―コロナ禍の影響や世界物流の混乱、円安も響く、出費を抑えて家計を守る動き顕在化へ―
2021年以降、身近な食品や日用品、サービスに値上げの波が押し寄せているが、今年2月に入り更に幅広い品目へと及ぶようになった。普段の生活にまつわるさまざまな物価が上昇する一方、岸田文雄首相が注力する賃上げ政策は内容面での弱さが指摘されており、大きな引き上げにはつながらないとの見方が強い。そのため、しばらくは日々の生活費を節約する「生活防衛 意識」が高まるとみられており、関連する企業のビジネスチャンスにつながりそうだ。
●原材料価格や物流費の上昇、円安などが要因
2月から値上げされる食品は、主だったところでキッコーマン <2801> のしょうゆ、プリマハム <2281> やプリマハム <2281> のハム・ソーセージ、ニップン <2001> や日清製粉グループ本社 <2002> のパスタ やパスタソース製品、日本水産 <1332> のちくわなどすり身製品、マルハニチロ <1333> や味の素 <2802> の冷凍食品、J-オイルミルズ <2613> の菜種油などで、更に3月には味の素やキユーピー <2809> のマヨネーズ、大王製紙 <3880> のティッシュ・トイレットペーパーなどの値上げが控えている。また、大手電力や都市ガス大手も2月に値上げするため、まさに値上げラッシュの様相を呈している。
今回の値上げはさまざまな理由が重なっている。中国をはじめとするアジアの経済成長や欧米の景気回復で世界的に食品需要が高まっていることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による働き手の不足やコンテナ不足による世界物流の混乱などによる原材料価格の上昇、原油価格の高騰に伴う物流コストの上昇なども影響している。また、こうした世界共通の物価上昇要因のほか、日本ではアメリカの金利先高感による円安も加わり、仕入れ値が膨らんでいることも要因となっている。
●値上げ相次ぎ消費行動に変化も
可処分所得が伸び悩むなか、消費者は価格に敏感であり、そのために企業は値上げに慎重だった。ただ今回、メーカー各社は企業努力だけではコスト上昇を吸収できなくなり、それが値上げの続出につながっている。コロナ禍前までは内容量を減らすものの価格は据え置く「ステルス値上げ」も多くみられたが、過去のステルス値上げは消費者にマイナスのイメージを与えたこともあり、企業はこうした値上げを避ける傾向がある。また、今回のコスト上昇はステルス値上げで吸収できないとの見方も強く、今後も本格的な値上げが続きそうだ。
食品は必需財(基礎的支出)であるため消費量を削りにくい。一方、家計のエンゲル係数はコロナ禍以降上昇しており、食品価格の値上げはコロナ禍以前よりも家計を圧迫しやすくなっている。その結果、節約志向が高まり、食品や日用品など生活必需品の価格に敏感になるといった消費行動の変化が予想される。
そこで注目されるのが、スーパーマーケットやディスカウントショップ、100円ショップ などだ。値上げが相次ぎ、出費を抑えたい消費者が増えると、こうした企業の競争優位性が際立つことになろう。
●スーパーや100円ショップに注目
スーパーでは、神戸物産 <3038> やライフコーポレーション <8194> に注目したい。神戸物産は容量の大きな定番品食材を中心に品揃えし、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)の価格政策で販売する「業務スーパー」を展開する。独自のFCモデルが強みだが、知名度上昇で同社に集まる物件候補地が増えており、出店ペースが加速する可能性もある。
ライフコーポは首都圏と近畿圏を中心に店舗を展開しているが、ネットスーパーが高評価を得ている。19年9月にAmazonプライム会員向けサービスを開始しエリアを順調に拡大させているほか、昨年3月にはモバイルアプリのリリース、4月には配送のラストワンマイルを担う新会社の設立などで事業を拡大している。
ディスカウントストアでは、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス <7532> や大黒天物産 <2791> に注目したい。パンパシHDは、前年の巣ごもり需要の反動や夏場の感染拡大・悪天候などから上期(7-12月)のディスカウント事業の既存店売上高は前年同期比0.9%増と伸び悩んだが、消耗品、化粧品、食品などが好調を持続。また、GMS業態のディスカウント業態への転換などを進めているほか、新たな収益の柱として金融事業に注力している。
大黒天は岡山を本拠にESLP(エブリデイ・セーム・ロー・プライス)を目指したディスカウントストア「ラ・ムー」や「ディオ」を展開している。今秋には京都に新たな物流センターも稼働する予定で、これまで以上に食品製造小売業としての機能アップを図る方針だ。
100円ショップではセリア <2782> [JQ]に注目したい。100円ショップ業界2位で、上期の既存店売上高は前年同期比0.6%減と計画線だった。下期は想定の同0.8%減に対して12月まで同1.8%減と弱含みだが、アニメグッズやミニチュアグッズなどが好調。引き続きこうした趣味・嗜好性の強い商品の開発に注力し、顧客層の一層の拡大を図る見通しだ。
100円ショップではないものの、生活雑貨を中心とした300円ショップ「3COINS」を展開するパルグループホールディングス <2726> にも注目したい。「3COINS」における多面的な戦略が奏功しているほか、自社ECサイト「PAL CLOSET(パルクローゼット)」が好調に推移し業績を押し上げている。
このほか、低価格で子供向け衣料や雑貨を提供する西松屋チェーン <7545> は、1月までの既存店売上高が前年同期比0.1%減と苦戦しているものの、低価格のPB商品や小学校高学年向けの商品開発を推進し、集客力を強化している効果が徐々に表れてきている。また、21年11月に立ち上げた自社ECサイトなどを通じて、インターネット販売の拡大を図っていることや、子育て世帯への臨時特別給付金の効果も注目されている。
また、ワークマン <7564> [JQ]は、前年のハードルが高くなったことで、足もとの既存店売上高は伸び悩んでいるようにみえるが、全店売上高は計画線で推移している。一般顧客向けの高機能・低価格PB商品によるアスレジャー市場の開拓余地が大きいことや、新業態「#ワークマン女子」の路面展開などによる客層拡大などにも引き続き注目だ。
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