ほぼ日、「ほぼ日手帳」の国内外での継続的な成長等により、今期の配当は従来の2倍となる1株当たり90円を予想
1.2024年8月期の事業報告
鈴木基男氏:株式会社ほぼ日取締役の鈴木です。2024年8月期通期決算のご説明を始めます。
こちらのスライドはサマリーです。2024年8月期の事業報告、2025年8月期の業績予想の順にご説明します。
2024年8月期の事業報告についてです。「ほぼ日手帳」の売上は49億円で、前期比プラス19.5パーセントと成長を牽引しました。売上高合計は過去最高の75億円で、前期比プラス10.5パーセントとなりました。
「ほぼ日手帳 2024」の販売部数は90万部、前年版比9.8パーセントの増加となっており、過去最高を記録しました。
しかしながら、経常利益は5億4,000万円、前期比マイナス7パーセント、当期純利益は3億9,000万円で、前期比マイナス3.1パーセントの着地となっています。理由としては、海外を初めとした市場の拡大やコンテンツの拡充、および海外マーケットの拡大に伴った人員の増加と費用増、また「ほぼ日手帳」の商品評価損の計上等があります。
配当については、当初の予想どおり1株当たり45円とし、従来の水準を維持します。
続いて、2025年8月期の業績予想です。引き続き「ほぼ日手帳」の成長が牽引し、売上高は過去最高の82億円、前期比プラス8.8パーセントの増収を予想しています。
売上高の増加に伴い、経常利益は7億6,000万円、前期比プラス39.8パーセント、また、当期純利益は5億3,000万円で、前期比プラス32.8パーセントと、各段階利益で過去最高益を予想しています。
これらの業績推移、そして財政状況等を総合的に勘案し、2025年8月期については、配当の予想を従来の2倍となる1株当たり90円と予想をしています。
以上が、本日ご説明する内容のサマリーです。
売上高は「ほぼ日手帳」が牽引し、前期比約10.5%の増収
2024年8月期の事業報告です。売上高については「ほぼ日手帳」が牽引し、前期比約10.5パーセントの増収となっています。
「ほぼ日手帳」の売上が49億4,200万円で、前期比プラス19.5パーセントとなり成長を牽引しています。
「ほぼ日商品」については、キャンプブランドの「yozora」や「ほぼ日MOTHERプロジェクト」などが好調に推移した一方で、大きな買い物イベントである「生活のたのしみ展」は2024年8月期では開催していませんでした。また、暖冬の影響もあり雑貨アパレル関連の売上が軟調に推移したことから、「ほぼ日商品」の売上は20億7,600万円と、およそ前年同水準に着地しています。
「その他」は、お客様にご負担いただいている自社EC「ほぼ日ストア」の配送にまつわる手数料が主な構成要素となっていますが、2024年8月期から、「ほぼ日ストア」での送料無料サービスを開始しています。送料無料サービスはそれぞれの国やエリアによって閾値がありますが、国内では対象の商品を税込1万1,000円以上お買い求めいただいた場合、通常税込770円かかる配送手数料を無料にするものです。
したがって、当初は送料売上等が大きく減少すると思っていましたが、それを跳ね除けるほどのユーザー数の増加等もあり、送料売上の減少幅は小さくとどまりました。結果として、その他の売上が5億1,600万円と、おおむね前期と同一水準で着地しました。
最終的に、売上高合計は過去最高の75億3,400万円で、前期比プラス10.5パーセントの着地となりました。
売上高は過去最高も、市場拡大・人員拡充により費用増加、各段階利益は前期比で微減
損益については、売上高は過去最高を記録したものの、市場拡大および人員拡充により費用が増加し、各段階利益では前期比で微減となっています。
「ほぼ日手帳」の在庫にかかる評価損が影響し、トータルの売上原価率が43.3パーセントで、前期比プラス0.2ポイントとなっています。
また、「ほぼ日の大開拓採用」と銘打ち人員拡充を行ったことに伴い、人件費が増加しています。加えて、市場拡大により販促費が増加しています。また、海外の直営販路の売上増加に連動し、販売手数料や税金の増加などにより、売上高販管費率は49.4パーセントと、前期比1.2ポイントの増加となっています。
結果として、経常利益は5億4,300万円で、前期比マイナス7パーセントです。当期純利益は3億9,900万円で、前期比マイナス3.1パーセントと、微減となりました。
[売上原価 補足]「ほぼ日手帳」の売上総利益は過去最高も、原価率は前期比で上昇
「『ほぼ日手帳』の売上が海外で伸びているものの収益性が悪くなっている」と思われるかもしれませんので、補足としてスライドのような情報を開示しています。
「ほぼ日手帳」の売上総利益は、金額としては過去最高です。その一方で、売上原価は前期比で上昇しています。こちらが、売上が伸びたものの利益としては微減した大きな要因となっています。「ほぼ日手帳」は売上高の増加に伴い、売上総利益は前期比プラス18.3パーセントと、「手帳」というプロダクトのジャンルとしてはきちんと成長しています。
業績予想では、「ほぼ日手帳」の売上原価率は基本的には低減することを想定していました。これは数ヶ年のトレンドでもあるのですが、実績としては37.8パーセントとなり、売上総利益率は62.2パーセントにとどまりました。
売上高は49億4,200万円と、前期比で8億円強伸びています。ただ、我々としてはさらなる成長を見込んでの商品生産を心がけていたのですが、2024年版の商品については商品評価損が大きく発生したことが減益の要因となっています。
[ほぼ日全体の売上]海外市場は継続して拡大、5年で約3倍の規模に成長
ほぼ日全体の売上の中での海外マーケットについてです。海外マーケットは、継続して拡大しています。2020年8月期から2024年8月期の5年で、全体として約3倍の規模に成長しています。
「ほぼ日手帳」の人気拡大がアメリカやヨーロッパで進んでいますが、そのマーケットにきちんと「ほぼ日手帳」を届けるための新規販路の開拓や、自社EC「ほぼ日ストア」での利便性向上等によって、海外市場が継続して成長しています。
また、他社の指標にはなりますが「Google検索」における「Hobonichi」の人気度も増加しています。スライドのグラフの赤線のとおり、今年が最大であり、このようなかたちで過去から推移していることから、認知も年々拡大する傾向にあります。
結果として、海外売上高は29億1,100万円で前期比プラス28.1パーセントとなり、上場以来継続して増加しています。
[ほぼ日手帳の売上]海外は北中米・ヨーロッパを中心に伸長
このスライドは、「ほぼ日手帳」の国内・海外それぞれの売上高と、海外のエリアごとの売上高を表しています。
前期に続き、北中米・ヨーロッパを中心に成長しています。当期の売上高構成比率は、海外で52パーセント、国内で48パーセントとなり、「ほぼ日手帳」においては海外での売上高が国内を上回る状況になっています。
エリア別に見ると、北中米の売上高は15億4,700万円で、前期比プラス35.8パーセントです。また、ヨーロッパの売上高は3億7,300万円で、前期比プラス92.2パーセントと、大きな伸長を見せています。
また、数字としては地味かもしれませんが、実は国内の売上高も約2億円伸ばしており、前期比プラス9.6パーセントの成長となっています。「ほぼ日手帳」は今、中華圏を除くすべてのエリア・地域で伸びており、特にアメリカやヨーロッパなどでの伸びが顕著です。
「ほぼ日手帳」販売部数の推移
「ほぼ日手帳」の販売部数の推移です。2002年版の1万2,000部から始まって着々と販売冊数を伸ばしていき、2019年に一度最高値を迎えました。
そこから一度少し減ったものの、2023年度版、2024年度版とともに大きく伸びており、単年版での販売部数は90万部となり過去最高を更新しました。累計の販売部数も1,000万部を超え、たくさんの方々に手に取ってもらえるプロダクトとして成長しています。
損益については以上です。
貸借対照表
貸借対照表です。大きなトピックスは特にありませんが、棚卸資産の増加については、海外の販路拡大に伴い「ほぼ日手帳 2025」関連商品の入荷を早期化したことが理由です。
金額そのものが増えていることもありますが、例えば、「ほぼ日手帳」を9月1日に発売する場合、8月中に商品が納品されていれば国内ではきちんと売り始めることができますが、海外に運ぶ場合はさらに入荷を早める必要があるためです。
また、無形固定資産の増加については、自社システム等ソフトウェアの取得などによるものとなっています。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書です。営業活動によるキャッシュ・フローはプラス4億100万円、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナス4億6,700万円、財務活動によるキャッシュ・フローがマイナス1億600万円となっています。前期末残高13億7,300万円が、当期末残高で11億9,400万円となっています。
営業活動に伴うキャッシュ・フローについては、仕入れの早期化が影響しており、4億円程度の増加にとどまっています。投資活動によるキャッシュ・フローは、基本的にはソフトウェアなどの無形固定資産の取得が主な内容となっています。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当の支払いが主な内容です。
以上が、2024年8月期の事業報告となります。
2025年8月期の業績予想 - 売上高・各段階利益で過去最高、配当は2倍
2025年8月期の業績予想です。売上高・各段階利益は過去最高で、配当は2倍と予想しています。「ほぼ日手帳」の国内外での継続的な成長や、2025年1月に開催を予定している「生活のたのしみ展」などによって、売上高は過去最高の82億円、前期比プラス8.8パーセントを予想しています。
売上高の増加に伴って、経常利益は7億6,000万円、当期純利益は5億300万円と、いずれも過去最高の予想です。
配当についてはこれらの業績推移や財政状況等を総合的に勘案して、従来の2倍となる1株当たり90円を予想しています。
2025年8月期の動き
2025年8月期の取り組みの予定を、4つご紹介します。1つ目に、海外ユーザーへのコンテンツの提供をさらに促進していきます。たくさんのお客さまが、「ほぼ日手帳」を買うために、私たちが運営しているサイト「ほぼ日ストア」に来てくださっています。
これに対しては、もちろん「ほぼ日手帳」を中心としたコンテンツ群でお応えしていますが、ほぼ日全体では、手帳以外にもたくさんのコンテンツ群、商品群がありますので、さらに幅を広げて、このような商品群をより手に取ってもらえるように積極的にリーチしていきます。手帳および手帳の周辺文具のみならず、さらに広がりをもったコンテンツをユーザーに届けていき、さらなる市場の拡大を図っていきます。
2つ目に、「ほぼ日手帳」アプリの開発にも着手していきます。着手するのは、「LIFEのBOOK」という「ほぼ日手帳」のコンセプトはそのままに、デジタルの良さを活かした、便利で、毎日の記録がたのしくなるスマートフォンアプリです。
3つ目に、「地域×ほぼ日」と可能性を開拓していきます。さまざまな地域の方とのつながりの中でまだ見ぬおもしろさを探求し発信していくプロジェクトを始動させていきます。
並行して、群馬県の赤城山の山頂にある、今はなき「赤城山鋼索鉄道」の終着地点だった旧山頂駅では、赤城山ならではの良い時間を過ごせる場作りへの取り組みを開始します。
地域や地方といったところのメディアとしての可能性をどのように開拓できるかという一連の案件は、当社としてもチャレンジングだと考えていますが、このような案件でも幅の広がりを作っていこうと考えています。
4つ目に、経営の可視化・サプライチェーンマネジメントの抜本的な改善にも着手します。日本・海外の販路が特にどんどん拡大することで、販売情報や在庫情報が複雑になってきます。
現状は、販売情報や在庫情報をきれいに整えながら着々と、というよりは、マーケットがある所にきちんと届けながら、後から情報を整える状況になっています。そこで、経営情報の可視化をきちんと進めて、適時の経営判断の合理化を推進したいと考えています。
また、販売・物流関連コストの低減と、商品の生産精度の向上により、商品評価損の低減を図ります。こちらを土台としてしっかり取り組んでいくことで、きちんと売上の増加に伴って利益が増加していくサイクルを作り上げていきたいと考えています。
以上がこの決算についてのご説明となります。ここから糸井にバトンタッチして、前期・当期のサマリーをお伝えできればと思います。
糸井氏からの全体のご説明
糸井重里氏:鈴木が今、ほとんどお話ししてしまいましたので、何を言おうかと考えていました。いっそ、もっとあいまいなことを言いたいと思います。
「あいまいな」という言いかたをしましたが、企業がなぜ企業活動を行うのか、あるいはどのように社会の役に立っていくのか、自分たちがどのようなことをやりがいにして毎日の活動を進めていくのかは、単純に数字で見えるものではありません。僕たちはずっと、そのあいまいな部分を非常に大事にして歩んできたつもりです。
今までも「お前の会社は、何をする会社なのだ」という質問をずっと受け続けてきました。1998年に「ほぼ日刊イトイ新聞」が出て26年経ちましたが、「なぜやるのか?」に対する答えはいつもはっきり言ってきませんでした。
「何をやるのか」「なぜやるのか」よりも、自分たちの姿勢をお話ししてきました。例えば、「やさしく、つよく、おもしろく。」という考え方に合ったことをしますとは言ってきました。
また、口で何か言うばかりではなく、何かしたいことや夢があるなら、小さくてもよいから手足を動かして、現実に進めていこうという思いを込めて、「夢に手足を。」という言葉を、私たちは一つの行動指針のようにして取り組んできました。
このあいまい性の中で、具体的に何をしてきたかについて、お客さまや読者のみなさま、あるいは投資家のみなさまが期待してくれることを見つけていってくれました。何を言っているからそれに対して反応してというよりは、実際に取り組んできたことに対して、ある信頼やある期待を寄せてくださって、ここまで来られたと考えています。
「ほぼ日手帳」を作る時にも、なぜそれを作るのかはうまく言えず、「自分たちが欲しいからです」という言いかたしかできませんでした。しかしながら、実際にその商品を社会に問いかけて、少しずつもっと良くしていくにはどうしたらよいか、もっと喜んでもらうにはどうしたらよいかという事実を重ねていくことで、それに対するファンが付いてくれました。
そして、去年使った方が次の友だちに教えてくれて、特に宣伝媒体は持っていませんが、「ほぼ日刊イトイ新聞」というメディアを通してさらに知らせることができて、友だちの輪ができていき、今に至ります。
このようなことが繰り返されてきたわけですが、ほかにも、今人が何を欲しがっているのだろう、生活のたのしみは何なのだろうと考えて、見本市のようなつもりで始めた「生活のたのしみ展」のコンセプトは当初、大雑貨店でした。雑貨のおもしろい物を一堂に集めて、買えるようなイベントをすれば、みなさまが喜ぶのではないかと考えたのです。
デパートや、僕たちも付き合いのあるロフトなどでは、雑貨の売り場がみなさまの情報の窓口になっています。同じようなことを僕たちの目でイベントとして開催すれば、おもしろいだろうと思いました。
どのようになるかはわかりませんでしたが、良い物を作っている人はたくさんいますし、それをみなさまに伝えたい人もたくさんいますし、それを知りたい人もたくさんいます。そこで、雑誌でも新聞でもテレビでもなく、現場に来てもらって見本を見てもらい、それを買って帰れるような場所を作ろうと始めたのが、「生活のたのしみ展」でした。
「こういった目的でこういった利益をあげる」ということよりも、僕たち自身が何をしていてうれしいか、お客さまがそのうれしさに集まってくれるかを中心にして取り組んできたことの、事実の積み重ねの上に、僕たちの今があります。
その結果、信頼や期待といったものが積み上がってきましたので、僕たちの仕事は、いつでも、言葉が後でついてくるという特徴があります。
何年も前から海外で好調なことについて、「海外でなぜ売れたのですか?」という質問を受けてきました。
その都度はっきりとした答えがなかなか言えませんでしたが、事実として売れていることに対して、買いやすくするシステムを作ったり、どこの国の人が見ても買い物がしやすくしたり、面倒な税金の計算などをそれぞれの人がいちいちしなくてもよいシステムを作っていくなど、事実に合わせて僕たちが開発して、「丁寧な親切さ」を積み上げていったことで、できることがどんどん増えていきます。
「何が良いから」と、僕たちは強く言った覚えはありませんが、使っている方がその事実をほかの人に伝えてくれることで、伝言ゲームのように、お客さまがお客さまを連れてきてくれるかたちで広がっています。日本で広がっていった時と同じく、アメリカでもヨーロッパでも同じような広がり方をしています。
そのようなことを繰り返して今に至っていますので、専門の方々からするとはなはだ頼りないかもしれません。マーケティングや調査の数字に従って進めれば、もっとうまくいったことが多々あったかもしれません。
しかしながら、僕も広告の仕事をしている時に、他企業のそのような部署の方々と付き合ってきましたが、綿密な調査やマーケティングなどが必ずしも結果を出すとは限らない事例もたくさん見てきました。
僕たちは、実際に事実として起こっていることが何なのかを研究し、そこにもっと何かできないだろうかと考えます。大きな企業もこれと同じことをしているわけで、結局僕たちも似たようなことをしてきているのだと思います。
今頃になってやっと、僕たちの会社が何をしている会社なのかの答えが見つかった気がしています。つい何年か前までは、僕たちの会社は、コンテンツを生み出す会社、コンテンツを仕入れる会社、コンテンツを伝える会社だと言ってきました。もっと言えば、「伝える」の中に「組織化する」ことが入っているかもしれません。
コンテンツのたまっている場所を提示するということで、大きな意味ではメディアが作られていきますから、「コンテンツを中心に、あとは出し物さえあればよいのですが」という建物やら企画がたくさんあります。
その中で、僕たちは自前のコンテンツを作り、良いコンテンツを仕入れ、それを僕たちのメディアを通じて伝えていく会社なのだと、何年か前から言い続けてきました。おかげさまで、「ほぼ日刊イトイ新聞」を始めた当初に比べて、僕たちにコンテンツを提供してくださる方、あるいは僕たちのコンテンツを求めてくださる方が非常に増えました。
案外目立っていないのですが、例えば、同じ「ほぼ日手帳」の売り方にしても、漫画の『ONE PIECE』が「ほぼ日手帳」をメディアにして『ONE PIECE』を「ほぼ日手帳」で展開します。それに刺激されたほかの『SPY×FAMILY』などの著名なIPが「ほぼ日手帳」をメディアとして契約して、僕たちはそれをIPとして使用料のかたちで契約して広げていきます。
完全にそれが、いわゆるコンテンツの商品になっただけでなく、メディアになって育っていっていることが、何年か重なってきています。
同じように「生活のたのしみ展」についても、「あの場所に自分たちのブランドを置きたい」という方が非常に多くなっています。手作りで100から200くらいしか作れない個人の会社はもちろん、企業からも「あそこに当社の商品を置けないか」との相談を受けるようになっています。
「生活のたのしみ展」は1回限りのたった1週間くらいの新宿でのイベントですが、それがメディアとして成長してきています。僕たちは「生活のたのしみ展」というメディアを、新しく創造したのと同じようなかたちを結果として得られています。
どのようにブランド力をつけていこうかを考えて、言葉で伝えていくより先に、実行していった事実がブランド力を作り、それがメディアとして展開されています。僕たちはいつでも、自分たちのしていることの後追いとして言葉を作っています。これが、僕のコピーライターとしての仕事だったと感じています。
一方で、広告の仕事をしていた時には、言葉が先にできて、それを旗印にしてチームが動いていくかたちが非常に多かったのです。例えば、スタジオジブリの仕事では、「生きろ。」というコピーが先にあり、それに合わせて開発のスタッフが仕事をしていくような進め方を続けてきました。また、百貨店などでも「おいしい生活。」というテーマがはっきりしていることで、年間の企画が組み立てられていきました。
しかしながら、ほぼ日では真逆になりました。自分たちが取り組んでいることを後追いで言葉にして、そこでもう1回言葉にしたものを基礎固めにして、次の建物を作っていくかたちで進めています。
つまり、川下で行われていることが言葉を生み出して、川上の製造に至っていくといった循環が始まったように感じます。「このようなことができればよいのに」と、広告の仕事をしている時からずっと思っていたのですが、それが実現できた気がし始めました。
それに合わせて、例えば、「ほぼ日の大開拓採用」では、今のほぼ日でできないことを新しい方と一緒に取り組んでいきたいので、人員を募集したいというかたちで採用の募集広告を出しました。
今の会社はエビデンスやマーケットのデータをもとにしており、新しい冒険がしづらい時代です。ほぼ日に今足りないキャリアを持つ方が、次のステップとして、自分が持っているキャリアを活かせる場所に入ってみたいと、新しい採用で大勢入ってきてくれています。
例えば、そのような方々が映像の部分を担ってくれると、「ほぼ日の學校」が展開できるわけです。
また、海外にしても、もともと海外の市場についてプロのスタッフが当社にいたわけではありません。売れているという事実を追認するようなかたちで、それの得意なキャリアの方々がどのように自分が力を発揮できるか考え、キャリアごと当社に入ってきてくれるかたちで育っています。
事実としてなかなかおもしろいことが、見えるところ、見えないところで起こっています。そのような状況を、コンセプトを考えるのが仕事だったつもりの僕が、ようやく後追いで言葉にできるような気がしたのが今年です。
それは何かと言いますと、「ほぼ日の仕事とは何なのか?」と聞かれた時の答えが、ようやく見つかった気がします。今までの、「コンテンツを生む、コンテンツを仕入れる、コンテンツを広げる」という言い方にも具体性はありますが、もっと根本になる考え方が言葉になるのではないかと思い、ふっと考え出したのがこの言葉です。
「生活のたのしみ展」という言葉の中にその答えがあります。つまり、ほぼ日は「生活のたのしみを作る会社」だと考えていただくのが、僕たちのしていることを一番わかりやすく伝えていると思います。
企業にはいろいろな仕事の仕方があります。例えば、ビジネスを効率化するための仕事があります。その会社は、ビジネスを成長させる、ビジネスを鍛える、ビジネスを整理する、ビジネスを編集するためにあると思います。また、流通網をもっと整える会社もあります。
僕たちはそのようなことではなく、生活している、仕事以外の時間も含めて人間一人ひとりが生活している「LIFE」のすべての時間の、どのようなたのしみ方をしているのかに、僕たちが取り組む仕事のすべてがあるのではないかと考えました。
この言葉を、展覧会として取り組んでいたのが「生活のたのしみ展」です。例えば、「ほぼ日手帳」を使っている方々は、自分が今日何をしたのか、これから何をするのか、何を感じたのか、何を考えたのかを記録してくれているわけです。
それこそが、自分が生きていることの「生活のたのしみ」の部分を書いていくことであり、それが1冊の本のようになって、書棚に収まっていきます。「LIFEのBOOK」という言い方をしてきましたが、つまりそれはあなたの生活の、人生のたのしみが全部そこに入っている「BOOK」をあなたが作ったのだという意味が込められていると思います。
仕事の効率化という言葉がアプリの案内などにありますが、それとは真逆です。「LIFE」「人生」「たのしみ化」というところに僕たちの仕事があるのだと、これからは前向きに打ち出していきたいと考えています。
こちらをどのように英語に訳したらよいかとかなり悩んでいるのですが、「JOY OF LIFE」ではないと感じています。「JOY」という言葉で表現されるような、いかにものたのしみというよりは、もっと土台に根ざしたような、「生きていることが喜びである」ようなことを、なんとか英語に直せないかと考えています。
これでは足りないなどと言いながらも、いずれなにかのかたちで発表していくと思いますが、これからも生活のたのしみ全部が、僕たちの仕事です。
これから何をしていくか予告めいたこと、例えばアプリの開発をしていると言うと、「『ほぼ日手帳』とバッティングするのではないか?」という質問をおそらく受けると思います。
しかしながら、今テストマーケット的に自分で使っているのですが、「ほぼ日手帳」とバッティングするのではなく、「ほぼ日手帳」のようなたのしみ方ができるアプリが両方あると、もっと良いと考えています。そのようなものが今、できかけています。
また、よくいろいろなところでお話しする機会に言っていますが、僕たちの会社は今、神保町にあります。そこでは小さい郵便箱のようなロッカーを1つ借りるのに、月に6,000円も払わなければなりません。このように、東京の地価はとんでもない値段になっています。
東京では、小さな洋服ダンスを置く分に家賃をいくら払っているのかという事態が起こっています。どんどん自分たちのすることが手狭になって、冷蔵庫の代わりにコンビニを使っているケースも見られます。
一方で、地方に行くと、廃屋がただでも売れません。あるいは、学校が1つなくなってしまい、その土地を誰か使う人いないかと言っても、誰も現れません。親が亡くなると、その土地や建物を換金するという以外の方法を思いつく人がいません。このように、東京と地方にはとんでもない格差があります。
それをつなぐものとして、キャンプのように非日常をたのしむことはありますが、もっと地方というものの豊かさやおもしろさは、今までの地方創生のような「負けないぞ」と言って出していくのではなく、今のままでもなにかあるのではないかと考えています。このようなことも、ほぼ日の新しいメディアとして、僕たちができることではないかと思っています。
「生活のたのしみ展」を地方で開いてほしいという声がよくかかります。これは正直に言って、コスト的には相当難しいです。大赤字でもよいならできますが、そうではなく、地方のある種の「天井の広さ」と、東京にいることの「たのしみと窮屈さ」をもっと混ぜたかたちで展開できることが、ほぼ日のコンテンツを生み出す力でできるかもしれません。
そのようなことの実験を、少しずつ始めています。だんだんとそのようなことも、地方自体がメディアになって、ほぼ日の仕事になっていく、ほぼ日の生活のたのしみという仕事になっていくこともありえるのではと考えています。
対談などあちらこちらで僕が軽く口を滑らしたりしていることには、現実に取り組んでいきたいことがかなり含まれています。大金を持っている会社ではありませんので、そこまですごいことはできるとは思いませんが、手足を動かす程度の実現はできると思っています。
商品コンテンツという名目の「ほぼ日手帳」が今、海外に出ていっているというトンネルを使って、海外に対して何ができるかを考えています。また、「ほぼ日刊イトイ新聞」というホームページだけではなく、さまざまなところで自分たちのメディアをどんどん広げていくことが今、できかけています。これからさらに、野心的に展開していきたいと思っています。
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