―戸建てに見直し機運が急浮上、“郊外・地方”再評価のきっかけに―
新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、自宅で仕事をする「テレワーク」が急速に普及するとともに、多くの業界に劇的な変化が生まれている。例えば、家庭での食事の量が増え食品スーパーが賑わう一方で、通勤客の減少で鉄道各社には痛手になるといった具合だ。同様に事業環境に大きな変化が出始めている業界に住宅産業が挙げられる。その背景には「仕事部屋」確保の需要がある。更に、家族と一緒にいる時間が増えたことから、住環境そのものを見直す動きも強まりつつある。
●在宅勤務需要でオープンH、ケイアイ不の5月契約は大幅増に
新型コロナの感染拡大を契機に普及が一気に進んだ「テレワーク」だが、多くの企業が勤務スタイルのひとつとして組み込む動きをみせている。アフターコロナも視野に入れたうえで、テレワークは一般化する方向性がみえてきた。そんななか、いままでは様子見姿勢にあった在宅勤務に関わる潜在的な需要が徐々に表面化し始めている。
その代表例といえるのが住宅だ。例えば、東京都や神奈川県など首都圏を中心に不動産事業を展開するオープンハウス <3288> の4月の戸建て仲介契約件数は新型コロナの影響で前年同月比39.1%減と落ち込んだ。しかし、5月は同43.0%増と大幅な伸びとなり、4月の不振を一気に挽回した。5月の大きな伸びの要因として、テレワークが挙げられている。住宅を購入する動機として同社には、「書斎を確保しやすい戸建てを選んだ」という声が寄せられている。
同様に埼玉県など首都圏を地盤に新築戸建て住宅を手掛けるケイアイスター不動産 <3465> の分譲住宅契約金は4月が前年同月比8%減だったのに対し、5月は同32%増を記録した。テレワークなどによる戸建て住宅に対する需要の高まりが追い風に働いた。同社の物件ページの閲覧数は、今年4月の緊急事態宣言後は同月末までにそれまでの約1.7倍に増えている。
●REIT市場でも住宅系銘柄の優位性が顕著に
この新型コロナ流行後の住宅需要の底堅さは、REIT市場の動向を眺めてみればよく分かる。東証REIT指数は2月中旬の高値からコロナショックの波乱で一時、5割近い暴落となり足もとでもなお2割強の下落となっている。なかでも、厳しい下げを演じたホテル系REITのインヴィンシブル投資法人 <8963> [東証R]は足もとで昨年10月高値から6割程度の下落。オフィス系の日本ビルファンド投資法人 <8951> [東証R]も今年2月高値から3割強下落している。
一方、住宅系のアドバンス・レジデンス投資法人 <3269> [東証R]は5月末にはコロナショック前の1月高値を更新する場面があったほか、スターツプロシード投資法人 <8979> [東証R]も今月下旬に一時2月高値を抜いた。新型コロナの流行前まではREIT市場には、「住宅系銘柄には安定性はあるが、業績の上振れ余地は小さく面白みに欠ける」(アナリスト)との見方もあった。しかし、テレワークが急速に普及するなか、今後も「住宅系のパフォーマンスがオフィス系に比べ優位に立つ」(同)可能性も指摘されている。
●個室を取りやすい「戸建て住宅」再評価も、三栄建築、カチタスなど注目
これまでリビングなどを一時的な仕事部屋としていた向きも多いとみられるが、自宅勤務の流れは変わらないことが明白となるにつれ、本格的に「家庭内の新たな仕事部屋」探しが始まり、例えば「1LDKより2LDKを」といったニーズが表面化してきているわけだ。
ここで見逃せないことは、「家族と過ごす時間が増えたことが住宅を見直すきっかけとなったという声が多い」(住宅業界関係者)ことだろう。在宅勤務によるライフスタイルの変化が住宅に対する価値観の転換にもつながっていることがうかがえる。この流れのなか、比較的個室を多く取りやすく1階と2階で仕事とプライベートの空間を分けるといった間取りにしやすい「戸建て住宅」を再評価する動きも出ているようだ。また、遠隔地からの仕事が可能になるため、郊外や地方の住宅が見直されることも予想されている。
具体的には戸建て住宅では、飯田グループホールディングス <3291> や三栄建築設計 <3228> 、フジ住宅 <8860> などに見直し余地がありそうだ。もちろん積水ハウス <1928> や住友林業 <1911> といった住宅大手も再評価されそうだ。また、地方の中古住宅の再生販売に絡みカチタス <8919> が一段高に買われることも期待できる。加えて、より広い間取りを求めてマンションに需要が出てくることが見込めるため、タカラレーベン <8897> やコスモスイニシア <8844> [JQ]などをマークしたい。更に、GA technologies <3491> [東証M]のような中古不動産流通関連企業などにも注目したい。
株探ニュース
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