―太陽光パネル設置義務付け、原油高に猛暑の気配も加わり先取りチェック―
ここ下落傾向にあった原油価格が急速に上昇している。エネルギー価格の高騰は、値上げが続く電気料金の上昇に追い打ちをかける可能性もある。更に、長期予報によれば今夏も猛暑の可能性があり、夏の訪れとともに電力需給の逼迫が懸念される状況だ。株式市場では、電力消費が増加する夏季や冬季に 太陽光発電など再生可能エネルギー関連に関心が集まるが、つれてクローズアップされるのが電力需給調整に不可欠な「蓄電池」の存在だ。また、2年後には東京都の新築戸建て住宅などへの太陽光パネル設置義務付けを控えており、蓄電池関連株には強い追い風が吹こうとしている。
●“家計防衛”で高まるニーズ
「OPECプラス」が予想外の減産を発表したことを受け、いったんは下落していた原油価格が、ここにきて切り返しに転じている。エネルギー価格の上昇は火力発電などの燃料調達費にも影響を与えるだけに、更なる光熱費の高騰に心配が募る状況だ。加えて、今年も暑い夏となりそうな気配で電力不足が懸念される。こうなってくると、再生可能エネへの関心が今年も高まることが予想されるが、とりわけ“家計防衛”の観点からは個人宅でも設置しやすい太陽光発電に消費者の関心は向かいやすい。
また2025年4月から、東京都や川崎市で戸建て住宅を含む新築建築物への太陽光パネル設置が原則義務化される。太陽光パネル設置義務は、住宅の購入者ではなく大手ハウスメーカーに課されるもので既存の住宅は対象外となる。東京都における設置義務は、30年までに都内の温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」の実現に向けたものだが、この流れは今後全国にも波及しそうだ。
●太陽光発電の強力な相棒
ただ、太陽光発電をはじめとした再生可能エネには大きなウイークポイントがある。発電量が天候に左右されやすく、安定した電力供給が得られないといった点だ。これを解決する手段の一つとして、電力需給コントロールに欠かせない「蓄電池」が急速にクローズアップされてきた。余剰電力を蓄電し、電力の逼迫時に放電することで、不安定な供給という再生可能エネの大きな課題をクリアできるからだ。まさに蓄電池こそは、太陽光発電など再生可能エネにとって、なくてはならない相棒といえる。蓄電池業界も例に漏れず世界的な半導体不足の影響を受けるが、これも次第に解消に向かうとみられている。材料満載、順風満帆――太陽光パネル設置が原則義務化に向かうなか、蓄電池関連株は家庭用に加え産業用でも活躍の舞台を広げている。
●成長ロードをまい進するニチコン
まずは、蓄電池関連のなかでもひときわ投資家の注目を集めるニチコン <6996> [東証P]だが、業績も好調だ。23年3月期の営業利益は前の期比71.1%増の110億円を計画しているが、2月8日に発表した第3四半期(22年4-12月)の同利益は前年同期比2.7倍の97億円で着地した。世界屈指のコンデンサーメーカーで、電気自動車(EV)関連として投資家の熱い視線を集めるが、加えてカーボンニュートラルに向けて急速に拡大する家庭用蓄電システム市場でニーズを的確にとらえ成長ロードをまい進している。株価は、3月10日に1459円まで買われ年初来高値を更新したものの、現在は1300円近辺まで調整しているが、切り口多彩なだけに継続注目が必要だ。
●オムロン、住友電は新サービス
オムロン <6645> [東証P]は制御機器の大手で電子部品やヘルスケア分野で実績が高いが、太陽光発電や蓄電池関連にも注力している。4月からはグループ会社が、太陽光発電と大型蓄電池を組み合わせた自家消費型再生可能エネ発電設備のオンサイトPPAサービスを開始。PPAとは、企業・自治体が保有する事業所施設の屋根や遊休地を事業者が借りて無償で発電設備を設置。発電された電気を企業・自治体が事業所で利用し、その分のサービス料を事業者へ支払うというもの。資産保有をすることなく再生可能エネが利用可能となる。活躍領域を広げる同社だが、1月30日に発表した23年3月期第3四半期(22年4-12月)は、売上高が前年同期比14.2%増の6379億7700万円、営業利益は同9.0%増の728億5400万円と好調推移。FA関連制御機器が半導体設備投資拡大やEVシフトの流れに乗る形で順調に売り上げを伸ばし、全体収益を押し上げている。
住友電気工業 <5802> [東証P]はいわゆる“電線御三家”の一つだが、同社が手掛ける「レドックスフロー電池」には投資家の関心も高い。同電池は、電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命で安全性が高いことから、電力系統用蓄電池に適した特性を持っている。そのため再生可能エネの導入を拡大していく上で必要となる系統の安定化技術として期待されている。2月には、系統用蓄電池のマルチユースに対応したエネルギーマネジメントソリューション(sEMSA)の提供を開始したと発表。電力系統の需給安定化に力を発揮するが、加えて、電力取引市場において調整力や供給力を供出するマルチユースでの運用が可能で、複数の収益を生み出す新たなビジネスモデルとして注目されそうだ。
●ファイバーG、「オフグリッドパワー蓄電地」開発に着手
ファイバーゲート <9450> [東証P]は、商業施設や集合住宅向けWi-Fiサービスを展開するが、新たに蓄電池関連の一角として注目が集まっている。同社は5日、グループ会社と集合住宅、病院・介護施設・オフィス、工場などあらゆる施設で使用可能な、長寿命かつ汎用性の高い「オフグリッドパワー蓄電地」の開発に着手したと発表。23年末頃の完成を目指す。集合住宅の屋上に太陽光パネルを設置し、発電した電力を各住戸に供給。共用部または各住戸のバルコニーに蓄電池を置き、購入電力の削減と電力自給率の向上が可能になるという。同社の23年6月期は、営業利益段階で前期比22.3%増の20億2000万円を計画し最高益更新を見込む。株価は、長期スパンで見ればまだ底値圏で、800円台の底練りを経てようやくここにきて1000円大台に復帰しており、今後の動向には目を配っておきたい。
●正興電、ミライトワンなどにも活躍期待
正興電機製作所 <6653> [東証P]は電力向け受変電設備・開閉装置が主力だが、住宅用・産業用蓄電システムにも深耕しており注目してみたい。再生可能エネの自家消費に加え、頻発化する大規模災害などのBCP(事業継続計画)対策として欠かせない蓄電システムまで幅広いラインアップでニーズを捉えている。2月1日に発表した23年12月期の業績予想は、売上高が前期比20.0%増の300億円、営業利益が同38.8%増の20億円と大幅増収増益で過去最高益を更新する見通しだ。電力部門を中心に収益拡大基調が続く見込みにある。チャートは、1月中旬と3月中旬に900円近辺でダブルボトムを形成し、底値ボックス圏からの離脱をうかがう展開に。
ミライト・ワン <1417> [東証P]は通信工事大手で、21年には大阪府・大阪市や京都市で「太陽光発電及び蓄電池システムの共同購入支援事業」において蓄電池システムの販売施工事業者に採択されるなど、この分野でも実績が豊富だ。グループに太陽光・蓄電池システムの設置・販売を手掛けるミライト・エックスを擁し、攻勢を強める。更に、EV充電器設置の早急な拡充が求められるなか、同社は全国で約3000基のEV充電器を設置するなど数多くの施工実績を持っている点も見逃せない。
建設コンサルタント大手の日本工営 <1954> [東証P]はグローバルな展開で大規模な蓄電プロジェクトを数多く手掛けており目が離せない。直近では、3月15日にベルギーのフランダース地方において系統用大型蓄電池を同国の電力系統に接続し、電力の需給調整サービスを開始したことを発表。国内では、昨年12月に静岡市のENEOS製油所跡地で、次世代型エネルギー供給拠点建設を受注したと発表している。設計、調達、建設の3つの工程を一貫して引き受けるEPC事業として、メガソーラーパネルや大型蓄電池を備えた次世代型エネルギー供給プラットフォーム関連施設の建設及びエネルギーマネジメントシステムの構築に取り組むという。
そのほかでは、4月1日出荷分から、産業用電源装置及び蓄電池の価格を値上げしたジーエス・ユアサ コーポレーション <6674> [東証P]、メガワット級の電力貯蔵システム「NAS電池」を手掛け、蓄電池分野の大御所ともいえる日本ガイシ <5333> [東証P]、再生可能エネ用鉛蓄電池を手掛ける古河電池 <6937> [東証P]などの動向にも注視が必要だ。
株探ニュース
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