3. 市場環境
ケアネット<2150>を巡る市場環境としては、医薬DX市場の拡大が最大のトピックスと言える。日本の医療用医薬品市場規模は将来にわたって横ばいの予想であるが、構成は大きく変化している。プライマリ医薬品※1の特許が切れ、スペシャリティ医薬品※2の開発・上市が進むにつれて同領域のシェアが拡大し、MR数の削減が進んだ。この背景には、スペシャリティ医薬品はプライマリ医薬品と比べ薬剤別の患者数が少ないため処方できる医療機関が限られる一方、提供すべき医薬品情報の専門性は高く、プライマリ医薬品が主流の時代とは異なるeプロモーションが必要となったことにある。
※1 プライマリ医薬品:降圧剤等生活習慣病の治療薬などに用いられる大量生産を目的とした低分子化合物医薬品。
※2 スペシャリティ医薬品:がんや希少疾患などの難治性疾患の治療に用いられる、バイオ医薬品等の先進技術により開発された医薬品。
スペシャリティ医薬品のモダリティ※は多様化により高度に専門化しており、EBPによる研究開発が拡大をけん引している。日本においても開発パイプラインに占めるEBPの割合は拡大する見通しであり、EBPの台頭により営業・マーケティングプロセスを中心としたアウトソースはさらなる拡大が予想される。今後はスペシャリティ医薬品領域の拡大に伴い、製薬企業のプロモーション費用構造は大きく変容する。一方、医薬広告としてのeプロモーションについても、既存薬を中心とした医薬品マーケティングの主要手段として、今後も重視される。同社推計では、業界の医薬品マーケティング予算規模は2,000億円~2,500億円程度(2030年)であり、引き続き医師会員の獲得と視聴率の向上に注力することで同社の市場シェア拡大が見込まれると弊社では見ている。
※ モダリティ:医薬品の創薬基盤技術の分類をいう。従来は低分子化合物が中心であったが、近年はバイオ医薬品等の新規モダリティが増加している。具体的には、分子標的薬で知られる抗体医薬品のほか、細胞治療、遺伝子治療、ペプチド医薬品、拡散医薬品等がある。
コロナ禍も市場環境を大きく変化させる要因の1つとなり、MR人員の削減が加速し、営業拠点の統廃合が進んでいる。医師の行動も変容しており、医薬品情報をインターネットで収集するケースが増え、会合もオンライン化が浸透しつつある。これにより、eプロモーションはMR補完を目的とした単なるネット広告の位置付けから、MR代替の手段へと変化した。一方、2022年から2023年の2年間に製薬業界ではプロセス改革が進んでおり、eプロモーションの売上高へのインパクトは、ROMI※テストなどの統計調査によって徹底的に精査されるなど、アウトカム志向が顕著に表れてきている。製薬企業ではチャネルの見直しを進めており、対面による営業を最優先としつつも、医師に会えない場合はeプロモーションによってアプローチを試みる。しかし、すべての医師がeプロモーションのコンテンツを見ているわけではなく、どのアプローチ方法も完璧ではないことが、コロナ禍を経てより明らかになった。製薬企業が新薬のシェア獲得にMRのリソースを集約するなかで医師と製薬企業をつなぐマッチングサービスが求められており、医師とのエンゲージメント推進が課題となっている。既存のeプロモーションやDXモデルでは解決できない問題であり、開発・営業プロセス改革のための新たなeプロモーション活用モデルが必要とされている。
※ Return On Marketing Investmentの略でマーケティング投資回収率を指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 茂木稜司)
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