・昨年10月に「TCFDサミット2022」が東京で催された。GX(グリーントランスフォーメーション)の実現には、イノベーションとファイナンスが不可欠である。トランジション(移行)を進めることは容易ではない。
・気候変動のリスクに対応するだけでなく、それを機会ととらえて、イノベーションによって成長を目指す。この機会に着目しようというのが大きなテーマであった。
・TCFDには、世界95カ国で3400社の企業が賛同を表明している。日本は1063社が賛同しており、世界の3割を占める。TCFDはグリーンファイナンスの基礎となりつつある。これまでの自主的な対応がISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による活動に統合されて、義務化に向けた基準作りも活発である。
・金融における投資判断において、気候変動を考慮することは当たり前になろう。しかし、その方策と活かし方になると、これから考えるべきことも多い。
・とりわけ、トランジションへのロードマップを作り、それを具体化するにはハードルが高い。資本が必要であり、それを引き付ける魅力も求められる。
・日本では、コーポレートガバナンス・コードの改定で、プライム上場企業にはTCFDが事実上の義務化となった。開示の質の向上はこれからである。TCFD3.0のガイダンスが公表されている。業種別の対応、スコープ3への対応は荷が重い。
・TCFDへの対応は、企業にとってフラストレーションかインスピレーションか。ISSBのエマニュエル・ファーベル議長は問うた。双方の整合性はまだ十分でない。
・企業価値の創造にいかに結び付けるか。本当にサステナビリティを確保できるのか。社会的インパクトを考慮したマテリアリティについても、統合を図っていく必要がある。
・TCFDのフレームワークは、気候変動以外にも活用できるので、ISSBの基準作りに当たってベースとなるし、すべてのESGトピックスにも応用できる、とファーベル議長は語る。
・ISSBが1つの基準になっていく時、トランジションは推進されるのか。ファイナンスは機能するのか、トランジションが進むにつれて、これまでの資産が負の遺産として残ってくる。この座礁資産を吸収していけるのか。こうしたパスの克服が問われている。
・ISSBについては、かつてのIASBの時よりもハードルが高いかもしれない。先進国から適用を図るとしても、途上国はどこまで入るのか。先進的な大企業がリード役になるとしても、エネルギー関連企業、鉄鋼、化学などの製造業など、業種によって必要なイノベーションが異なる。
・中堅中小企業は同じように対応するのか。ISSBの基準は一律なのか、基準適用のフレキシビリティはあるか。それによって、公正さや比較可能性は担保されるのか。これから大いなる議論を呼ぼう。
・GPIFのような超長期の投資家にとって、気候変動のリスクは早晩インパクトが大きくなってくる。ネガティブなインパクトは消せないし、必ず顕在化してくる。
・実際、ウクライナ紛争によって、気候変動への対応も、エネルギー政策で揺り戻しが出ている。それでも、あるべき目標は揺らいでいないと、GPIFの宮園理事長は強調する。
・企業は今、「新たな仕組み創り」が問われている、とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のCEO P.バッカー氏は指摘する。自社のパーパス(存在意義)を再考する必要がある。社会に外部不経済をもたらしながら、自らの利益を上げていないか。
・ここを①気候、②生物多様性、③不平等、という3つの観点から見直し、開示していく。TCFD、TNFD、そしてTSFD(社会関連財務情報開示タスクフォース)への広がりである。
・その新システム作りには、トランスフォーメーションへのイネーブラー(可能にする人材と組織)が必要である。価値追求の規範を作り、ルールに基づいて政策を推進し、情報を的確に流して、新しい技術を盛り込んでいく。
・新しい資本主義とは、価値創造のスコープ(範囲)を広げて、社会的課題を解決して、しかもしっかり利益を上げていく企業行動を賞賛するエコシステムを作り上げていくことである。企業も革新的なビジネスモデルを創造しないと生き残れない。リスクをチャンスに変えるイノベーションを中長期的に評価していきたい。
・このチャンスを機会としてしっかり特定してくれないと、投資家は評価できない。スコープ3には限界があるのか。責務(オブリゲーション)を背負っても、貢献(コントリビューション)は評価されないのか。企業と投資家のエンゲージメントは、その中身が問われている。
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