見込まれるが、CCSは新たな事業領域であり、事業者は適地の選定、事業計画から操業、サイト閉鎖までの作業手順や安全性確保策などを確立していくことが求められる。苫小牧CCS実証試験センターの場合には、候補地選定の検討・調査から作業開始まで約9年の期間を要しており、企業が投資判断できる支援や制度を早急に整備することが不可欠となる。
こうしたなか、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は1月24日、CO2貯留事業に関する一連の作業に必要な技術対応事項、安全性確保のための施設設備要件やモニタリング対応事項、CCSによるCO2排出削減量の算定方法などの推奨作業指針案を公表した。これにより、企業の取り組みが更に活発化することが期待される。
●石井鉄はCCS事業を視野に業務提携
石油資源開発 <1662> は、マレーシア国営エネルギー会社のペトロナスと同国におけるCCSについての共同スタディで合意し、両社による覚書を1月27日に締結した。共同スタディでは、CO2地中貯留の実施を視野に入れた適地調査や技術的な検討を20ヵ月程度実施する予定で、候補地でのCO2貯留可能量と最適な貯留方法などのCO2の地中貯留技術、排出量や回収可能量の試算を含むCO2の最適な回収・輸送方法、地中貯留したCO2のモニタリング手法などの評価を行うとしている。
石井鐵工所 <6362> は1月25日、ジェイ エフ イー ホールディングス <5411> 傘下のJFEエンジニアリングと業務提携した。両社のエネルギー関連技術やサービスを融合・補完する戦略的な協業関係を構築するとしており、協力して拡大が予想される新エネルギー導入事業やCCS事業など、カーボンニュートラル市場への積極的な参入を目指すという。
日本製紙 <3863> とタクマ <6013> は昨年10月、NEDOの委託事業「CCUS研究開発・実証関連事業/CCUS技術に関連する調査/CO2大量排出源からのCO2分離・回収、集約利用に関する技術調査事業」を受託したことを明らかにした。CCUSとは回収・貯留したCO2を有効活用するもので、この調査事業ではバイオマス発電施設での省エネルギー型CO2分離回収技術及び集約技術の検討、更に事業化の課題調査を行う。
新日本科学 <2395> は昨年9月、九州大学とCCSの可能性などを検討することを目的とした共同研究契約を締結したことを明らかにしている。同社は鹿児島県指宿市で地熱発電事業を展開しており、共同研究では同敷地内における大気中CO2の地中貯留などの可能性を検討する。地熱地域(火成岩帯)にCO2を貯留することで、CO2の鉱物化が促進され、安定してCO2を貯留できることが知られており、今後の動向が注目される。
このほかの関連銘柄として、日本CCS調査に出資するINPEX <1605> 、ENEOSホールディングス <5020> 、日本製鉄 <5401> 、三菱マテリアル <5711> 、東洋エンジニアリング <6330> 、千代田化工建設 <6366> [東証2]などにも注目。ボーリングマシンの設計・製造・販売を手掛ける鉱研工業 <6297> [JQ]や地質コンサルタント大手の応用地質 <9755> 、大気中からCO2を直接回収する技術「DAC(ダイレクト・エアー・キャプチャー)」の実用化を目指している川崎重工業 <7012> のビジネス機会も拡大しそうだ。
●液化CO2船舶輸送関連にも注目
カーボンニュートラル社会を実現するための有効な手段とされるCCSやCCUSでは、液化されたCO2を貯留及び利用する拠点まで輸送しなければならず、液化CO2船舶輸送の取り組みも活発化している。
三菱重工業 <7011> グループの三菱造船は先日、NEDOの「CCUS研究開発・実証関連事業/苫小牧におけるCCUS大規模実証試験/CO2輸送に関する実証試験」で活用する液化CO2輸送の実証試験船の建造契約を、内・外航船の船舶管理などを手掛ける山友汽船(神戸市中央区)との間で締結した。このプロジェクトは、エンジニアリング協会(東京都港区)が山友汽船から同船を借り受け、船舶による液化CO2輸送技術を確立するための研究開発と船舶輸送の実証試験を行い、川崎汽船 <9107> が輸送・荷役時における安全性評価と技術的なガイドラインの策定を担当する。
また、日本郵船 <9101> はノルウェーの海運会社クヌッツェン・グループと液化CO2の海上輸送・貯留事業に関する新規事業開拓やマーケティングを手掛ける合弁会社を設立したほか、商船三井 <9104> は三菱造船と実施していた液化CO2輸送船に関するコンセプトスタディー(概念研究)を既に完了。関西電力 <9503> は液化CO2出荷基地を舞鶴発電所構内に建設する予定だ。
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