―老朽化する社会資本への対策急務、インフレリスク小さい公共工事の発注増に期待―
石破総理大臣の誕生を経て、 地方創生と防災庁設置構想に市場参加者の関心が集まるようになった。地方の再生なければ日本経済の再生もなく、天災の相次ぐ日本列島で防災は外すことのできないテーマでもある。能登半島地震を見るまでもなく、地方創生と防災・減災はリンクしている。災害に強いインフラが存在していれば、被害が抑えられた可能性すらある。少数与党となった自民・公明の両党が災害復興の迅速化を掲げる野党の支持を取り付ける形で、国土強靱化に向けた国の重点的な予算配分が実現する可能性が高まっている。
●民間より公共工事関連に「伸びしろ」
インフラ整備と来れば、スーパーゼネコンと称される大手総合建設会社が頭に浮かぶ。大成建設 <1801> [東証P]や大林組 <1802> [東証P]、清水建設 <1803> [東証P]、鹿島 <1812> [東証P]、竹中工務店(大阪市中央区)の5社である。当然ながら、大型工事受注ではスーパーゼネコンが圧倒的な強みを持っており、工事発注が増加すればメリットも大きい。もっとも、建設各社は資材価格の上昇と人手不足の問題への対処に迫られており、大阪・関西万博の工事において入札不成立が相次いだことも話題となった。
ゼネコンが安値で受注した結果、資材や専門工事会社の手配がつかず、不採算工事となった例も散見される。しかしながら、元請けが下請けを搾取し、下請けが孫請けを搾取するという構図は過去の「デフレ時代」のものである。インフレ時代では、ゼネコンが業務を発注する専門工事会社側の価格交渉力が強まることとなる。
国土交通省によって今年3月から適用された「公共工事設計労務単価」は、全国全職種単純平均で前年度比5.9%引き上げられた。単価算出方法の変更が過去にあったとはいえ、実に12年連続の引き上げとなっている。10年前と比べると45%を超す上昇で、年平均上昇率は約4%。この間のインフレ率と比べても大きく伸びている。
民間工事の発注単価は施主の意向によって抑制されやすくなる半面、公共工事の単価は着実に上昇している。インフレ時に物価上昇分を工事価格に反映させるインフレ条項は、公共工事の契約ではほぼスタンダードとなっている。長期間にわたる大型工事では、工事途中での物価上昇がリスクとなるものの、公共工事は民間工事との比較でインフレリスク自体は小さなものとなっている。
国交省が発表する建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)によると、建設工事受注総額は、国内合計で1990年度の26.1兆円をピークに、2010年度の9.6兆円をボトムとし、直近23年度には17.3兆円まで回復した。公共工事についても、10年度ボトムの2.0兆円から23年度は4.3兆円と回復傾向にある。受注額が増えているのは、物価上昇の影響とともに、インフラ整備が継続しているためだ。
国交省の試算では23年3月時点で、道路橋の37%、港湾施設の27%、トンネルの25%、河川管理施設の22%が建設後50年を経過しており、今後その割合は一段と高まる見通しだ。18年時点の推計では、国交省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費は、48年度までの30年間の合計で176.5兆~194.6兆円となる見通し。1年当たりでは5.8兆~6.5兆円規模となり、公共土木工事の需要は、それなりの規模で継続的に出てくることが想定されている。
●橋梁やトンネル含めた道路工事関連をトップピック
すでに老朽化の兆候が見受けられる道路橋の更新においては、橋梁メーカーの存在が欠かせない。国内の大型鋼製橋梁でトップの横河ブリッジホールディングス <5911> [東証P]は、高架道路の実績も多く、保全やエンジニアリングも展開している。大成建の子会社でPC(プレストレスト・コンクリート)橋梁のピーエス・コンストラクション <1871> [東証P]や、伊藤忠商事 <8001> [東証P]が筆頭株主のオリエンタル白石 <1786> [東証P]も関連銘柄となる。
高度成長期に完成した黒部ダムでは、安藤・間 <1719> [東証P]発足前の間組が本体工事を担った。安藤ハザマは現在でもダムやトンネル工事を強みとし、高速道路での実績も豊富だ。トンネル工事で用いる削岩機(ロックドリル)で国内最大手の古河機械金属 <5715> [東証P]はトンネル工事の自動化・省力化に貢献するとともに、機械の修理・再生や交換などのメンテナンス・サービスにも展開している。
平坦地が少ない日本の国土では、高速道路などを直線的に通す場合、橋梁やトンネルとともに斜面を崩れにくくする法面工事が必要不可欠となる。ライト工業 <1926> [東証P]は、法面吹付工事の大手で、地盤改良・薬液注入工事のほか、耐震補強工事も展開。特殊土木大手の日特建設 <1929> [東証P]も恩恵を受ける銘柄となるだろう。
アスファルト舗装会社は、原油価格の上昇と製品価格の上昇にタイムラグがあるとされ、今後は業績の一段の好転が見込めることもポイントだ。日本道路 <1884> [東証P]は、清水建系の道路専業大手で、高速道路舗装で豊富な実績を誇る。独立系の東亜道路工業 <1882> [東証P]、東急建設 <1720> [東証P]系の世紀東急工業 <1898> [東証P]なども押さえておきたい。
●港湾、河川などの専門土木工事会社にも注目
港湾整備において海上土木(マリコン)大手3社も有望だ。五洋建設 <1893> [東証P]は、海上土木の最大手として豊富な工事実績を誇る。シンガポールや香港など海外工事も継続的に受注しており、建設情報のモデル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)も推進している。東亜建設工業 <1885> [東証P]は、京浜工業地帯の埋め立て工事が発祥の海上土木の名門。港湾、シールドトンネルなどに強みを持ち、海外ODA案件も手掛けている。阪神工業地帯の埋め立て工事からスタートしたのが東洋建設 <1890> [東証P]だ。インフロニア・ホールディングス <5076> [東証P]と任天堂 <7974> [東証P]創業家の資産運用会社が株式争奪戦を繰り広げたことは記憶に新しい。
海上土木各社は、海底ケーブル敷設、洋上風力発電所建設などのトピックからも人気化することがある。不動テトラ <1813> [東証P]は、河川も含めた陸上と海上の土木工事に加え、地盤改良事業を展開。河川や海岸の護岸・消波ブロックでも大手であり、「テトラポッド」は同社の登録商標だ。このほか、ショーボンドホールディングス <1414> [東証P]は、補修工事の専業として着実に成長を続けている。道路、橋梁などの補修では高速道路のNEXCOグループ各社向けに受注拡大を目指すほか、鉄道や港湾などコンクリート補修工事の多角化を図っている。
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