*13:06JST アンジェス Research Memo(6):新型コロナ感染症及びARDS治療薬は2024年内にライセンスアウトを目指す
■主要開発パイプラインの動向
4. 新型コロナウイルス感染症・ARDS治療薬及び予防ワクチン
(1) 新型コロナウイルス感染症及びARDS治療薬「AV-001」の開発状況
カナダのVasomuneとの共同開発品である「AV-001」(Tie2受容体アゴニスト化合物)※は、2018年より全世界を対象に急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とした治療薬として共同開発を進めてきたものだが、中等度から重度の新型コロナウイルス感染症肺炎患者向けの治療薬としても効果があると判断し、2022年1月より米国で前期第2相臨床試験を実施している。ただ、新型コロナウイルス感染症の変異株に関しては重篤な肺炎を発症する感染者が急減したことから、現在は対象疾患をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含むARDSに拡大し(FDA承認済み)臨床試験を継続している。目標症例数も当初予定の約120例から約60例に縮小した。現状の被験者登録数は20例程度と当初想定より進捗が遅れていることもあって、治験対象地域を南米に拡大したほか米国での治験施設数も増やしており、2024年中には臨床試験を完了させる考えだ。良好な試験結果が得られれば、ライセンスアウトする意向である。なお、「AV-001」の開発にあたっては米国及びカナダの政府関係機関からVasomuneが助成金を獲得しており、開発費負担分に応じてアンジェス<4563>もVasomuneから補助金の一部を受領している。
※同社は2018年7月にVasomuneと、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とした「AV-001」の全世界を対象とした共同開発契約を締結した。開発費用と将来の収益を折半し、また、同社がVasomuneに対して契約一時金及び開発の進捗に応じたマイルストーンを支払う契約となっている。ARDSの患者数は米国だけで26万人いる。
(2) 新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチン
同社は2022年9月に新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発中止と合わせて、変異株(オミクロンBA.5等)に対する改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤について、米スタンフォード大学と共同研究契約を締結したことを発表した。これまでの研究開発の知見を生かして、プラスミド※の発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、将来発生する可能性のある新たな変異株への対応も視野に入れ、安全でより効果の高い改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤の研究開発を進める方針だ。
※プラスミド(plasmid)とは、大腸菌などの細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称。一般的に環状の2本鎖構造を取り、染色体のDNAからは独立して複製を行う。その独立した遺伝子複製機構から、遺伝子組み換え操作のベクターとして創薬などで利用されている。このプラスミドを大腸菌に導入し、大腸菌の大量培養により目的のDNAを増幅する。プラスミド製法では、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン(R)」が上市済みであり、製法そのものについての安全性は確認されている。
スタンフォード大学が開発した「Gold-Nanostar Octopod」技術を用いて作製した経鼻投与ワクチン(武漢型の遺伝子配列を持つプラスミドDNA)でマウス実験を実施したところ、ワクチン投与後に血清中の抗体(IgG、IgA、IgM)上昇が確認されたほか、変異株に対しても中和活性を示し組織学的な検討によりリンパ節・脾臓においてスパイクタンパク質に対する細胞性免疫反応、液性免疫反応が確認された。また、経鼻投与によって感染経路となる鼻や喉などの気道部分に免疫を作ることで感染防止効果も高まることから、同技術を用いて研究開発を行う価値があると判断した。共同研究の期間としてはおおむね3年程度、研究費は約3百万米ドルを見込んでいる。コロナワクチンの主流となっているmRNAワクチンは保存温度の条件がマイナス70℃以下だが、DNAワクチンはマイナス20℃以下でよく、また凍結乾燥剤にすれば室温での保存も可能となる。このため、冷蔵設備や低温物流等のインフラが整備されていない発展途上国で需要があると同社では見ており、順調に開発が進めばライセンス契約も視野に入れ海外で臨床試験を行うことを想定している。
一方、2022年まで国内で実施してきた新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けワクチンの開発は中止したが、それまでに掛かった研究開発費用のうち約58億円については国の補助金等でまかなわれた。会計処理の方法としては、当初は全額研究開発費用として計上し、その後開発プロジェクトに掛かった費用などを報告書にまとめて関係当局に提出、監査が完了した部分について補助金収入として営業外に計上することとしており、2023年12月期にすべての補助金の計上が完了し、補助金等の前受金の残額はなくなった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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4. 新型コロナウイルス感染症・ARDS治療薬及び予防ワクチン
(1) 新型コロナウイルス感染症及びARDS治療薬「AV-001」の開発状況
カナダのVasomuneとの共同開発品である「AV-001」(Tie2受容体アゴニスト化合物)※は、2018年より全世界を対象に急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とした治療薬として共同開発を進めてきたものだが、中等度から重度の新型コロナウイルス感染症肺炎患者向けの治療薬としても効果があると判断し、2022年1月より米国で前期第2相臨床試験を実施している。ただ、新型コロナウイルス感染症の変異株に関しては重篤な肺炎を発症する感染者が急減したことから、現在は対象疾患をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含むARDSに拡大し(FDA承認済み)臨床試験を継続している。目標症例数も当初予定の約120例から約60例に縮小した。現状の被験者登録数は20例程度と当初想定より進捗が遅れていることもあって、治験対象地域を南米に拡大したほか米国での治験施設数も増やしており、2024年中には臨床試験を完了させる考えだ。良好な試験結果が得られれば、ライセンスアウトする意向である。なお、「AV-001」の開発にあたっては米国及びカナダの政府関係機関からVasomuneが助成金を獲得しており、開発費負担分に応じてアンジェス<4563>もVasomuneから補助金の一部を受領している。
※同社は2018年7月にVasomuneと、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とした「AV-001」の全世界を対象とした共同開発契約を締結した。開発費用と将来の収益を折半し、また、同社がVasomuneに対して契約一時金及び開発の進捗に応じたマイルストーンを支払う契約となっている。ARDSの患者数は米国だけで26万人いる。
(2) 新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチン
同社は2022年9月に新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発中止と合わせて、変異株(オミクロンBA.5等)に対する改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤について、米スタンフォード大学と共同研究契約を締結したことを発表した。これまでの研究開発の知見を生かして、プラスミド※の発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、将来発生する可能性のある新たな変異株への対応も視野に入れ、安全でより効果の高い改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤の研究開発を進める方針だ。
※プラスミド(plasmid)とは、大腸菌などの細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称。一般的に環状の2本鎖構造を取り、染色体のDNAからは独立して複製を行う。その独立した遺伝子複製機構から、遺伝子組み換え操作のベクターとして創薬などで利用されている。このプラスミドを大腸菌に導入し、大腸菌の大量培養により目的のDNAを増幅する。プラスミド製法では、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン(R)」が上市済みであり、製法そのものについての安全性は確認されている。
スタンフォード大学が開発した「Gold-Nanostar Octopod」技術を用いて作製した経鼻投与ワクチン(武漢型の遺伝子配列を持つプラスミドDNA)でマウス実験を実施したところ、ワクチン投与後に血清中の抗体(IgG、IgA、IgM)上昇が確認されたほか、変異株に対しても中和活性を示し組織学的な検討によりリンパ節・脾臓においてスパイクタンパク質に対する細胞性免疫反応、液性免疫反応が確認された。また、経鼻投与によって感染経路となる鼻や喉などの気道部分に免疫を作ることで感染防止効果も高まることから、同技術を用いて研究開発を行う価値があると判断した。共同研究の期間としてはおおむね3年程度、研究費は約3百万米ドルを見込んでいる。コロナワクチンの主流となっているmRNAワクチンは保存温度の条件がマイナス70℃以下だが、DNAワクチンはマイナス20℃以下でよく、また凍結乾燥剤にすれば室温での保存も可能となる。このため、冷蔵設備や低温物流等のインフラが整備されていない発展途上国で需要があると同社では見ており、順調に開発が進めばライセンス契約も視野に入れ海外で臨床試験を行うことを想定している。
一方、2022年まで国内で実施してきた新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けワクチンの開発は中止したが、それまでに掛かった研究開発費用のうち約58億円については国の補助金等でまかなわれた。会計処理の方法としては、当初は全額研究開発費用として計上し、その後開発プロジェクトに掛かった費用などを報告書にまとめて関係当局に提出、監査が完了した部分について補助金収入として営業外に計上することとしており、2023年12月期にすべての補助金の計上が完了し、補助金等の前受金の残額はなくなった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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