3. 重要戦略
中期経営計画「DX Action 2024」における重要戦略は、グループの資産・インフラ基盤を活用したシナジーの最大化戦略、デジタルマーケティング事業など各事業戦略、新規事業やM&A、グローバル、人材といった全社戦略である。まず、グループの資産・インフラ基盤の有機的・効率的活用は、パネルとDXの2面に分けられる。パネルでは、プロモーションネットワークの共有化などを通じてシナジーを高めることで顧客サービスの強化やDXの加速を推進し、そのDXでは、オープンデータのリサーチにAIを活用することで自動化や新たなビジネスモデルの構築を進める方針である。また、リサーチャーなどを顧客のソリューションニーズに合わせて組み換えるなど、グループの各種サービスに横串を入れた提案・販売も可能にする考えである。
各事業における重要戦略に関しては、デジタルマーケティング事業では、DX推進により新たな付加価値の提供や顧客対応のスピードアップなどを進める。また、AIを活用した業務のオートメーション化や、ドゥ・ハウスやディーアンドエムの機能を生かしたEC支援も強化する。データマーケティング事業では、既存機能の高度化に加え、クラウドBIツールの標準化やユーザープロファイリングツールのDX化を進め、CRMデータ連携システムやウェビナーの運用、リサーチツールなどを顧客に提供していく計画である。インサイト事業でも既存機能の高度化を図る一方、コンサル型リサーチサービスの提供やLTV(Life Time Value)メソッドの開発、官公庁・学校などへと顧客の拡張を進め、コンサルティング領域に本格的に参入していく考えである。これにより、デジタルマーケティング事業の売上高を2021年6月期(便宜的に2020年7月~2021年6月の累計値を使用、以下同)の68億円から2024年6月期には120億円、データマーケティング事業を65億円から80億円、インサイト事業を59億円から70億円へと拡大する計画である。
全社戦略に関して、新規事業は、リスクと効率を両睨みしながら、1件3,000万円前後を目安に小規模の事業を複数立ち上げていく方針である。M&Aは、特にグループの成長に必要なビジネス領域に向けて、数億円単位の投資を積極的に仕掛けていく考えである。これまでもディーアンドエムやドゥ・ハウスなど新規事業やM&Aの実績があるため、今後もグループの継続的成長に寄与することが期待される。グローバル戦略に関しては、2021年11月のMarkelytics株式の売却などにより、Kadenceグループ中心の事業体制に整備し直すなど順調に進捗している。現在、北米での成長投資の積極化や、マレーシアやドイツ、フランスなど未展開エリアへの進出検討などを図っており、再拡大のタイミングに入ってきたようだ。人材戦略では、成果の出せる体制と人材育成モデルを構築することで、企業としての人材育成能力を引き上げていく方針である。また、「Discover Something New未来をつくろう」のMISSIONからSDGs(持続可能な開発目標)に賛同しており、今後SDGs宣言を制定する予定である。
プライム市場の上場維持基準を満たす可能性は高まった
4. 資本政策
重要戦略によって中期経営計画の売上高と営業利益の達成を目指す一方、業績拡大を前提に配当性向15%を目途に配当も安定的に増加させる方針である。なお、売上高の達成にはM&Aが必要と思われるが、営業利益に関しては、リサーチや業務のオンライン化を背景に採算が改善しており、既存事業の進化とシナジーだけでも達成が十分視野に入ったと思われる。ところで、このように高成長が期待される同社だが、プライム市場の上場維持基準を満たすという課題がある。流通株式数、流通株式比率、売買代金の各項目については基準を満たしているため、まだ満たしていない流通株式時価総額(基準は100億円)を安定して基準以上にする必要がある。なお、現在、株式需給緩衝信託を活用した大株主からの株式売却により、流通株式比率の上昇が進んでいる。将来想定可能な効率化やM&Aを考慮すれば中期経営計画のEPS目標をオーバーすることや、中期経営計画による高利益成長(営業利益で18%成長予想)を評価するならば少なくともマクロミルやインテージホールディングスなど同業と同レベルのバリュエーションが許容されることも想定できるかもしれない。したがって、中期経営計画を着実に進行させることで、プライム市場の上場維持基準を早期に満たす可能性は高まったと言えよう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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