2. 成長施策
成長施策としては、1) 積極的なM&Aの推進、2) 業務提携先とのさらなる連携強化、3) DXビジネス推進、4) 直ユーザー取引拡大と得意分野の強化の4つを掲げている。
(1) 積極的なM&Aの推進
中期数値目標達成のために、既存事業のオーガニック成長だけでなく、積極的なM&A推進による事業規模拡大も目指す。M&A戦略は、ランドコンピュータ<3924>と相乗効果を生む事業を有する企業をターゲットとする。インフリーはのれん償却もあり、すぐには利益面での寄与が見込めないものの、グループにおけるシナジー効果が出ている。2022年3月期第2四半期のSAP関連ビジネスの売上高が229百万円へと拡大(連結前の前年同期は31百万円)と大きく拡大しているほか、同社のエンジニアがインフリーの社内教育システムを活用することで、資格取得者とビジネス機会が増大している。
(2) DXビジネス推進
DXビジネス推進としては、「クラウド及びパッケージベースSI」の拡大と「ローコード開発並びにアジャイル開発」に注力する。
a) クラウド、パッケージベースSI
クラウド、パッケージベースSIは、今後日本が直面する課題を克服するための重要なソリューションとして需要拡大が見込まれる。
経済産業省は、2018年9月の「DXレポート」において、「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」をサブタイトルとした。既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化するなかで、「2025年の崖」として1) データを活用しきれないため市場の変化に対応してビジネスモデルを柔軟・迅速に変更できず、デジタル競争の敗者となる、2) システムの維持管理費が高額化し、現行ビジネスの維持・運営がIT予算の9割以上を占めてしまう、3) 既存システムを維持・保守できる人材が枯渇し、セキュリティ上のリスクが高まる、の3点を懸念している。「2025年の崖」を克服できない場合、DXが実現できないだけでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性を示唆している。
「DXレポート」では、2025年には国内で運用されている基幹システムの6割以上が運用期間で21年を超すと推測している。旧式・旧型のレガシーシステムは、様々な問題を抱える。約7割の企業は、老朽システムがDXの足かせとなっていると感じており、事業部ごとの最適化を優先したことで全社最適に向けたデータ利活用が困難になっているほか、業務に合わせたスクラッチ開発を多用したことでブラックボックス化している。過剰なカスタマイズがシステムを複雑化させたのだ。企業のIT関連費用の80%が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられており、戦略的なIT投資に資金・人材を振り向けられていない。加えて、短期的な観点のシステム開発が、結果として長期的に保守費や運用費が高騰させている。
SAPでは、旧バージョンのサポート期間が終了する「2027年問題」があるため、今後新システムへの移行需要が見込まれる。SAPのERPは、世界の主要企業をはじめとして17,000社以上、日本国内では約2,000社に導入されており、ERP分野で世界最大のシェアを誇る。SAPのERPは、1972年にR/1の名称でリリースされ、2013年に独自のデータベースであるHANAを装備し、2015年にS/4HANAがリリースされた。2021年には、S/4HANAをベースに、企業のDXを支援する「RISE with SAP」が発表されている。今後は、AI(人工知能)やIoT、アナリティクスといったデジタル技術の活用を目指している。一方で、2011年11月にリリースされた旧製品のSAP ERP 6.0ユーザーは、エンハンストパッケージ(EHP)5以下は2025年に、EHP6以降のバージョンでも2027年に標準サポート期間が終了する。標準サポート終了に向け、ユーザーには「現在利用しているSAP製品を標準サポートなしで継続する」「他社のERP製品に切り替える」「SAP S/4HANAに移行する」という選択肢があるが、SAP S/4HANAへ移行することで、インメモリデータベースを活用した高速処理だけでなく、肥大化したシステムをスリム化して運用管理コストを低減するメリットを享受できるようだ。このほか、日本政府が掲げる「クラウド・バイ・デフォルト原則」から、公共向けは従来ルートのプライムコントラクター経由のビジネスだけではなく、文教分野などでSalesforceビジネス関連のパッケージベースSI・サービスに事業機会を見出している。同社は、子会社のインフリーと新システムへの移行業務に関する知見を共有することで、グループとしてのパフォーマンスを上げる意向だ。
2021年12月に、クラウドサービス世界最大手の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、2022年に米証券取引所NASDAQが北米で運営する基幹システムをクラウドへ全面移行することへの支援を発表した。米Googleも米先物取引所大手と同様の契約を結んでいる。高い信頼性を求められる基幹システムにおいて、自前のサーバからクラウドへの全面移行が進んでいる。日本でも同様に、新システムへの移行(マイグレーション)時に、クラウドに切り替える流れがある。2021年9月1日に創設されたデジタル庁では、デジタル政策の企画立案により、国や地方公共団体、準公共部門などの情報システムを統括・監理し、重要なシステムを整備していく。社会全体のDXの推進を通じ、すべての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現すべく取り組みを進めるため、民間部門へのデジタル化が波及することが期待される。
b) ローコード開発、アジャイル開発
デジタル化対応は、コロナ禍のパンデミックにより加速されている。当初、東京オリンピック・パラリンピック開催時の交通混雑の緩和策であったリモートワークは、感染症予防対策としてより広範囲・長期的に取り入れられるようになった。また、コロナ禍対策の一環として、脱「対面・紙・ハンコ」が後押しされ、押印が必要な約1万5千種類の行政手続きのうち99%の押印廃止が決まった。大学の授業や会議及びセミナー、説明会などは、コロナ禍により対面から原則オンラインに切り替わった。
このほか、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル目標」が2020年10月に発表されたほか、2021年4月には、長期目標達成のため、2030年までのCO2排出量削減目標を2013年度比で従来の26%減から46%減へ引き上げた。企業は、自社の取り組みだけでなく、調達先にもCO2排出量削減の要請を出すなど、1年前とは様変わりな状況となった。気候変動時代の脱炭素経営を追求するため、経営者は改善活動やBPRにとどまらず、事業の入れ替えなどより抜本的な経営改革が重要課題となってくる。
このように、企業の事業環境に短期間で非連続かつ激烈な変化が生じているが、それに対応するビジネスモデルにはこれらをサポートする情報システムが不可欠であることから、ローコード開発やアジャイル開発を取り入れる動きが進むと弊社では見ている。同社では、強みである技術力・業務知識・高品質なシステム開発力を生かし、適材適所でアジャイル/ローコード開発を推進しながら、DX推進本部が中心となって「ランドコンピュータ アジャイル開発標準」を確立するほか、アジャイル人材とローコード人材の早期育成を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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