―権利取りをにらんだ動きが本格化、積極的な株主還元が魅力の高配当株に照準―
週明け7日の東京株式市場で日経平均株価は前週末比764円安の2万5221円と続急落、約1年4ヵ月ぶりの安値水準に沈んだ。一時2万5000円割れ寸前まで下落する場面もあった。欧米がロシア産原油の禁輸を検討していると伝わり、原油価格が高騰したことを受けて、景気悪化への警戒からリスク回避の動きが一気に高まった。ウクライナ情勢の先行きは見通せず、波乱相場が長引くことが懸念される。
こうしたなか、市場では3月期決算の期末を間近に控え、高配当利回り銘柄への関心が高まっている。高配当銘柄は下落局面に強いとされ、年初から相場全体が乱高下する不安定な展開が続くなかでも頑強な動きをみせていたが、ウクライナ情勢の緊迫化に対する警戒が強まった2月後半に大きく値を崩した。ただ、直近では株主還元を強化する企業などに下値堅い動きを示すものもみられる。ここでは、配当や自社株買いを通じた株主への利益還元に積極的な姿勢をみせる高配当利回り株を探ってみたい。
●幅広い業種で配当増額相次ぐ
22年3月期はコロナ禍で落ち込んだ業績の底入れが鮮明となるなか、株主への利益配分を増やす企業が増えている。4-12月期決算が発表された1月初めから2月15日にかけて、22年3月期の配当計画を変更した企業を調べたところ、前回予想から増額修正したのは約300社に上った。資源価格の高騰や旺盛な電子部品需要を背景に業績が好調な卸売をはじめ、化学や機械といった製造業、内需系では情報通信やサービス業など、幅広い業種で配当を増額修正する企業がみられた。
こうした動きは2月中旬以降も続いている。通常、配当予想の変更は決算発表や業績修正と併せて行うため、決算発表シーズン通過後の2月後半から4月初めに修正する企業は少ない。一方、今年は業績回復が顕著となるなか、株主還元を見直す企業が増えており、この2週間程度で約50社が配当増額や未定だった配当予想の増配方針を発表している。
今回は、株主還元に積極的で配当利回りが高水準な企業に注目し、22年3月期が増益予想の企業の中から、年間ベースの配当利回りが3%を超え、かつ株価指標が割安圏にある6社を紹介していく。
※配当利回りは3月7日終値ベースで算出。
【稲畑産】 配当利回り4.92%
化学専門商社の稲畑産業 <8098> は2月7日、中期経営計画における総還元性向を従来の30~35%から50%程度に高める方針を示した。併せて、樹脂価格の上昇などを反映する形で、22年3月期の最終利益予想を215億円(従来計画は160億円)へ上方修正するとともに、年間配当を110円(従来計画は70円)に引き上げた。更に、350万株(発行済み株式数の5.8%)規模の自社株買いを実施するなど、株主還元強化策を相次ぎ打ち出した。これを受けて株価は連日急騰し、青空圏を快走する展開となっていたが、足もとは利益確定売りに押されている。特別利益によるかさ上げはあるが予想PERは6倍近辺と割安なうえ、配当利回りは5%近くと投資妙味が大きく、押し目買い候補として注視したい。
【住友倉】 配当利回り4.05%
物流事業と不動産事業を両輪とする住友倉庫 <9303> は足もとの業績が絶好調だ。4-12月期は北米向けコンテナ輸送数量の回復や運賃上昇を背景に、海運事業の収益が好転したほか、主力の物流事業では航空貨物を中心に国際輸送の取扱量が大幅に増加し、最終利益は前年同期比2.3倍の147億5600万円に急拡大して着地。業績好調に伴い、通期の同利益と配当予想についていずれも今期3回目の上方修正に踏み切った。配当は年92円50銭と9期連続増配を予定するほか、自社株取得と消却を定期的に実施するなど、株主還元の切り口で投資魅力が高い。株価は1990年以来、約32年ぶりの高値圏を突き進むが、指標面に割高感はなく、配当利回りも高水準なだけに一段の上値期待は強い。
【エネクス】 配当利回り4.34%
エネルギー商社の伊藤忠エネクス <8133> は記念配当を除くと1978年の上場以来、配当を減らしたことがない優良な安定配当株だ。今期の年間配当は46円(前期は50円)を計画するが、前期は設立60周年記念配当6円を実施しており、普通配当は2円の増配となる。4-12月期業績は、LPガス輸入価格上昇に伴う在庫影響やメガソーラーの子会社化による評価益の計上などが寄与し、最終利益は113億3100万円(前年同期比19.0%増)と2ケタ増益を達成した。通期計画は125億円と7期連続の最高益更新を見込むがこれをクリアするのは確実とみられる。同社は前期まで5年連続で本決算発表時に配当を増額修正した経緯があり、好調な業績を背景に今年も上乗せに期待したいところだ。
【浅沼組】 配当利回り6.75%
淺沼組 <1852> は昨年11月に、今期の期末一括配当を従来計画の260円から363円(前期は257円)へ大幅増額修正すると発表。シンガポール企業の買収が決定したことで資金投入計画を見直し、これまで50%以上としていた配当性向を70%以上に引き上げた。今後の投資額を引き下げて配当に回す方針だ。還元姿勢を強める背景には、配当性向100%を求めている大株主ストラテジックキャピタルの存在が大きい。期末一括配当の利回りは6%台後半と極めて高く、全体波乱相場のなかで株価を下支えしている。4-12月期業績は最終利益が18億2700万円(前年同期比39.0%減)だったが、第4四半期に予定する追加工事や政策保有株式の売却などで計画達成は可能とし、業績予想を据え置いている。
【新光商】 配当利回り4.91%
新光商事 <8141> はルネサスエレクトロニクス <6723> 製品を主体とする半導体商社。世界的に旺盛な電子部品需要を追い風に業績拡大基調が続いている。足もとでは産業用ロボットや半導体製造装置、車載機器、OA機器関連向けの販売が好調だ。4-12月期の決算発表時には通期の業績見通しを引き上げ、最終利益は23億円(従来計画は17億円)と4期ぶりの水準に復帰する見通しとなった。業績上振れを受けて、150万株(発行済み株式数の4.04%)または10億円を上限に自社株買いを実施すると発表。22年3月期までの中期経営計画で総還元性向100%以上を目標に掲げており、株主還元策を強化した格好だ。株価は4日に約2年8ヵ月ぶりの高値をつけたが、予想PERは過去3年平均を大幅に下回る水準であり、上値余地は残っているとみられる。
【日曹達】 配当利回り3.97%
日本曹達 <4041> は工業薬品や化成品、電子材料、農薬、医薬品など幅広い分野で事業展開する化学メーカー。高付加価値ビジネスを強化しており、足もとでは増益トレンドが続いている。今期業績は2度の上方修正を経て、最終利益は前期比22.3%増の90億円を見込む。化学品事業や商社事業が好調に推移しているほか、持ち分法による投資利益が増加することも利益を押し上げる。配当は10年3月期に実施した記念配当を除くと前期まで15年も減配がなく、安定配当を維持している。今期は年130円(前期は110円)の計画だ。配当利回りは3%台後半と高水準なうえ、自社株取得にも前向きで株主還元に積極姿勢をみせる。また、指標面では予想PERが10倍台と2016年11月以来の割安水準となっている。
株探ニュース
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