―「森より木を見る」個別株ピンポイント戦略、変身前夜のダイナミズムを見逃すな―
13日の東京株式市場は、日経平均株価が142円高の2万6478円と反発。日本時間午後9時半に予定される6月の米消費者物価指数(CPI)の発表を前に積極的な買いは入れにくい局面だったが、それは売り方にしても同じ理屈であり、アジア株市場の切り返しや堅調な米株価指数先物を横目に手仕舞い買い戻しの動きが優勢となった。しかし前方の視界は不明瞭で、東京市場は引き続き嵐の海原を進むような状況にある。
●自民大勝もアベノミクスの継承がカギ握る
7月10日に投開票された参院選は自民党の大勝に終わり、これによって外観的には岸田政権の基盤は強化される形となった。しかし、安倍元首相が凶弾に倒れたことは、それによる自民党の議席数の上積みくらいでは到底釣り合いが取れないダメージを被ったともいえる。岸田政権がアベノミクス路線を継承するのかどうか現時点で予測しにくい部分もあり、マーケットも気迷いムードに支配され、日経平均は2万6000円台半ばで売り買いを交錯させている状況だ。
そうしたなか、世界に目を向ければ実体経済が抜き差しならない状況に陥っている。世界景気の減速が明らかとなるなかで、欧州や米国を中心にリセッション(景気後退)懸念が改めて浮上、その一方でインフレの高進が同時進行するというスタグフレーションに向けた恐怖が投資家のセンチメントを冷やしている。頼みの綱であった半導体市場が、ここにきて変調を極めていることで、年後半の業績相場に向けたシナリオも消滅した感が強い。
今週明け11日に日経平均は一時2万7000円台に駆け上がったが、そこからあと一歩が出なかった。戻り売りの厚い壁に阻まれ2万6000円台に押し返されたが、これはちょうど2週間前の6月下旬と同じ光景である。今回も戻り切ることができず、翌12日に500円近い下げに見舞われたが、テクニカル的にはある意味正念場であり、このままもみ合い圏に入ってしまえば、これまでのボックス上限だった2万8000円が1000円切り下がってしまう可能性もある。こうなると大勢下げトレンドの典型となる。総論的には、今は様子見が基本で絶好の買い場とは言いにくい。
●大化け株は個別の成長ポテンシャルに着眼
しかし、大勢トレンドが下り坂であっても、あるいは下り坂であるからこそ個別株のピンポイント戦略の重要性が増す。こうした時に頼りになるのが、高い成長ポテンシャルで輝きを放つ中小型株だ。日経平均と連動性の高い主力銘柄は、先物などインデックス売買の影響も受けやすいが、業績の裏付けがある中小型株は、全体指数に振り回されずに高パフォーマンスを上げる銘柄が数多くみられる。銘柄によっては株価を倍化させるような大変身株も輩出されている。
直近ではブロックチェーン技術領域で業容拡大中のクシム <2345> [東証S]が急騰を演じた。6月中旬に非開示だった22年10月期の通期業績予想を発表、営業損益が黒字化するとともに一気に過去最高益更新見通しを示したことで、7月1日に775円の高値まで駆け上がった。同社株は3月8日に270円の年初来安値をつけており、そこから約3倍化したことになる。
また、同じく6月中旬に新中期経営計画を発表し、2025年度に営業利益22億5000万円(前期実績6億7700万円)を掲げた児玉化学工業 <4222> [東証S]は、この野心的な数値目標が好感され株価を変貌させた。6月17日に590円の年初来高値を形成。同社株は3月7日に298円の安値をつけていたが、そこからほぼ2倍となった。
音声認識事業を手掛けるアドバンスト・メディア <3773> [東証G]は、5月中旬に発表した決算で22年3月期の営業利益が21%増益と大幅な伸びを達成し、23年3月期も22%増の10億円予想と2期連続の過去最高益更新見通しを示した。その後ややタイムラグはあったものの株価は大勢2段上げの様相となり、6月29日に773円の高値に買われた。5月19日の年初来安値520円から1ヵ月あまりで約1.5倍となっている。
このほかにも、中小型株でファンダメンタルズの変化が評価され短期間に株価の居どころを大きく変えたケースは頻繁にみられる。ここは“木を見て森を見ず”ではなく、“森に惑わされず木を見る”ことで勝機をつかむ。中小型株のダイナミズムを捉えるには格好の夏となりそうだ。
●成長力みなぎらせる7銘柄をロックオン
【HPCシスは次世代コンピューティング超新星】
HPCシステムズ <6597> [東証G]は科学・工学分野向けに、高性能コンピューターを駆使したソリューションを提供、ビッグデータや人工知能(AI)分野における卓越した知見も強み。また、スーパーコンピューター「富岳」を計算資源とするSaaSサイエンスクラウドに商業展開を図るほか、次世代コンピューティングの切り札となる 量子コンピューター分野にも踏み込んでいる。政府は量子技術に関する新たな戦略案として、国産初号機となる量子コンピューターを22年度中に整備する目標を示しており、官庁向けでも実績が高い同社の存在は要注目となる。22年6月期は営業利益が前の期比10%増の7億4500万円を予想し、好業績を背景に初配当(期末一括配当25円)を実施することも発表している。株価は5月中旬を境に底値圏から急浮上を果たしているが、まだ初動。大発会につけた年初来高値2898円奪回を通過点に、中長期上昇トレンドへの転換を鮮明としそうだ。
【アルトナーは技術系プロ集団で驚異の株主還元】
アルトナー <2163> [東証P]は機械・電子機器設計やソフトウェア開発など技術者派遣の草分けで、人材紹介ビジネスにも参入している。電気自動車(EV)や自動運転といった次世代自動車産業をターゲットに人的資源の確保にも注力。産業のデジタルシフトを背景にIT関連人材の需要は旺盛であり、業績は15年1月期以来、長期間にわたり増収増益トレンドをまい進している。23年1月期は、営業利益段階で前期比14%増の11億4700万円と連続2ケタ増益を見込んでいる。なお、同社は15年1月期から今期(予想ベース)までの9年間で2ケタ増益を達成できなかったのは21年1月期の1期のみである。この成長力の高さに加え株主還元にも極めて前向き。配当性向50%を掲げ、今期は年間38円配当を計画する。株価は800~900円の狭いレンジで往来を続けているが、早晩このもみ合い圏から大きく上放れそうだ。4ケタ大台を地相場に上値指向を加速させる展開が見込める。
【Tホライゾンは監視カメラやドラレコで本領】
テクノホライゾン <6629> [東証S]はFA・光学機器メーカーで、レンズ技術を応用した高度なテクニックを、監視カメラやドライブレコーダーなどの高い商品開発力に結実させている。次世代成長市場である自動運転分野では、画像圧縮技術とレンズ・プロジェクター技術を駆使した車載機器を自社ブランドで展開、時代のニーズをしっかりと捉えている。また、海外ではアジア地域でサイバーセキュリティー機器の販売に力を入れており、業績への貢献が期待される状況にある。業績は22年3月期に営業7割減益と落ち込んだが、トップラインは高成長を継続中。23年3月期は引き続き2ケタ増収基調を維持し、営業利益も前期比2.2倍の15億円と急回復が見込まれている。24年3月期も大幅増収増益が続く公算大だ。株価は昨年7月につけた上場来高値2262円から大幅な調整に見舞われた。しかし、時価500円台は既に売り物が枯れた状態にあり、満を持しての逆襲相場に期待が膨らむ。
【ブロメディアはクラウドゲームを武器に躍進へ】
ブロードメディア <4347> [東証S]はコンテンツ配信事業者で、配信やセキュリティー対策などの技術面で優位性を持っている。また、eスポーツ市場の拡大を睨みつつクラウドゲーム事業の育成にも傾注しており、これが今後の収益成長の要となっていく可能性がある。このほか通信制高校を展開し入学者も増勢にあるなど、教育分野のノウハウも強みだ。業績は急成長トレンドをまい進中。21年3月期に減収減益決算を強いられたものの、22年3月期は2ケタ増収で営業利益は前の期比83%増の8億7600万円と大復活を遂げた。更に23年3月期も成長を継続、営業利益は前期比14%増の10億円予想と16年ぶりに10億円台に乗せる見通し。株主還元も前期に復配を果たし、今期は5円増配の年30円を計画している。株価は異色の上昇波動を形成し新値街道を走るが、1200円近辺に頭打ち感は全くない。低PERで割安感があるうえ、30%超の高ROEは魅力で上値余地は大きい。
【ユーザーロカはAI関連の雄で抜群の成長力】
ユーザーローカル <3984> [東証P]はビッグデータ解析ツールやAIを活用した情報提供サービス及び業務支援ツールの開発を手掛ける。企業の社内対応や顧客からの問い合わせに対し、自然言語に特化したAIで自動応答するサポートチャットボットは旺盛な需要を開拓し、今後も高い成長が見込まれている。このチャットボットは、2月初旬にコンビニを全国展開するファミリーマートへの提供を開始したことを発表し注目を集めた。業績成長力は抜群で、13年6月期以降、現在に至るまでの売上高及び経常利益の伸び率は特筆に値する。21年6月期までの9年間で利益成長率は年間平均で実に37%に達する。22年6月期もやや伸び率は鈍化するとはいえ2ケタ成長を確保し、初の10億円台乗せが射程圏。株価は5月末に1799円の戻り高値をつけた後調整局面に移行しているが、ここは強気に買い向かいたいところ。中長期的には昨年の高値水準を超え2000円台後半も視野に入る。
【MCJはM&A戦略など駆使し強気の中計評価】
MCJ <6670> [東証S]はパソコンの受注生産を手掛け、「マウス」ブランドとして認知度も高まり受注獲得が進んでいる。パソコンは高性能商品の引き合いが活発で収益を押し上げている。業績は17年3月期から営業・経常・最終利益いずれも大幅増益トレンドを続けてきたが、22年3月期は6期ぶりの減益決算となった。しかし、23年3月期は再び増益路線に復帰する公算大で、営業利益は前期比10%増の148億円予想と2ケタ成長が有力。今期以降についても業容拡大への期待は十分で、新たに策定した中期経営計画では25年3月期営業利益189億円を数値目標に掲げている。既存事業の立て直し、成長基盤の整備、そしてM&Aや提携戦略を駆使した経営に積極的に取り組む構えだ。株価は昨年11月から大勢下落トレンドを余儀なくされていたが、4月下旬の745円を底値に波動転換を明示。調整を織り交ぜながらも下値を切り上げており、早晩4ケタ大台での活躍が見込める。
【トレンダは美容メディアで業容拡大加速】
トレンダーズ <6069> [東証G]はインスタグラムなどSNSインフルエンサーネットワークを強みとするネット活用型販売支援ビジネスを展開。SNSに特化した美容メディア「MimiTV」が急成長し収益に貢献している。クリエータープラットフォームで公開された作品の電子書籍化も手掛けるなど業容を広げている。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要も追い風に、時流に乗るビジネスモデルで業績躍進を続けており、22年3月期はトップラインが前の期比でほぼ倍増し、先行投資負担をこなしながら営業利益も前の期比30%増の5億9300万円と大幅な伸びを達成。更に23年3月期の営業利益は前期比43%増の8億5000万円と利益成長のスピードが加速する見込みだ。株価は5月中旬にマドを開けて上放れた後は1200~1500円のゾーンの往来だが、ここは長期上昇トレンドの踊り場と判断される。中勢2000円台への挑戦は高いハードルではない。
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