1. 2022年2月期の業績概要
いちご<2337>の2022年2月期通期は、売上高が前期比7.2%減の56,934百万円、営業利益が同3.6%増の10,018百万円、経常利益が同4.1%増の7,471百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同28.8%増の6,473百万円と、順調に各利益を伸ばした。なお同社では、徹底したキャッシュ・フロー経営を掲げており、2020年2月期より多くの販売用不動産(減価償却が行われない)を固定資産(減価償却を行う)に振り替えて、減価償却の税効果によりキャッシュ創出を果たしてきた。固定資産の売却益は特別利益に計上されるため、業績の実態は親会社株主に帰属する当期純利益に反映されることに留意したい。
心築事業、アセットマネジメント事業、クリーンエネルギー事業ともに順調に利益が成長した。主力の心築事業は、売上総利益で14,358百万円(前期比20.0%増)となった。内訳としては、フロー収益である不動産譲渡利益が6,267百万円(前期比1,238百万円増)、心築に属する固定資産売却益が3,248百万円(同2,528百万円増)となり、堅調な市場を背景としたロジスティクスと、いちごオーナーズによるレジデンス売却が順調であったことに加え、マルチアセット(オフィス・商業施設・ホテルなど)でも一部の物件でコロナ前の水準での売却が成立し始めた。不動産賃貸利益(減価償却後)は4,842百万円(同1,377百万円減)となり、ホテルの賃貸収益が低調に推移したこと、大規模オフィスでの空室が影響したことにより一時的な減収となった。心築保有資産は、169物件(前期末は177物件)、簿価ベースで241,112百万円(同247,648百万円)。鑑定NOI(Net Operating Income:営業純利益)利回りでは6.3%(同6.1%)となり、コロナの環境下においても堅実に不動産価値の維持・向上を実現した。
アセットマネジメント事業は、ベース運用フィーが堅調に推移したことに加え、いちごオフィスにおいて物件売却に伴う増益に連動した報酬が発生したことなどにより増収増益となった。クリーンエネルギー事業は、2021年2月期に竣工した発電所の売電収入が通期で寄与したことや新たに9ヶ所の発電所が売電を開始したことなどにより、2022年2月期も堅調に利益を積み増した。
同社グループの売上総利益率が28.4%(前期は25.4%)と3.0ポイント上昇したのは、フロー収益(不動産譲渡損益)の中でマルチアセット物件の売却売上の構成比が上昇したことが影響したためであり、一部のホテル物件でコロナ前の水準での売却が可能となったことを示す。同社は、循環的な景気後退に対応できる財務体質を以前から整備してきた。ストック収益で固定費をカバーできる同社にとって、市場が低迷している時期に安値での売却(フロー収益によるキャッシュの確保)を行う必要はない。ホテルや商業施設の事業環境が回復するまでじっくり待つ戦略をとれるのも、同社の強みと言えるだろう。
キャッシュ(稼ぐ力)は着実に回復基調へ向かう
同社は、キャッシュ・フローの創出にこだわった経営を行ってきた。2020年2月期末には、コロナの影響で不動産業界を取り巻く環境が急変するなか、心築事業に関わる不動産(従来は販売用不動産)を固定資産化し、減価償却の税効果によりキャッシュを創出する施策を行った。一般に販売用不動産は、早期に販売されるべきものであり、会計処理上、減価償却を行わない。これを固定資産化すると現金支出のない減価償却費を計上することになり、税効果が発生する(キャッシュが創出できる)。固定資産比率は、2019年2月期末30.1%に対し2020年2月期末84.4%、2022年末も84.7%と同水準である。市場環境が悪化しているなかでは、売り急がずじっくり保有しつつキャッシュ創出力を最大化するという戦略の一環である。キャッシュ(稼ぐ力)の指標で2022年2月期の決算を評価すると、異なる姿が見えてくる。親会社株主に帰属する当期純利益は2022年2月期に6,473百万円となり、2020年2月期の8,201百万円と比較すると21.1%減となったが、減価償却を加味した「キャッシュ当期純利益」では、2020年2月期の10,709百万円に対し、2022年2月期は13,004百万円で21.4%増と、大幅に増加した。1株当たり当期純利益(EPS)も同様に2022年2月期に前々期比18.2%減の13.81円となったが「キャッシュEPS」では同25.8%増の27.74円、自己資本当期純利益率(ROE)に関しても、2022年2月期は6.5%となったが、「キャッシュROE」では13.0%となり10%を超える水準となっている。
健全な財務基盤が強み。株式市場及び金融機関からの信頼も厚い
2. 財務状況と経営指標
2022年2月期末の総資産は前期末比9,189百万円減の337,887百万円となった。固定資産は11,216百万円減であり、物件の売却等により有形固定資産が減少したことが主な要因である。流動資産は2,027百万円増であり、販売用不動産の増加4,557百万円が影響した。
負債合計は前期末比11,125百万円増の225,695百万円となった。固定負債は9,613百万円減であり、長期借入金が減少したことなどが主な要因である。流動負債は1,513百万円減であり、短期借入金が減少したことなどが主な要因である。借入金は8,860百万円減少し、ノンリコースローンは1,467百万円減少した。
経営指標では、流動比率(588.6%、200%以上が安全の目安)、固定長期適合率(67.9%、100%以下が安全の目安)など極めて安全性が高い。自己資本比率は29.8%だが、外部鑑定士が鑑定する鑑定評価額をベースとする不動産の含み益や同社に帰属しないリスクを控除した自己資本比率では45.8%とより高い数値になる。2016年8月には、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした株価指数「JPX日経インデックス400」へ組み入れられ、連続してその地位を維持している。強固な財務基盤により、金融機関からの信頼も厚い。コーポレート借入金の加重平均金利は0.89%(2022年2月期末、前期比0.03pt低下)、加重平均借入期間は10.1年(同、前期比0.1年増加)となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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