競合他社には、ブリヂストン<5108>や横浜ゴム<5101>、TOYO TIRE<5105>などの国内タイヤメーカーがあるが、同社の特徴はそのブランド戦略と事業ポートフォリオにある。2025年5月には米国グッドイヤー社から北米・欧州・オセアニア地域におけるDUNLOP商標権等を買い戻し、グローバルにおけるブランドの一元化を実現。DUNLOPブランドの下で世界全域にわたるマーケティング戦略を統一し、ブランド価値を最大限に引き出す体制が整った。また、同社は去年の10月から、あらゆる路面にシンクロする次世代オールシーズンタイヤを新発売。スタンダードサマータイヤ以上の優れたウエット性能を発揮するとともに、従来のオールシーズンタイヤではカバーできていなかった氷上を含むあらゆる路面での走行を可能としている。同社はこれまでにないゴムを創り出しており、相当な技術力やノウハウも保有している。そのほか、スポーツ事業ではゼクシオやスリクソンといった高機能ゴルフクラブに加え、スクール運営やプロ選手との契約など、ハードとサービスを融合させたユニークな事業展開を強みとしている。
2025年12月期第1四半期の売上収益は287,780百万円(前年同期比1.2%減)、営業利益は12,318百万円(同40.5%減)と減収減益となったが、タイヤ事業の売上収益は過去最高を記録した。原材料価格の上昇や円安の進行といった外部環境の逆風に加え、人件費や販売促進費の増加等が利益を圧迫したものの、北米を中心とした構造改革の効果が利益貢献し、プレミアムタイヤへのシフトとブランド再編の取り組みが着実に進展している。タイヤ事業では「SYNCHRO WEATHER」などアクティブトレッド技術搭載製品の拡販が寄与し、スポーツ事業では、韓国市場におけるゴルフ需要減退の影響を受けたものの、ゼクシオ・スリクソンの好調継続に加え、契約プロ選手の活躍が後押しした。産業品他事業では、制振ダンパーの需要拡大や医療用ゴムの堅調な需要を背景に、事業利益が前年同期比2倍超の水準まで伸長、産業品他事業の事業利益も過去最高となった。
2025年12月期通期の売上収益は1,220,000百万円(前期比0.7%増)、営業利益は84,000百万円(同650.9%増)を見込んでおり、構造改革の完了と商標権取得による事業展開の自由度向上を収益回復の契機と捉えている。グローバルでのDUNLOPブランドの再構築、センシングタイヤ事業や高機能ゴム製品の投入、DX化による業務効率改善など、長期視点での収益基盤強化が進行中である。アクティブトレッド技術の海外展開や、DUNLOPブランドによる一貫戦略が奏功しつつあり、次期以降の成長ドライバーとして期待がかかる。
市場環境は全体として緩やかな景気回復基調にあるものの、米国の関税政策や物価上昇圧力が続いており、コストマネジメントと販売構成の最適化が重要となる。とくに自動車タイヤ業界は、EV化やシェアリング化の進展によって需要構造が変化しつつあり、環境性能とセンシング機能を兼ね備えたプレミアムタイヤへのニーズが高まっている。同社は、アクティブトレッド技術を搭載した次世代オールシーズンタイヤ「SYNCHRO WEATHER」のラインナップを急拡充しており、2025年3月時点で76サイズを展開、年内には96サイズへの拡張が予定されている。これにより、プレミアム市場への対応力を強化しつつ、差別化を図る戦略である。
同社は中期計画の財務指標目標値改定と長期経営戦略を開示している。2027年度の財務目標は、中期計画当初目標の前倒し達成が見えてきたため、事業利益率10%(従来目標7%)を掲げている。2030~35年に事業利益率15%、ROE12%、ROIC10%という経営指標も掲げている。また、タイヤ事業の持続成長に加えて、非タイヤ事業も伸ばしていく方針で、2025年の事業利益構成比でタイヤ事業70%、非タイヤ事業30%を計画。タイヤ事業の中では、2030年における販売本数比率でプレミアムタイヤ比率60%などの具体的な目標も開示している。これに伴って、短期ではタイヤプレミアム化、中期では成長事業、長期ではイノベーティブな商品・サービス開発に重点的に投資を行っていく。
成長事業であるセンシングコアやアクティブトレッドといった要素技術の商用化がカギを握る。2025年には、車両の故障予知サービスを実装したセンシング技術の本格導入が予定されており、自動車メーカーおよびフリート事業者向けビジネスとして新たな収益源となる見通しである。また、スポーツ事業ではグローバルトップ3入りを目指してブランド強化と製品拡充を進めており、2025年以降も新製品投入や市場展開が予定されている。産業品分野では、制振ダンパーが自然災害対策として高い評価を得ており、医療用ゴムの新工場稼働に向けた準備も進められている。
株主還元については、連結配当性向40%以上を目安としており、2026年以降にDOE3%以上の基準を追加する方針。現状、PBR0.7倍台、配当利回り4%超えと割安感すら残る水準である。同社は中長期的な利益成長に応じた株主還元を掲げており、今後も持続的な成長と企業価値向上に応じた安定配当を継続していく方針である。これまで構造改革や成長戦略、業績の回復を意識してきており、ついに攻めフェーズに入って同社の今後の動向はかなり注目しておきたい。
<HM>
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