*10:29JST 中国共産党中央委員会第3回全体会議の見通し(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
3中全会の具体的な概要
5月23日に山東省で開かれた座談会において習近平氏が行った演説は、第20期3中全会の基調を打ち出すものだと広く受け止められている。中国共産党の機関紙である人民日報は5月26日から29日にかけて、習近平氏の演説を詳しく読み解き、3中全会の輪郭を明らかにする一連の記事を掲載した。
習近平氏が演説のなかで強調したのは、党務と国政の動向全体の戦略的現状から出発し、党と国民全体の中心的任務に力を注ぐ必要性である。習氏は、さらなる改革の全面的深化を図り、中国式現代化というテーマを中心に据え、改革の重点を明確化し、価値志向を堅持し、方式と方法を重んじ、中心的任務の遂行と戦略的目標の達成に向けて原動力を強化するうえでの重要な理論・実践的問題について詳しく述べた。
経済制度改革は中国にとって最優先課題となった。世界の経済環境が変化する今、中国国内経済の構造的問題はますます顕著化している。消費不振や不動産市場の低迷、投資の減速などの問題は、さらなる経済発展を妨げるだけでなく、中国社会の安定に脅威をもたらしかねない。
習近平氏の演説は、全面的な経済改革によりこうした課題に対処することが急務であることを浮き彫りにした。彼が強調したのは、財政、課税、土地、労働、社会安全保障を含めた経済のさまざまなセクターにわたり改革を深化させる必要性である。また、資源配分で市場メカニズムが果たす役割の強化、イノベーションと起業家精神の浸透促進、規制当局の監視強化による金融リスクの予防などの具体的対策も示した。
国有企業(SOE)改革は、3中全会の主な焦点の1つとなる。長年にわたり国有企業は中国経済で中心的役割を担ってきたが、その非効率性と非合理的な資源配分といった問題をなかなか解決できずにいる。そのため、国有企業改革を進め、効率化を図ることは、中国の経済改革アジェンダの極めて重要なポイントの1つである。
演説のなかで、習近平氏は国有企業を再編・再生し、その競争力と効率性を高めることを重視するとともに、エネルギーや電気通信、輸送など主要セクターでの改革を深化させる必要性と、国有企業の混合所有制や市場志向型経営を奨励する必要性を強調した。ほかに習氏が力説したのは、コーポレートガバナンスと説明責任のメカニズムを強化し、国有企業の透明かつ効率的な事業運営を確保することである。
中国経済における民営企業の重要性を軽視することはできない。民営企業はここ数年、政策の不確実性や資金調達難など、さまざまな課題に直面してきた。民営企業のためにより公平で透明なビジネス環境を構築し、イノベーションの活力を喚起することは、中国の経済改革の重要な一助となる。
習近平氏は演説のなかで、民営企業の発展を支え、あらゆる所有形態の企業が公平に競争できる環境の醸成の重要性を認めた。彼は、不当競争や恣意的な行政介入、財産権の不十分な保護など、民営企業の成長を阻む制度的障壁や差別的慣習を撤廃する必要性を強調するとともに、中小企業の資金調達の改善と、技術イノベーションの推進、知的財産権の保護の強化を図る施策を呼びかけた。
今後の展望
中国共産党は伝統的に、大規模な会議を開催することにより重要な問題に対処し解決してきた。何カ月も日程が公表されなかった3中全会の開催予定日である7月中旬から下旬がようやく近づいてきた。一方、今回の遅れは、その背後にある理由と、全体会議で下される決定についての憶測を呼んだ。
4月30日の中央政治局会議で3中全会を7月に開くことを決めたとの発表を受けて、議論されていた主要問題がすでに解決し、全体会議で正式な審議と決議を待つだけなのかとの疑問の声が上がった。一部アナリストは、開催の遅れについて、中国が直面する経済・政治面の課題が複雑であり、相互に関連していることなどから、中国共産党幹部の間で検討と調整を重ねる必要に迫られたことが原因かもしれないとの見方を示している。
また、3中全会の7月下旬という開催時期は、その議事進行と成果に影響を及ぼす可能性のある、いくつかの重要なイベントや事象の時期と重なる。7月下旬は中国北部で雨季がピークとなり、この地域の洪水対策に極めて重要な「七降八升」の時期である。環境上の懸念に対処し、住民の安全と健やかな暮らしを確保する必要性が、3中全会の議題と優先事項に影響を及ぼすかもしれない。
さらに、7月26日のパリオリンピック開幕は世界の注目を集め、3中全会の議事進行にあまり関心が向かなくなるかもしれない。世界各国・地域のリーダーがパリに集まり、国際協力の精神とスポーツマン精神を称えるなか、中国とその指導部が経済改革と経済発展の複雑な課題にうまく対応できるのか、世界が伺うことになる。
3中全会で下される決定は、中国のガバナンスと政治的安定に大規模な影響を及ぼすことが予想される。習近平氏の権力基盤の強化と意思決定の一元化は、彼のリーダーシップの主な特徴であり、今度の全体会議ではこの傾向が強まることが予想される。ガバナンスの効率性を高め、政策実施を強化するための政治・行政体制の調整が発表され、中国の最高指導者としての習氏の立場をさらに固めることになるかもしれない。
また、国際社会も3中全会の成果を注視する。中国の政策の方向性と改革はグローバルな貿易や投資、地政学的ダイナミクスに大きな影響を与え、経済改革や技術開発、環境政策に関する全体会議での決定は、中国と他国との交流や、グローバル経済で中国が果たす役割に影響を及ぼす。
差し迫った課題に対処するだけでなく、3中全会では中国の長期的ビジョンと戦略的目標の概要が明らかにされる可能性が高い。これには、習近平氏が重視するスローガン「共同富裕」の追求が含まれる可能性がある。共同富裕とは、より公平な社会を実現し、経済的恩恵を共有することを目的とすることだ。全体会議では、累進課税や社会福祉プログラム、地域格差是正策など、このビジョンを後押しする政策が打ち出される可能性もある。
イデオロギーと党の統制は、今後も中国の政策の方向付けで極めて重要な役割を果たすことになるであろう。習近平氏のマルクス・レーニン主義と社会主義的価値観、ガバナンスのあらゆる面で中国共産党を重視する姿勢が強まることになる。習氏の権限基盤と中国の今後のビジョンをさらに強化するため、党の規律を引き締め、忠誠心を高めることを目的とした、イデオロギー教育の新たなキャンペーンとイニシアチブが発表されるかもしれない。
写真: 中国共産党第19期中央委員会第3回全体会議(3中全会)
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
3中全会の具体的な概要
5月23日に山東省で開かれた座談会において習近平氏が行った演説は、第20期3中全会の基調を打ち出すものだと広く受け止められている。中国共産党の機関紙である人民日報は5月26日から29日にかけて、習近平氏の演説を詳しく読み解き、3中全会の輪郭を明らかにする一連の記事を掲載した。
習近平氏が演説のなかで強調したのは、党務と国政の動向全体の戦略的現状から出発し、党と国民全体の中心的任務に力を注ぐ必要性である。習氏は、さらなる改革の全面的深化を図り、中国式現代化というテーマを中心に据え、改革の重点を明確化し、価値志向を堅持し、方式と方法を重んじ、中心的任務の遂行と戦略的目標の達成に向けて原動力を強化するうえでの重要な理論・実践的問題について詳しく述べた。
経済制度改革は中国にとって最優先課題となった。世界の経済環境が変化する今、中国国内経済の構造的問題はますます顕著化している。消費不振や不動産市場の低迷、投資の減速などの問題は、さらなる経済発展を妨げるだけでなく、中国社会の安定に脅威をもたらしかねない。
習近平氏の演説は、全面的な経済改革によりこうした課題に対処することが急務であることを浮き彫りにした。彼が強調したのは、財政、課税、土地、労働、社会安全保障を含めた経済のさまざまなセクターにわたり改革を深化させる必要性である。また、資源配分で市場メカニズムが果たす役割の強化、イノベーションと起業家精神の浸透促進、規制当局の監視強化による金融リスクの予防などの具体的対策も示した。
国有企業(SOE)改革は、3中全会の主な焦点の1つとなる。長年にわたり国有企業は中国経済で中心的役割を担ってきたが、その非効率性と非合理的な資源配分といった問題をなかなか解決できずにいる。そのため、国有企業改革を進め、効率化を図ることは、中国の経済改革アジェンダの極めて重要なポイントの1つである。
演説のなかで、習近平氏は国有企業を再編・再生し、その競争力と効率性を高めることを重視するとともに、エネルギーや電気通信、輸送など主要セクターでの改革を深化させる必要性と、国有企業の混合所有制や市場志向型経営を奨励する必要性を強調した。ほかに習氏が力説したのは、コーポレートガバナンスと説明責任のメカニズムを強化し、国有企業の透明かつ効率的な事業運営を確保することである。
中国経済における民営企業の重要性を軽視することはできない。民営企業はここ数年、政策の不確実性や資金調達難など、さまざまな課題に直面してきた。民営企業のためにより公平で透明なビジネス環境を構築し、イノベーションの活力を喚起することは、中国の経済改革の重要な一助となる。
習近平氏は演説のなかで、民営企業の発展を支え、あらゆる所有形態の企業が公平に競争できる環境の醸成の重要性を認めた。彼は、不当競争や恣意的な行政介入、財産権の不十分な保護など、民営企業の成長を阻む制度的障壁や差別的慣習を撤廃する必要性を強調するとともに、中小企業の資金調達の改善と、技術イノベーションの推進、知的財産権の保護の強化を図る施策を呼びかけた。
今後の展望
中国共産党は伝統的に、大規模な会議を開催することにより重要な問題に対処し解決してきた。何カ月も日程が公表されなかった3中全会の開催予定日である7月中旬から下旬がようやく近づいてきた。一方、今回の遅れは、その背後にある理由と、全体会議で下される決定についての憶測を呼んだ。
4月30日の中央政治局会議で3中全会を7月に開くことを決めたとの発表を受けて、議論されていた主要問題がすでに解決し、全体会議で正式な審議と決議を待つだけなのかとの疑問の声が上がった。一部アナリストは、開催の遅れについて、中国が直面する経済・政治面の課題が複雑であり、相互に関連していることなどから、中国共産党幹部の間で検討と調整を重ねる必要に迫られたことが原因かもしれないとの見方を示している。
また、3中全会の7月下旬という開催時期は、その議事進行と成果に影響を及ぼす可能性のある、いくつかの重要なイベントや事象の時期と重なる。7月下旬は中国北部で雨季がピークとなり、この地域の洪水対策に極めて重要な「七降八升」の時期である。環境上の懸念に対処し、住民の安全と健やかな暮らしを確保する必要性が、3中全会の議題と優先事項に影響を及ぼすかもしれない。
さらに、7月26日のパリオリンピック開幕は世界の注目を集め、3中全会の議事進行にあまり関心が向かなくなるかもしれない。世界各国・地域のリーダーがパリに集まり、国際協力の精神とスポーツマン精神を称えるなか、中国とその指導部が経済改革と経済発展の複雑な課題にうまく対応できるのか、世界が伺うことになる。
3中全会で下される決定は、中国のガバナンスと政治的安定に大規模な影響を及ぼすことが予想される。習近平氏の権力基盤の強化と意思決定の一元化は、彼のリーダーシップの主な特徴であり、今度の全体会議ではこの傾向が強まることが予想される。ガバナンスの効率性を高め、政策実施を強化するための政治・行政体制の調整が発表され、中国の最高指導者としての習氏の立場をさらに固めることになるかもしれない。
また、国際社会も3中全会の成果を注視する。中国の政策の方向性と改革はグローバルな貿易や投資、地政学的ダイナミクスに大きな影響を与え、経済改革や技術開発、環境政策に関する全体会議での決定は、中国と他国との交流や、グローバル経済で中国が果たす役割に影響を及ぼす。
差し迫った課題に対処するだけでなく、3中全会では中国の長期的ビジョンと戦略的目標の概要が明らかにされる可能性が高い。これには、習近平氏が重視するスローガン「共同富裕」の追求が含まれる可能性がある。共同富裕とは、より公平な社会を実現し、経済的恩恵を共有することを目的とすることだ。全体会議では、累進課税や社会福祉プログラム、地域格差是正策など、このビジョンを後押しする政策が打ち出される可能性もある。
イデオロギーと党の統制は、今後も中国の政策の方向付けで極めて重要な役割を果たすことになるであろう。習近平氏のマルクス・レーニン主義と社会主義的価値観、ガバナンスのあらゆる面で中国共産党を重視する姿勢が強まることになる。習氏の権限基盤と中国の今後のビジョンをさらに強化するため、党の規律を引き締め、忠誠心を高めることを目的とした、イデオロギー教育の新たなキャンペーンとイニシアチブが発表されるかもしれない。
写真: 中国共産党第19期中央委員会第3回全体会議(3中全会)
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