S&P500月例レポート(24年8月配信)<後編>
雇用関係
○6月のADP全米雇用統計では、民間部門雇用者数が15万人増(サービス業が13万6000人増)となり、市場予想の16万1000人増を下回りました。5月は当初発表の15万2000人増から15万7000人増に上方修正されました。賃金の中央値は、非転職者で前年同月比4.9%上昇、転職者は同7.7%上昇でした。
⇒7月のADP全米雇用統計では、民間部門雇用者数が12万2000人増(貿易、運輸、公益事業セクターのサービス業が6万1000人増)となり、市場予想の15万4000人増を下回りました。6月は当初発表の15万人増から15万5000人増に上方修正されました。賃金の中央値は、非転職者で前年同月比4.8%増、転職者は同7.2%増でした。
○6月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想の18万9000人増を上回る20万6000人増となりました。5月は当初発表の27万2000人増から21万8000人増に下方修正されました(当初の5月の市場予想は18万2000人増)。
⇒6月の失業率は予想が5月から横ばいの4.0%だったのに対し、4.1%に上昇しました(4月は3.9%、3月は3.8%、2月も3.8%、1月と2023年12月、11月は3.7%、10月は3.9%、9月は3.8%でした。2020年2月は3.5%でしたが、同年5月は13.3%となりました)。
⇒労働参加率は事前予想通り、5月の62.5%から6月は62.6%に上昇しました(4月は62.7%、3月は62.7%、2月、1月と2023年12月は62.5%、11月は62.8%、10月は62.7%、9月は62.8%)。
⇒6月の週平均労働時間は予想通り5月から変わらずの34.3時間となりました(4月は34.3時間、3月は34.4時間、2月は34.3時間、1月は34.2時間、2023年12月は34.3時間、11月は34.4時間、10月は34.3時間、9月は34.4時間)。
⇒6月の平均時給は市場予想通り、前月比0.3%増(前月の34.91ドルから35.00ドルに増加)となりました(5月は同0.4%増、4月は同0.2%増、3月は同0.3%増、2月は同0.2%増、1月は同0.5%増、2023年12月、11月は同0.4%増、10月は同0.2%増、9月は同0.3%増)。
→前年同月比では市場予想通りに3.9%増に低下し、5月の同4.1%増を下回りました(4月は同4.0%増、3月は同4.1%増、2月は同4.3%増、1月は同4.4%増、2023年12月は同4.0%増、11月は同4.0%増、10月は同4.0%増、9月は同4.2%増)。
○5月のJOLTS(求人労働異動調査)によると、求人数は814万人(市場予想は790万人)でした。4月は当初発表の805万9000人から791万9000人に下方修正されました。
⇒6月のJOLTSでは、求人数は818万4000人(市場予想は800万人)でした。5月は当初発表の814万人から823万人に上方修正されました。
○2024年第2四半期の雇用コスト指数は、前期比1.0%上昇との市場予想に対し、同0.9%上昇となりました。前年同期比では4.1%上昇でした。
○失業保険継続受給件数(季節調整済み)は、前月の183万9000件から185万1000件に増加しました。
⇒2024年7月3日発表の週間新規失業保険申請件数:23万8000件(当初の発表通り)
⇒2024年7月11日発表の週間新規失業保険申請件数:22万2000件
⇒2024年7月18日発表の週間新規失業保険申請件数:24万3000件
⇒2024年7月25日発表の週間新規失業保険申請件数:23万5000件
企業業績
○時価総額の57.6%に相当する308銘柄が2024年第2四半期の決算発表を終え、そのうちの242銘柄(78.6%)で営業利益が予想を上回り、305銘柄中187銘柄(61.3%)で売上高が予想を上回りました。
⇒2024年第2四半期の営業利益は前期比で3.2%増、前年同期比では2.8%増が見込まれています。
⇒売上高は前期比で2.4%増、前年同期比では4.6%増となる見通しです。
⇒2024年第2四半期の営業利益率は、2024年第1四半期の11.58%を上回る一方、2023年第2四半期の11.87%を下回る11.67%になると予想されます(1993年以降の平均は8.83%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。
⇒2024年第2四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は12.5%となっています。この割合は、2023年第1四半期は13.1%、2023年第2四半期は16.3%でした。
○2024年通年の利益は前年比10.8%増が見込まれており、この予想に基づく2024年の予想株価収益率(PER)は23.3倍となっています。
○2025年通年の利益は前年比17.2%増が見込まれており、予想PERは19.9倍となっています。
個別銘柄
○電気自動車EVメーカーのテスラ
○航空機メーカーのボーイング
○エネルギー企業のシェル
○アマゾン
配当金
○米国の銀行は、米連邦準備制度理事会(FRB)のストレステスト(健全性審査)での良好な結果を受けて、配当を増額し、自社株買いプログラムの期間と規模を拡大しました。
⇒主だったところでは、バンク・オブ・アメリカ
○2024年7月の配当支払額は前年同月比9.0%増となりました。6月は同15.1%増、5月は同1.5%増でした。年初来では5.3%増加しています。
⇒7月の配当支払金は前年同月の1株当たり4.29ドルから4.68ドルに増加し、支払総額も前年同月の358億1000万ドルから392億6000万ドルに増加しました。
○2024年7月は、増配が32件、配当開始が1件、減配が0件で、配当停止は0件でした。2023年7月は、増配が32件、配当開始が2件で、減配が3件、配当停止は0件でした。
⇒年初来では、増配が214件、配当開始が6件、減配が9件、配当停止が0件となっています。2023年の同期間は、増配が221件、配当開始が7件、減配が15件で、配当停止は4件でした。
⇒2023年通年では、増配が348件、配当開始が11件、減配が26件、配当停止が4件ありました。2022年は、増配が377件、配当開始が7件、減配が5件で、配当停止はありませんでした。
○7月の増配率の中央値は、6月の2.62%から5.66%に上昇しました(5月は6.12%でした)。年初来では6.67%(6月末時点は6.78%、5月末時点は6.78%)となっています。7月の平均増配率は6月の8.46%から9.24%に上昇し(5月末時点は7.05%)、年初来では8.48%(6月末時点は8.32%。いずれも2倍以上になった銘柄を除く)となりました。2023年の年間の増配率の中央値は7.01%(2022年と2021年はともに8.33%)、平均値は8.68%(同11.80%、同11.76%)でした。
○2024年の配当に関して、予想は増加となっており、年間の増配率は1936年以降の平均である5.79%を上回る見通しです。この予想では、アルファベット
⇒注目すべき点として、2024年第3四半期と2024年第4四半期の配当支払い額は、過去最高の更新が予想されます(現在の過去最高は2023年第4四半期)。
インデックス・レビュー
◇S&P 500指数
7月のS&P500指数は月初に日中と終値での史上最高値を更新し、5500と5600の大台を突破しました。しかし、経済指標から消費支出がなお好調なこととならんでインフレの鈍化が示され、9月の0.25%の利下げの予想確率が100%に近づく中でも、下落基調に転じました。市場では資金を大型株から小型株に移す動きが生じました。背景には、小型株は利下げと支出動向の継続からより大きな恩恵を受けるとの認識に加え、時価総額の大きいパフォーマンス上位銘柄のリスク/リターンのトレードオフには大きく偏りがあるとの見方がありました(こうした見方からパフォーマンス上位銘柄は下落)。その後、S&P500指数は月初からの上昇分を失い(小型株は上昇)、前月比の騰落率はマイナス圏に落ち込みましたが、最終的に、「その他493銘柄」に対する底値拾いの動きが広がり、株価は値を戻しました。S&P500指数は月の最終日に、FRB(の利下げ予想)を材料に1.58%上昇しました。結論としてS&P500指数は7月に1.13%の上昇を記録しましたが、相場の変動が大きくなり、短期トレーダー(とデイトレーダー)にとって大きな損益を生じる機会となりました。
S&P500指数は7月前半に終値での史上最高値を7回更新しました(年初来では38回、2023年はゼロ)。最高値を最後に更新したのは7月16日(5667.20。日中の史上最高値は5669.67)で、S&P500指数は同日末時点で、月初来3.79%、年初来18.90%上昇していました。しかし7月17日以降、市場の認識と経済の状況が変化し、大型株から小型株へと投資先を移す動きが、特に情報技術セクター(マグニフィセント・セブンを含む)で顕著となりました。その後、S&P500指数は4.72%下落し、月初からの騰落率はマイナス圏に落ち込見ました(1.12%下落)。しかし、再び買い戻す動きが強まり(底値買いも見られました)、市場は押し上げられました。S&P500指数は月の最終日に1.58%の力強い上昇を記録しました(市場に優しいFRBに対する期待感も一役買いました)。最終的に7月のS&P500指数は1.13%上昇(配当込みのトータルリターンはプラス1.22%)となり、2024年に入って2度目の月間騰落率がマイナスとなる事態を回避しました(4月の騰落率は4.16%の下落、配当込みのトータルリターンはマイナス4.08%)。なお、6月は3.47%上昇(同プラス3.59%)、5月は4.80%上昇(同プラス4.96%)で、過去3ヵ月間の騰落率は9.66%上昇となりました(同プラス10.05%)。
年初来では15.78%上昇となり(同プラス16.70%)、年率換算では28.26%上昇(同プラス29.99%)に相当します。また、年初来で値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差が広がり、値上がり銘柄数が363銘柄、値下がり銘柄数が137銘柄となりました(6月末時点の年初来では、値上がり銘柄数が301銘柄、値下がり銘柄数が200銘柄)。
7月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は6月の0.77%から0.95%に上昇しました。年初来では0.84%となっています。なお、2023年通年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.42%)。7月の出来高は、6月の前月比1%増加の後に、同9%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では3%減少となりました。2024年7月までの12ヵ月間では前年同期比7%減少しています。2023年通年では前年比1%減で、2022年通年では同6%増でした。
7月は1%以上変動した日数は22営業日中6日(上昇が4日、下落が2日)となりました。S&P500指数は2022年12月以来となる1日で2%以上の下落(7月24日に2.32%下落)を記録しました。6月は1%以上変動した日数は19営業日中1日(上昇が1日、下落はなし)でした。年初来では、1%以上変動した日数は27日(上昇が18日、下落が9日)で、2%以上変動した日数は2日(上昇は1日[2月22日の2.11%上昇]、下落は1日)でした。2023年通年は、1%以上変動した日数が250営業日中63日(上昇が37日、下落が26日)、2%以上変動した日数が2日(上昇が1日、下落が1日)でした。7月は22営業日中9日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上変動した日はありませんでした。対して6月は1%以上の変動が19営業日中4日で、2%以上変動した日はありませんでした。年初来では、42日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上変動した日数は2日ありました。2023年通年では1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日で、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日でした(4%以上の変動が4日、5%以上の変動が1日)。
7月は値上がり銘柄数が増加し、値下がり銘柄数を上回りました。7月の値上がり銘柄数は364銘柄(平均上昇率は8.19%)と、6月の201銘柄(同5.20%)から増加しました。7月の10%以上上昇した銘柄数は116銘柄(同14.89%)と、6月の29銘柄(同15.67%)から増加し、6銘柄(6月はゼロ)が25%以上上昇しました。一方、7月の値下がり銘柄数は139銘柄(平均下落率は5.63%)と、6月の301銘柄(同4.28%)から減少しました。7月の10%以上下落した銘柄数は22名柄(同16.58%)と6月の21銘柄(同15.76%)から増加し、4銘柄が25%以上下落しました(6月は1銘柄)。
年初来では、値上がり銘柄数は363銘柄(平均上昇率は17.32%)で、238銘柄(同23.75%)が10%以上上昇し、79銘柄が25%以上上昇しました。一方、値下がり銘柄数は137銘柄(平均下落率は11.69%)で、64銘柄(同19.54%)が10%以上下落し、12銘柄が25%以上下落しました。2023年通年では、値上がり銘柄数は322銘柄で、値下がり銘柄数は179銘柄でした。10%以上上昇した銘柄数は248銘柄、10%以上下落した銘柄数は85銘柄でした。143銘柄が25%以上上昇し、20銘柄が25%以上下落しました。
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
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