*14:36JST 平和RE Research Memo(6):「着実な成長」と「持続可能な利益」により、投資口の流動性向上を推進(2)
■平和不動産リート投資法人<8966>の中長期の成長戦略
4. 財務戦略
金利等費用としては、金利上昇による金利費用の増加を織り込み-26円/口を見込んでいる。財務戦略では、「財務基盤の強化」「LTVのコントロール」「資金調達手段の多様化」「金融コストの低減」を運用方針としている。「財務基盤の強化」としては、有利子負債の長期化、固定化及び満期の分散化を進めることで市場金利変動の影響を受けにくい財務基盤を構築することに加え、AA格の高い信用力を活用した調達コストの引き下げと長期安定投資家の拡大を目指す。なお、格上げに伴い日本銀行、地域金融機関など幅広い投資家層への訴求力の向上、投資口の流動性改善、投資口価格への好影響が期待される。「LTVコントロール」としては、金融環境に左右されない安定した物件取得、ポートフォリオと収益の持続的な拡大を図る。「資金調達手段の多様化」を図り、公募増資によるエクイティ調達、幅広い業態からなるレンダーフォーメーション、投資法人債等、様々な性格の資金へのアクセスを構築する。また、現在の低金利環境が将来にわたって寄与するよう、「金融コストの低減」を図る。
同REITでは健全な財務体質を維持するため、安定した償還構造と十分な手元流動性を推進している。2022年11月期以降は金利の高い借入金の満期が到来し、リファイナンス及び新規借り入れによって借入金利の減少を見込んでいる。また、安定した借入金の償還スケジュール(平均69.3億円/期)を構築しており、十分なコミットメントラインと手元現金(合計137億円)で不測の事態に備えている。さらに、借入余力を図る基準としている鑑定LTVは、38.37%の低水準を維持している。鑑定LTVを45%までとした場合、借入余力は312億円となり、同REITの資金調達力は安定していると判断できる。
また、2022年11月期末時点の有利子負債残高は99,557百万円であるが、金利の高い借入金の満期借り換えに伴い平均調達金利は0.724%と過去最低金利を更新しており、平均調達年数は7.18年に長期化している。加えて、不測の事態に備えて、2020年11月期より大手銀行からの融資枠のコミットメントラインを、従来の60億円から70億円に拡大している。2022年11月期はレンダー数が18社(前期比1社増)に増加したほか、資金調達手段の拡充のため、投資法人債を発行した。レンダーはAA格への引き上げを高く評価しているようだ。2022年12月には、同REIT初のグリーンボンド(調達資金を環境改善効果のある事業にのみ使うことを目的とする投資法人債)を20億円発行するなど、調達手段の拡充が進展した。将来の金利上昇リスクに対しては、長期借入金比率は99.8%と高く、固定化比率は74.7%に達している。このように健全な財務体質を維持することで、同REITの成長を下支えすることが期待される。
5. サステナビリティ
サステナビリティについては、従来よりESGウェブサイトの拡充やESGレポートの作成などに取り組んでいる。2022年実施のGRESB評価では、6年連続で「Green Star」を取得し、リアルエステイト評価において同REITとして初の3スターを取得した。また、ESG情報開示の充実度を測るGRESB開示評価においても、最高位となる「A」を取得した。海外投資家は3スター以上を投資対象にする場合が多いことから、重要なステップと言えよう。
Environment(環境)への取り組みとしては、再生可能エネルギー電力の導入割合100%を「NEXT VISION」の1つに掲げている。2021年11月期に達成したのち、2022年11月期末にはさらに対象113物件すべての切り替え手続きを終了し、今後取得する物件についても順次切り替えを進める。また、同REITの資産運用会社である平和不動産アセットマネジメントは、2021年12月に民間主導による気候関連財務情報の開示に関するタスクフォースであるTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に対する賛同を表明した。2022年7月には、気候変動のリスク・機会による事業へのインパクトについてTCFDシナリオ分析を実施し、定性的な影響を開示している。環境認証では(株)日本政策投資銀行のDBJ Green Building認証、(一財)建築環境・省エネルギー機構のCASBEE認証、(一社)住宅性能評価・表示協会のBELS評価を取得している。一方、Social(社会)への取り組みとしては、災害救援・寄付型自動販売機の設置やペットボトルキャップの回収運動に取り組むほか、日本橋兜町・茅場町の清掃活動への参加、ダイバーシティの推進、従業員の健康支援、執務環境整備に取り組んでいる。Governance(管理体制)としては、運用資産の取得・売却の意思決定プロセスの明確化や、執行役員制度を導入している。これらのサステナビリティへの積極的な取り組みは、ESG投資(ESGに配慮している企業を重視・選別して行う投資)の世界的な拡大傾向に対応する活動と評価できる。
6. 総括
弊社では、同REITが特化する東京都区部をメインとする市場は投資機会が豊富にあることから、今後も同REITの潜在的な成長力は高いと評価する。東京都区部では、主なテナント層である中小規模の事業所数が集中し、オフィスビルに対して引き続き豊富な需要がある。また、東京都はコロナ禍に伴うテレワーク普及などにより2021年に25年ぶりに人口減少に転じたが、コロナ禍が収束すれば再び人口増加傾向となることが予想され、居住用マンションについても堅調な需要が見込まれる。
このほかにも、強力なスポンサー・サポートの活用によって、着実な成長戦略の推進が可能と弊社では見ている。具体的には、平和不動産の保有・開発物件、仲介物件、先行取得物件等の情報ソースを活用したり(外部成長サポート)、情報の共有化によって稼働率の向上を図ったり(内部成長サポート)、財務方針、資金調達等のかかる支援や指導を仰ぐ(財務サポート)といった同REITの強みの活用が挙げられる。
既述のとおり、コロナ禍による賃料への影響は軽微に留まっているものの、同REITでは不測の事態に備えて十分な内部留保やコミットメントラインの設定などの対策を講じている。その他の一般的なリスク要因としては、他のREITと同様、稼働率の低下、賃料の下落、金利の上昇等が考えられる。実際、東京都区内において2018年から巨大ビルが大量供給されており、稼働率の低下や賃料の下落が懸念されていた。ただ、同REITでは、オフィス稼働率は既に高水準に達しているものの、対象とする中規模以下のオフィスでは供給が限定的であり、今後も高稼働率の維持が可能と見ている。また、市場賃料の上昇が契約賃料の更改ペースを上回っていること(ポジティブギャップが拡大)から、オフィス賃料はさらに引き上げ可能と見られる。レジデンスにおいても、リニューアル工事の実施によって、物件競争力の強化と資産価値の維持向上を図っており、今後も高稼働率の維持と賃料水準の改善につながると見られる。当面は金利の高い借入の借り換えに伴い、金融コストはさらに低下する見通しだが、将来の金利上昇リスクに対しては、金利の固定化によりリスクヘッジを進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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4. 財務戦略
金利等費用としては、金利上昇による金利費用の増加を織り込み-26円/口を見込んでいる。財務戦略では、「財務基盤の強化」「LTVのコントロール」「資金調達手段の多様化」「金融コストの低減」を運用方針としている。「財務基盤の強化」としては、有利子負債の長期化、固定化及び満期の分散化を進めることで市場金利変動の影響を受けにくい財務基盤を構築することに加え、AA格の高い信用力を活用した調達コストの引き下げと長期安定投資家の拡大を目指す。なお、格上げに伴い日本銀行、地域金融機関など幅広い投資家層への訴求力の向上、投資口の流動性改善、投資口価格への好影響が期待される。「LTVコントロール」としては、金融環境に左右されない安定した物件取得、ポートフォリオと収益の持続的な拡大を図る。「資金調達手段の多様化」を図り、公募増資によるエクイティ調達、幅広い業態からなるレンダーフォーメーション、投資法人債等、様々な性格の資金へのアクセスを構築する。また、現在の低金利環境が将来にわたって寄与するよう、「金融コストの低減」を図る。
同REITでは健全な財務体質を維持するため、安定した償還構造と十分な手元流動性を推進している。2022年11月期以降は金利の高い借入金の満期が到来し、リファイナンス及び新規借り入れによって借入金利の減少を見込んでいる。また、安定した借入金の償還スケジュール(平均69.3億円/期)を構築しており、十分なコミットメントラインと手元現金(合計137億円)で不測の事態に備えている。さらに、借入余力を図る基準としている鑑定LTVは、38.37%の低水準を維持している。鑑定LTVを45%までとした場合、借入余力は312億円となり、同REITの資金調達力は安定していると判断できる。
また、2022年11月期末時点の有利子負債残高は99,557百万円であるが、金利の高い借入金の満期借り換えに伴い平均調達金利は0.724%と過去最低金利を更新しており、平均調達年数は7.18年に長期化している。加えて、不測の事態に備えて、2020年11月期より大手銀行からの融資枠のコミットメントラインを、従来の60億円から70億円に拡大している。2022年11月期はレンダー数が18社(前期比1社増)に増加したほか、資金調達手段の拡充のため、投資法人債を発行した。レンダーはAA格への引き上げを高く評価しているようだ。2022年12月には、同REIT初のグリーンボンド(調達資金を環境改善効果のある事業にのみ使うことを目的とする投資法人債)を20億円発行するなど、調達手段の拡充が進展した。将来の金利上昇リスクに対しては、長期借入金比率は99.8%と高く、固定化比率は74.7%に達している。このように健全な財務体質を維持することで、同REITの成長を下支えすることが期待される。
5. サステナビリティ
サステナビリティについては、従来よりESGウェブサイトの拡充やESGレポートの作成などに取り組んでいる。2022年実施のGRESB評価では、6年連続で「Green Star」を取得し、リアルエステイト評価において同REITとして初の3スターを取得した。また、ESG情報開示の充実度を測るGRESB開示評価においても、最高位となる「A」を取得した。海外投資家は3スター以上を投資対象にする場合が多いことから、重要なステップと言えよう。
Environment(環境)への取り組みとしては、再生可能エネルギー電力の導入割合100%を「NEXT VISION」の1つに掲げている。2021年11月期に達成したのち、2022年11月期末にはさらに対象113物件すべての切り替え手続きを終了し、今後取得する物件についても順次切り替えを進める。また、同REITの資産運用会社である平和不動産アセットマネジメントは、2021年12月に民間主導による気候関連財務情報の開示に関するタスクフォースであるTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に対する賛同を表明した。2022年7月には、気候変動のリスク・機会による事業へのインパクトについてTCFDシナリオ分析を実施し、定性的な影響を開示している。環境認証では(株)日本政策投資銀行のDBJ Green Building認証、(一財)建築環境・省エネルギー機構のCASBEE認証、(一社)住宅性能評価・表示協会のBELS評価を取得している。一方、Social(社会)への取り組みとしては、災害救援・寄付型自動販売機の設置やペットボトルキャップの回収運動に取り組むほか、日本橋兜町・茅場町の清掃活動への参加、ダイバーシティの推進、従業員の健康支援、執務環境整備に取り組んでいる。Governance(管理体制)としては、運用資産の取得・売却の意思決定プロセスの明確化や、執行役員制度を導入している。これらのサステナビリティへの積極的な取り組みは、ESG投資(ESGに配慮している企業を重視・選別して行う投資)の世界的な拡大傾向に対応する活動と評価できる。
6. 総括
弊社では、同REITが特化する東京都区部をメインとする市場は投資機会が豊富にあることから、今後も同REITの潜在的な成長力は高いと評価する。東京都区部では、主なテナント層である中小規模の事業所数が集中し、オフィスビルに対して引き続き豊富な需要がある。また、東京都はコロナ禍に伴うテレワーク普及などにより2021年に25年ぶりに人口減少に転じたが、コロナ禍が収束すれば再び人口増加傾向となることが予想され、居住用マンションについても堅調な需要が見込まれる。
このほかにも、強力なスポンサー・サポートの活用によって、着実な成長戦略の推進が可能と弊社では見ている。具体的には、平和不動産の保有・開発物件、仲介物件、先行取得物件等の情報ソースを活用したり(外部成長サポート)、情報の共有化によって稼働率の向上を図ったり(内部成長サポート)、財務方針、資金調達等のかかる支援や指導を仰ぐ(財務サポート)といった同REITの強みの活用が挙げられる。
既述のとおり、コロナ禍による賃料への影響は軽微に留まっているものの、同REITでは不測の事態に備えて十分な内部留保やコミットメントラインの設定などの対策を講じている。その他の一般的なリスク要因としては、他のREITと同様、稼働率の低下、賃料の下落、金利の上昇等が考えられる。実際、東京都区内において2018年から巨大ビルが大量供給されており、稼働率の低下や賃料の下落が懸念されていた。ただ、同REITでは、オフィス稼働率は既に高水準に達しているものの、対象とする中規模以下のオフィスでは供給が限定的であり、今後も高稼働率の維持が可能と見ている。また、市場賃料の上昇が契約賃料の更改ペースを上回っていること(ポジティブギャップが拡大)から、オフィス賃料はさらに引き上げ可能と見られる。レジデンスにおいても、リニューアル工事の実施によって、物件競争力の強化と資産価値の維持向上を図っており、今後も高稼働率の維持と賃料水準の改善につながると見られる。当面は金利の高い借入の借り換えに伴い、金融コストはさらに低下する見通しだが、将来の金利上昇リスクに対しては、金利の固定化によりリスクヘッジを進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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