―海の植物が光合成でCO2を吸収、脱炭素の切り札として関心高まる―
欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、2024年の世界の平均気温が産業革命前の水準と比べて1.5度以上高くなることがほぼ確実だと発表した。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では平均気温の上昇幅を1.5度に抑える目標が掲げられており、各国は二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを実現することを表明している。こうしたなか、CO2の新たな 吸収源として関心が高まっているのが「ブルーカーボン」だ。
●事業化見据え連携の動き
ブルーカーボンとは、海藻類など海洋生物の光合成によってCO2が海中に取り込まれ、その海洋生物がちぎれて海底や底泥へ堆積されることによって蓄積される炭素のこと。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系としては、海草(うみくさ)藻場、海藻(うみも)藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。09年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」で紹介されたことをきっかけに、吸収源の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになり、日本でも環境省がブルーカーボン生態系の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進めている。
CO2を吸収するブルーカーボンは、新たなビジネス機会にもつながることから企業も関心を寄せており、10月には東京海上ホールディングス <8766> [東証P]傘下の東京海上アセットマネジメント、出光興産 <5019> [東証P]、商船三井 <9104> [東証P]などが連携し、ブルーカーボンを中心とした自然由来系脱炭素の推進及び生物多様性保全に向けた取り組みの拡大ならびにブルーカーボンの経済価値向上に向けた検討会を開始すると発表。また、同月には住友大阪セメント <5232> [東証P]が革新的なブルーカーボン対応多機能型藻場増殖礁「藻場王(もばおう)」を開発したことを明らかにしている。
●藻場再生の取り組み続々
このほか直近では、フーディソン <7114> [東証G]が島根県海士町の海中にリーフボール藻礁を沈設したと発表した。同社はAMAホールディングス(海士町)と業務提携し、海の磯焼けによって水産資源が減少しつつある海士町の藻場再生に向けて「シン・ブルーオーシャンプロジェクト」を推進しており、今回の取り組みはその一環。同社は磯焼けの解消とCO2吸収源・ブルーカーボン生態系を守り、水産資源の増大につなげたい考えだ。
ダイダン <1980> [東証P]は10月、イノカ(東京都文京区)が主催する「瀬戸内渚フォーラム」に参画したことを明らかにした。このフォーラムは瀬戸内海の藻場を保全・再生することを目的としており、「現地の藻場調査(藻場と土壌)」「海藻(草)の飼育条件の特定」「海藻(草)の育種」「企業アセットを活用した藻場保全研究」などの活動を推進。同社は建築設備に関する知見を生かして藻場の再興に取り組むとしている。
パス <3840> [東証S]は9月、子会社のアルヌールが「カギケノリ」のリーディングカンパニーで世界的なライセンスを持つオーストラリアのフューチャーフィード社とGHG削減飼料添加物の社会実装実現に向けて基本合意したことを明らかにした。畜産の大幅な脱炭素化と海のブルーカーボン拡大のカギを握る「カギケノリ」は世界で注目されている海藻のひとつ。学術的にも技術的にも「カギケノリ」に関して膨大な知見を持つフューチャーフィード社の協力により、日本での「カギケノリ」の海洋・陸上ともに養殖技術が飛躍的に向上するという。
東洋建設 <1890> [東証P]、東京電力ホールディングス <9501> [東証P]傘下の東京パワーテクノロジー、カーボンフロンティア機構、電力中央研究所は9月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業「浅海域における石炭灰の利活用促進に向けた環境配慮型技術の開発」に係る藻礁ブロック開発に関する海域実証試験の取り組みについて公表。北海道と秋田に続き、福岡と鹿児島の2海域に磯焼け対策のための藻礁ブロックを設置し、海域生産性の向上効果と天然資源の消費抑制効果についての検証を進めている。
東洋製罐グループホールディングス <5901> [東証P]は8月、子会社の東洋ガラスと不動テトラ <1813> [東証P]が共同事業体として、大阪府に対して「イオンカルチャープレートを用いたワカメ場造成」事業を提案し、大阪府万博会場周辺海域ブルーカーボン生態系創出事業に採択されたと発表。両社が共同開発したイオンカルチャーは、海洋植物の生長を促進する二価鉄やケイ酸、リン酸イオンといった成分が、ゆっくりと水に溶け出すよう成分調整を行ったガラス製品で、港や岸壁のテトラポッドの表面に取り付けて海藻の生長を促すことからブルーカーボン生態系の構築に寄与するという。
ユーグレナ <2931> [東証P]は7月、日本電信電話 <9432> [東証P]と世界で初めて中性子線照射による遺伝子変異(遺伝子を構成するDNAの塩基配列が本来の配列と変化すること)導入を用いた藻類の品種改良に成功したと発表。藻類のCO2吸収量向上や目的に応じた有用性を高めた藻類を品種改良・生産することで、気候変動に係るさまざまな課題を解決する基盤技術と期待される。
●F&LC、理ビタなどにも注目
これ以外の関連銘柄としては、福岡県ブルーカーボン推進協議会に参画している高田工業所 <1966> [東証S]、微細藻類株のレンタル・販売を行うコスモ・バイオ <3386> [東証S]、ウニ畜養事業を展開するアイルランドのヴェルダント・ブルーム(ウニノミクスグループ)と資本・業務提携しているFOOD & LIFE COMPANIES <3563> [東証P]、ブルーカーボン事業化に向けた多段式の海藻養殖技術を開発済みの岡部 <5959> [東証P]、岩手県洋野町の増殖溝(ぞうしょくこう)を活用した藻場の創出・保全活動に出資するライドオンエクスプレスホールディングス <6082> [東証S]、焼却施設などで発生する排ガスからCO2を分離・回収して微細藻類の培養に有効活用する研究を進めているミダックホールディングス <6564> [東証P]など。
理研ビタミン <4526> [東証P]は10月、科学技術振興機構(JST)が公募した「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に、子会社の理研食品や高知大学などが共同提案した「しまんと海藻エコイノベーション共創拠点」が採択されたと発表。理研食品は高知大学とこれまでもヒトエグサやカギケノリなど海藻類の共同研究を行っており、今回のプロジェクトでは幹事機関として海藻養殖の知見を生かす構えだ。
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