豪ドル
RBA(豪中銀)は前回3月の政策会合まで3回連続で政策金利を4.35%に据え置きました。3月の会合時の声明では、先行きの金融政策について「何も決定しておらず、何も排除していない」としました。
4月24日に発表された豪州の1-3月期のCPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比3.5%、トリム平均値が同4.0%と、いずれも市場予想(3.5%と3.8%)を上回りました。それらの結果を受けて市場ではRBAの利下げ観測が後退しただけでなく、“利上げ”さえ織り込み始めました。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、4月29日時点で市場では24年末までに“利上げ”が行われる確率が40%程度織り込まれています。
市場の利上げ観測は行き過ぎのように感じられます。1-3月期のCPIは市場予想を上回ったものの、上昇率は総合とトリム平均値のいずれも、24年10-12月期(4.1%と4.2%)から鈍化したからです。
RBAは5月6-7日に政策会合を開きます(会合の結果は7日に発表)。RBAの声明やブロックRBA総裁の会見が市場の利上げ観測を後退させる内容になれば、豪ドル安材料になるかもしれません。
ただ、RBAの利上げ観測が後退したとしても利下げは他の中銀よりも遅れると市場がみなせば、豪ドルの下落は一時的に終わる可能性があります。
豪ドル/円については、日銀の金融政策も重要です。RBAと日銀の政策金利の差に大きな変化がなければ、豪ドル/円は堅調に推移すると考えられます。仮に本邦当局による為替介入(米ドル売り・円買い介入)が行われれば、米ドル/円が下落して、豪ドル/円もそれに引きずられそうです。ただ、足もとの「円安」の主因となっている“日銀と他の主要中銀との政策金利の差”に大きな変化がなければ、為替介入による「円高」はそれほど長続きしないと考えられます。
豪ドルは投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴もあります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオン(リスク選好)の動きが強まる場合、豪ドル/米ドルや豪ドル/円の支援材料になりそうです。
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【豪ドル/NZドル】
豪ドル/NZドルは3月20日以降のおよそ1カ月間にわたり、おおむね1.08NZドル~1.09NZドル台半ばで推移していました。4月24日の豪州の1-3月期CPIの強い結果を受けてレンジを上抜け、4月29日には一時1.10068NZドルへと上昇し、10カ月半ぶりの高値をつけました。
市場ではRBAの利上げ観測が浮上する一方で、RBNZ(NZ中銀)の次の一手は利下げになるとの見方が有力です。市場の金融政策見通しからみれば、豪ドル/NZドルは目先上値を試す展開になるかもしれません。
ただ、上述のようにRBAの利上げ観測は行き過ぎのように感じられます。今後、RBAの利上げ観測が修正されるとともに、豪ドル/NZドルは下落傾向に転じる可能性があります。
<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の次の一手はどうなるか。
・米FRBと日銀の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。リスクオンは豪ドルの上昇要因。
・資源(主に鉄鉱石)価格の動向(資源価格の下落は豪ドルの下落要因)。
・中国経済の動向。中国経済の減速は豪ドルにとってマイナス材料。
NZドル
RBNZ(NZ中銀)は前回4月10日の会合まで6回連続で政策金利を5.50%に据え置きました。4月の会合時の声明や議事録では「(景気)抑制的な金融政策が引き続き必要だ」との認識を示し、政策金利を当面据え置く姿勢を改めて示しました。
4月17日に発表されたNZの1-3月期のCPI(消費者物価指数)は前年比4.0%。上昇率は23年10-12月期の4.7%から鈍化したものの、RBNZのインフレ目標(1~3%。2%が中間値)を引き続き上回りました。また、国内要因のインフレ圧力を反映する非貿易財のCPIは前年比5.8%と、上昇率は23年10-12月期の5.9%から若干鈍化しましたが、依然として高水準です。CPIの結果をみると、RBNZは政策金利の据え置きを続けると考えられます。
RBNZの次の一手は利下げになると市場は予想しており、利下げが行われるタイミングは10月か11月との観測があります。利下げ観測は、NZドルにとってはマイナスです。
NZドル/円については、日銀の金融政策も重要です。日銀よりもRBNZの政策金利が高い状況に大きな変化がなければ、仮に日銀が追加利上げを行ったとしても、NZドル/円はそれほど下落しない可能性があります。本邦当局が為替介入(米ドル売り・円買い介入)を実施した場合、豪ドル/円などと同様にNZドル/円は下落すると考えられますが、介入によるNZドル/円の下落は長続きしないと考えられます。
NZドル/米ドルについては、FRBの金融政策が重要なカギを握りそうです。FRBの利下げが後ズレするとの観測が一段と強まる場合、米ドルが全般的に堅調に推移して、NZドル/米ドルには下押し圧力が加わる可能性があります。
豪ドルと同様にNZドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオンが強まることはNZドルにとってプラスです。
<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)の利下げのタイミング。
・米FRBと日銀の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。リスクオンはNZドルの上昇要因。
・中国経済の動向。中国経済の減速はNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品(NZ最大の輸出品)価格の動向(乳製品価格の上昇はNZドルの上昇要因)。
カナダドル
BOC(カナダ中銀)は前回4月10日の政策会合まで6回連続で政策金利を5.00%に据え置きました。4月の会合時の声明では、「(カナダの)インフレ率は依然として高過ぎ、リスクは残っている」としつつも、「(総合の)CPI上昇率とコアインフレ率はここ数カ月間でさらに鈍化している」と指摘しました。マックレムBOC総裁は会合後の会見で「1月以降の経済指標に理事会は勇気づけられているが、物価安定に向けた進展が持続すると確信するためには、さらに時間が必要だ」と述べました。6月の会合で利下げする可能性について質問されると、マックレム総裁は「可能性はある」と答えました。
マックレム総裁が次回6月5日の会合で利下げする可能性を示す一方、パウエルFRB議長らFOMC(米連邦公開市場委員会)参加者は早期の利下げに慎重な姿勢を示しています。FRBとBOCの金融政策スタンスからみれば、米ドル/カナダドルには上昇圧力(米ドル買い・カナダドル売り圧力)が加わりやすいと考えられます。
日銀は“緩和的な金融環境を当面維持する”との姿勢を示しています。仮にBOCが利下げを行ったとしても、日銀との政策金利の差は依然として大きいと考えられます。カナダドル/円については、底堅く推移しそうです。
原油価格(米WTI原油先物が代表的な指標)が大きく変動する場合、原油価格の動向も材料になるかもしれません。カナダは原油を主力輸出品とすることもあり、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラスです。
<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の利下げのタイミングとペース。
・米FRBと日銀の金融政策。
・資源(特に原油)価格の動向(資源価格の上昇はカナダドル高要因)。
トルコリラ
TCMB(トルコ中銀)は3月21日の政策会合で、5.00%の利上げを実施し、政策金利を45.00%から50.00%へと引き上げることを決定しました。3月31日の地方選前にTCMBが利上げを行うのは困難との見方が市場にはあったため、利上げはサプライズでした。
トルコの3月CPI(消費者物価指数)は前年比68.50%と、上昇率は2月の67.07%から加速し、22年11月以来の高い伸びでした。インフレ圧力が強まるなか、TCMBは4月25日の会合で政策金利を50.00%に据え置きました。TCMBは声明で「利上げの効果が出るまでタイムラグがあることを考慮した」と政策金利を据え置く理由を説明しました。
声明はまた、「月次のインフレ率の基調が大幅かつ持続的に鈍化し、インフレ期待が予測範囲に収束するまで、金融引き締めスタンスを維持する」と表明。「インフレ率の大幅かつ持続的な悪化が予想される場合、(さらに)政策を引き締める」との姿勢を示しました。声明は一方で、「3月の利上げによって金融環境は大幅に引き締められた」と指摘。内需の抑制やインフレ期待の改善などによって「24年後半にはディスインフレが確立される」との見方を示し、TCMBの利上げサイクルは終了する可能性が示されました。
トルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)は大幅なマイナスとなっており、そのことがトルコリラへの下押し圧力の一因になっています。実質金利は4月29日時点でマイナス18.50%です。実質金利がプラスに転じなければ(少なくともマイナス幅が縮小しなければ)、トルコリラが下押し圧力を受けやすい地合いに変化はなさそうです。
TCMBの金融政策に関するエルドアン・トルコ大統領の言動には気を付ける必要がありそうです。エルドアン大統領はかつて、「金利が下がれば、インフレ率(CPI上昇率)は下がる」と主張し、TCMBに利下げ圧力を加えて、自らの意向に従わない総裁を3人解任したこともありました。23年6月に経済チームを刷新して以降、エルドアン大統領が金融政策について発言することはほとんどなくなりましたが、再び金融政策に干渉し始めるようなら、トルコリラにはさらなる下押し圧力が加わりそうです。
<注目点・イベントなど>
・トルコの実質金利のマイナス幅は縮小していくか。
・エルドアン大統領は金融政策に干渉しないか。
南アフリカランド
SARB(南アフリカ中銀)は3月の政策会合まで5回連続で政策金利を8.25%に据え置きました。
SARBは“インフレ率が目標(3~6%)の中間値である4.5%に向けて持続的に鈍化すれば、利下げを検討する”との姿勢を示しています。南アフリカの3月CPI(消費者物価指数)は前年比5.3%と、上昇率は2月の5.6%から鈍化しました。上昇率が前月から鈍化したのは3カ月ぶりであり、SARBのインフレ目標中間値の4.5%を引き続き大きく上回りました。SARBは政策金利を当面据え置くと考えられます。その場合、SARBと日銀の政策金利の差に大きな変化はないことから、南アフリカランド/円は堅調に推移しそうです。
南アフリカでは発電設備の老朽化などによって計画停電が頻発しています。停電は経済活動を阻害するため、計画停電が長引く場合には同国景気をめぐる懸念が市場で強まるとともに、南アフリカランド/円の上値を抑える要因になるかもしれません。
5月29日に南アフリカの総選挙が実施されます。選挙では与党のANC(アフリカ民族会議)が過半数を維持できるかどうかが焦点になりそう。ANCが過半数を割り込むなどして南アフリカ政治の先行き不透明感が強まる場合、南アフリカランド安材料になる可能性があります。
<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の利下げのタイミング。
・南アフリカでは5月29日に総選挙。ANCが過半数を維持するか。
・計画停電が続く場合、南アフリカランド/円の下押し要因になる可能性あり。
メキシコペソ
BOM(メキシコ中銀)は3月21日の政策会合で、0.25%の利下げを行うことを決定。政策金利を11.25%から11.00%へと引き下げました。BOMは3月会合時の声明で、「慎重な金融政策運営を必要とする」と表明。ヒース副総裁は4月19日、「3月の利下げは必ずしも利下げサイクルの始まりを意味しない」との認識を示しました。
メキシコの3月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比4.42%、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は同4.55%でした。総合とコアのいずれも、BOMのインフレ目標である3%(2~4%が許容レンジ)を引き続き大きく上回りました。利下げが行われるとしても、ペースは緩やかになると考えられます。
利下げのペースが緩やかならば、BOMの政策金利の水準が主要中銀(特に日銀)と比べてかなり高い状況に大きな変化はありません。金融政策面からみれば、メキシコペソ/円は堅調に推移しそうです。
原油価格(米WTI原油先物)が大きく変動すれば、原油価格の動向も材料になる可能性があります。原油価格の上昇は、メキシコペソにとってプラスです。
リスクオフ(リスク回避)の動きや本邦当局による為替介入(米ドル売り・円買い介入)には注意が必要かもしれません。リスクオフはメキシコペソなどの新興国通貨に対して下押し圧力となる一方で、円の上昇要因になると考えられます。為替介入によって米ドル/円が下落する場合、メキシコペソ/円もそれに引きずられると考えられます。
メキシコの大統領選が6月2日に行われます。世論調査によると、与党の国家再生運動のシェインバウム氏が野党統一候補のガルベス氏を支持率でリードしており、優勢のようです。シェインバウム氏が大統領に当選すれば、政策が大きく変わる可能性は低いと考えられるため、大統領選の結果は材料にならないかもしれません。
<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)の利下げペース。
・主要国と比べて高いメキシコ中銀の政策金利。
・資源(特に原油)価格の動向(資源価格の上昇はメキシコペソ高要因)。
・6月2日のメキシコ大統領選。
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