―気候変動問題は重要なテーマの一つ、日本の技術をアピールする絶好の機会に―
19~21日に開かれる主要7ヵ国首脳会議(G7広島サミット)が目前に迫ってきた。エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、ウクライナやインド太平洋をはじめとする地域情勢、核軍縮・不拡散など国際社会が直面する課題は山積しているが、世界各地で深刻な災害を引き起こしている気候変動問題も重要なテーマの一つ。日本は議長国として取り組み姿勢をアピールする絶好の機会となることから、政府が利用拡大に向けて注力する「 水素・ アンモニア」関連株を改めてマークしておきたい。
●供給網構築に15兆円投資へ
政府は4月4日、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議を開催し、5月末をメドに水素基本戦略を改定する方針を決めた。2040年の導入目標を現状の6倍となる1200万トン程度まで増やすことを検討すると明記。エネルギー部門の 脱炭素化に向けて水素とアンモニアのサプライチェーン(供給網)を構築するため、今後15年間で官民あわせて15兆円を投資する計画を明らかにした。
改定の方向については「40年における水素などの野心的な導入量目標を新たに設定し、水素社会の実現を加速化」「30年の国内外における日本企業関連の水電解装置の導入目標を設定し、水素生産基盤を確立」「大規模かつ強靭なサプライチェーン構築、拠点形成に向けた支援制度を整備」「クリーン水素の世界基準を日本がリードして策定し、クリーン水素への移行を明確化」の4つを提示。脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の一石三鳥を狙い、日本の技術的な強みを生かし、世界展開を図るとしている。会議に出席した岸田文雄首相は、米国や欧州が巨額の水素投資を進めていることを引き合いに、「豪州や中東、アジアを連携した国際的なサプライチェーンの構築・拠点整備の具体化を加速するとともに、国内では規制や支援一体型でアジアに先駆けた先導的な制度整備を早急に進める」との考えを表明した。
岸田首相は22年1月、水素やアンモニアなど日本のゼロエミッション技術や制度、ノウハウを生かし、アジアの国々と連携して実情に即したかたちで、アジアのエネルギー転換、脱炭素化・ カーボンニュートラル実現を目指す取り組み「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提唱している。広島サミットに先立って4月に開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合では、温室効果ガス削減の具体策や数値目標での進展はほとんどなかったが、広島サミットでは議長国として問題解決へ強いメッセージが打ち出されることが期待される。
●水素関連銘柄の動向
直近では三菱重工業 <7011> [東証P]と岩谷産業 <8088> [東証P]が、カーボンニュートラル社会実現に向けた革新的な水素供給システムを構築するため、液化水素昇圧ポンプを共同で開発・販売する覚書を締結することで合意した。三菱重が開発した液化水素昇圧ポンプを用いて、国内向け液化水素ステーションの最適化及び各設備を合理化したパッケージ開発を進めるほか、国内での水素発電設備や液化水素受入基地に三菱重製の液化水素昇圧ポンプが適用・導入できるように検討するという。
エア・ウォーター <4088> [東証P]は4月、脱炭素化に向けた欧州での液化水素の需要拡大を見据え、英国で産業ガス・LNGの輸送機器を製造・販売する企業を完全子会社化した。今後、エア・ウォーターグループが保有する低温機器製作のエンジニアリング技術を移管するとともに、機器製作工場の拡張をはじめとした拠点整備を行い、24年から液化水素関連機器を販売する計画だ。
出光興産 <5019> [東証P]は4月、米社と日本国内で排出される都市ごみなどの廃棄物を原料とした国産クリーン水素製造の事業化検討を開始したことを明らかにした。この取り組みは、米社が日本で独占的に展開する権利を持つプラズマによるガス改質を用いたガス化改質炉(ごみをガス化改質して得られる合成ガスを回収するとともに、灰分を溶融するシステム)を使用し、廃棄物を高効率で水素に変換する手法。出光興産は今後、各地域の自治体や設備運営・保守を担うパートナー企業などの協力も得て製造事業の実用化検討を進め、日量約200~300トンの廃棄物を処理して水素を製造する初期プラントを30年代前半に建設することを目指す。
千代田化工建設 <6366> [東証S]と中部電力 <9502> [東証P]は4月、オーストラリア企業と天然ガスの主成分であるメタンから水素とグラファイトを高効率で生産するプロジェクトの開発計画策定に関して覚書を締結した。検討するターコイズ水素(熱分解によるカーボンフリー水素)製造設備の水素生産能力は、まずは年間2500トンから最大で年間1万トンの規模になる予定。最終的には年間5万トンから10万トンの水素製造能力を目指すとしており、製造された水素は発電所や産業、モビリティー分野での利用を想定している。
このほかでは、金属複合水素透過膜の技術を持つ山王 <3441> [東証S]、水素分離膜モジュールを手掛ける日本精線 <5659> [東証P]、水素燃料の貫流蒸気ボイラーを提供する三浦工業 <6005> [東証P]、小型オンサイト水素製造装置を展開する三菱化工機 <6331> [東証P]、水素関連事業向け圧縮機を扱う加地テック <6391> [東証S]、液体水素用バルブを製造する宮入バルブ製作所 <6495> [東証S]、水素用圧力計測機器を販売する長野計器 <7715> [東証P]などが関連銘柄として挙げられる。
●アンモニア関連銘柄の動向
ダイハツディーゼル <6023> [東証S]、日立造船 <7004> [東証P]、海上・港湾・航空技術研究所の海上技術安全研究所(東京都三鷹市)は4月、輸送の難しい水素を利用しやすくするため、アンモニア燃料から水素に改質し、水素混焼または水素専焼機関とするシステムの開発を共同で行うと発表した。ダイハツデの燃焼解析技術、日立造のアンモニアを水素に改質する触媒技術、海上技術安全研究所の船舶用システムの開発技術を融合し、外航船・内航船向けの燃料供給装置から燃焼後処理装置までをコンパクトに統合したシステムの構築を目指すという。
三井物産 <8031> [東証P]は4月、アブダビ国営石油会社、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC、東京都港区)、INPEX <1605> [東証P]との間で、アラブ首長国連邦(UAE)で推進するクリーンアンモニア生産プロジェクトにおける温室効果ガス排出量検証のための共同スタディに関する基本合意書を締結した。同スタディを通じて二酸化炭素(CO2)削減手法や削減量を検証し、将来的にはクリーンアンモニアの日本向け輸出につなげたい考えだ。
日揮ホールディングス <1963> [東証P]は3月、福島県浪江町に再生可能エネ由来のグリーンアンモニア製造技術の実証プラントを建設すると発表した。旭化成 <3407> [東証P]が浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドでアルカリ水電解装置を使って製造する水素を原料にアンモニアを製造する計画で、製造能力は日量4トン。プラントは23年秋に着工し、24年度内の運転開始を目指すとしている。
これ以外では、アンモニアを製造するレゾナック・ホールディングス <4004> [東証P]、日産化学 <4021> [東証P]、三井化学 <4183> [東証P]、UBE <4208> [東証P]に注目。また、アンモニアのみを燃料として安定燃焼させる技術を持つ中外炉工業 <1964> [東証P]、アンモニアプラントの建設実績が豊富な東洋エンジニアリング <6330> [東証P]、プラズマを用いてアンモニアから高純度水素を生成する技術を持つ澤藤電機 <6901> [東証S]、アンモニア燃料を100%使う専焼技術の開発に注力するIHI <7013> [東証P]などからも目が離せない。
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