S&P500月例レポート(22年2月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2022年1月
個人的見解:乱高下の結果、下落の半分を取り戻す
「1月の相場がその年の相場を占う」という相場格言があり、S&P500指数に関しては70.97%の確率で実現していますが、直近2年は当てはまらず、過去10年間に限ると実現確率は50%となっています。今年の1月を見ると、S&P500指数は5.26%下落しました。一時は11.40%安まで落ち込み、1月として過去最悪となった2009年の9.87%安を上回る下落率となりましたが(2009年は最終的に23.45%上昇で終わりました)、月末までに下落分の半分以上を取り戻しました。ボラティリティに関しては、日次の高値と安値の差の平均は2.06%となり(月内の最高は1月24日の4.61%、2021年通年の平均は0.97%)、20営業日中7営業日で1%以上下落し、2営業日で1%以上上昇しました。
ボラティリティが再び猛威を振るい、債券自警団(当局の財政・金融政策によりインフレ懸念が生じると、投資家が債券を売ることで利回りを押し上げて警告を発すること)も姿は現したものの市場で優位に立つことはできず、日中の変動(1日の平均変動率は2.06%、2021年1月の平均は0.78%)がデイトレーダーを生み出しましたが、オプション戦略に高いプレミアムを支払ったデイトレーダーは「大敗」しました(ゲームを楽しむにはお金が必要ということです)。随所で取引のバランスが大きく崩れましたが、各企業からのガイダンスと無関係のものはほとんどありませんでした。また、資金の再配分やグロースからバリューへのシフトが進み、一部の銘柄では利益確定の動きが見られ(市場はまだ織り込んでいませんでした)、売りが買いを上回りました。こうした市場の動きは下落が一時的であることを示唆していますが、あえて「一時的」と表現する人はいませんでした。
1月のS&P500指数は、調整局面入りとされる水準(直近の高値から10%下落)を営業時間中に下回りました。具体的には24日に月中に付けた終値での最高値から一時11.97%安(月初からは11.40%安)まで下落しましたが、終値では調整局面の水準の手前で何とか踏みとどまりました(強気/弱気相場に入ったかどうかなどは終値で判断されます)。最大の問題はインフレ懸念であり、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、個人消費支出(PCE)といった各種指標は2022年のインフレ高進を示唆していますが、年末(選挙後との見方もあります)にはやや緩和すると期待されています。
インフレ懸念の高まりは、金利感応度(上昇または低下のいずれにしても)の高い銘柄を中心に市場の動きに表れているほか、消費の手控えが起きれば経済全体に影響が及ぶ恐れがあります。米連邦準備制度理事会(FRB)がバランスシートには手を付けずに利上げ(予想は5回、1回に0.50%という見方もあります)を行う意向であると見る向きもありますが(多くの人が、言葉にはしませんが同じように考えていると思われます)、懸念されるのはイールドカーブの逆転と、それに伴うリセッション入りです(リセッションという言葉は一部で避けられています)。遅かれ早かれ、景気はいつか後退するでしょうが、目下の懸念は、それがハードランディングになるかどうかです。ソフトランディングを予想しているのは少数派ですが、ハードランディングになるには消費者が消費し続け、企業がコストを転嫁し続けることができる(コストについては、供給側の問題がいつまで続くかにかかっています)ことが条件です。
2022年の残りの期間に関しては、まずは2月の決算発表での各社のガイダンスが全体的な見通しを左右するとみられ、第1週に発表されるADP全米雇用統計と米国雇用統計が方向性を決めるとみられます。新型コロナウイルスの感染状況が2月半ばに(予想通りに)落ち着けば、安値狙いの投資家によって成長株が一部で買い直されるはずですが、感染力の高い新型の変異株「オミクロンBA.2」の感染が拡大した場合には売り圧力が強まり、配当株が有利となる可能性があります。全体的には、予想される景気後退の時期と程度についてコンセンサスが得られていないこともあり、ボラティリティが再び高まるでしょう(コンセンサスが常に正しいとは限りませんが)。
過去の実績を見ると、1月は62.3%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.20%、下落した月の平均下落率は3.77%、全体の平均騰落率は1.20%の上昇となっています。2022年1月のS&P500指数は、調整局面に入りましたがそこで終わらず5.26%の下落となりました。
⇒「1月の相場がその年の相場を占う」という相場格言は、これまでS&P 500指数に関しては 70.97%の実現確率を誇っていました。しかし、過去2年間に関しては当てはまらず、過去10年間でみると実現確率は50%に低下しました。
2月は53.8%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.46%、全体の平均騰落率は0.05%の下落となっています。
今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2022年3月15日-16日、5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。
S&P500指数は1月に5.26%下落して4515.55で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス5.17%)。12月は4766.18で終え、4.36%の上昇(同プラス4.48%)となり、11月は4567.00で終え、0.83%の下落でした(同マイナス0.69%)。過去3ヵ月では1.95%下落(同マイナス1.61%)と、2020年10月のマイナス0.04%以来のマイナスでした。過去1年間では21.57%上昇(同プラス23.29%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは33.35%上昇(同プラス37.51%)して月を終えました。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は3.32%下落の3万5131.86ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス3.24%)。12月は3万6338.30ドルで終え、5.38%の上昇(同プラス5.53%)となり、11月は3万4483.72ドルで終え、3.73%の下落でした(同マイナス3.50%)。過去3ヵ月では1.92%下落(同マイナス1.47%)、過去1年間では17.17%上昇(同プラス19.36%)しました。
主なポイント
○新年は、取引初日に終値での最高値を更新する(4796.56)という華々しいスタートとなりました。S&P500指数が1年の最初の営業日に最高値を更新するのは8回目で、過去7回のうち5回は年間で上昇。前回は2020年1月2日、その前は2018年1月2日で、2年毎というのは良い感じです。
⇒S&P500指数は1月に終値での最高値を1回更新しました(12月は4回、11月は7回、10月は5回、9月は1回)。2021年の最高値更新は70回となり、1995年の77回に次ぐ過去2番目の記録となりました。また、2020年11月以降、終値での最高値を更新した日が毎月あったことになります(2020年10月はありませんでしたが、その前の9月と8月は最高値を更新)。
⇒1月の市場は、新型コロナウイルスの感染拡大が続き(ただし、2月は若干の収束が示唆されています)、インフレ(および個人消費への影響)に対する懸念が高まり、企業業績が(小幅ながら)予想を上回ったものの、ほとんどの企業で2022年のガイダンスが予想を下回ったことから、ボラティリティが急上昇しました。
⇒S&P500指数は1月に5.26%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス5.17%)。12月は4.36%上昇(同プラス4.48%)、11月は0.83%下落(同マイナス0.69%)でした。過去3ヵ月では1.95%下落(同マイナス1.61%)となり、3ヵ月間で下落したのは2020年10月の0.04%下落以来となりました。2021年は26.89%上昇(同プラス28.71%)でした。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは33.35%上昇し(同プラス37.51%)、その期間に終値ベースで90回、最高値を更新しました。
⇒バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は34.03%上昇(同プラス36.47%)しました(2021年1月20日のバイデン大統領就任後に69回、最高値を更新しています)。
⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では101.82%上昇しています(同プラス107.70%)。
⇒同指数は、2022年1月3日に付けた終値での最高値である4796.56から5.86%下落して月を終えました。
○2021年第3四半期の決算が全て出揃い、500銘柄中401銘柄(80.2%)で営業利益が予想を上回り、84銘柄で予想を下回り、15銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では499銘柄中377銘柄(75.6%)で予想を上回り、過去最高を更新しました。2021年第3四半期の1株当たり利益(EPS)は52.02ドルと、過去最高を記録した同年第2四半期の52.05ドルから0.06%の小幅減益、前年同期比では37.3%の増益となりました。
○2021年第4四半期についても、第1~第3四半期と同様に利益と売上高が予想を上回る傾向となり、決算発表を終えた171銘柄中137銘柄(80.1%)で営業利益が予想を上回り、31銘柄で予想を下回り、3銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では170銘柄中132銘柄(77.7%)で予想を上回りました。
⇒2021年第4四半期のEPSは、過去最高水準となった第3四半期の52.02ドルから0.4%増の52.25ドルと予想されています。
⇒2021年通年については過去最高益を更新する見通しで、前年比で66.5%の増益が見込まれ、2021年予想株価収益率(PER)は22.2倍となっています(2020年のEPSは前年比22.1%減)。
⇒2022年の利益は2021年予想からさらに9.0%増と、過去最高益の再度の更新が見込まれ、2022年予想PERは20.3倍となっています。
⇒2023年に関する初期の予想では、利益は前年比8.9%増が見込まれており、予想PERは18.7倍となっています。
⇒2021年第4四半期中に株式数の減少によってEPSが大幅に押し上げられた発表済みの銘柄の割合は14.7%に上昇しました(第3四半期は7.4%、2020年第4四半期は6.0%、2019年第4四半期は24.2%)。
⇒2021年第4四半期の営業利益率は12.61%となり、第3四半期の13.17%からは低下しましたが、依然として高水準を維持しています(1993年以降の平均は8.16%)。
○S&P500指数の配当利回り: 1936年12月から2021年12月までの平均四半期配当利回りは3.535%、2021年9月時点は3.541%でした。現時点の過去5年間の平均利回りは1.794%、2021年9月時点は1.833%、過去10年間の平均利回りは1.915%、2021年9月末時点は1.936%でした。また、現時点での12ヵ月間実績配当利回りは1.267%、2021年9月末時点は1.352%となっています。配当利回りは過去4四半期に支払われた現金配当と最終四半期末時点の株価に基づいて算出しています。
○政治面では、2兆ドル規模の大型歳出法案であるビルド・バック・ベター法案の話題が引き続き新聞紙面を賑わせています(とはいえ、掲載紙面は2面ですが)。同法案の成立に向けて、その内容を分割しようする協議が引き続き民主党内で続けられています。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは2021年12月末の1.51%から1.78%に上昇して月を終えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは2021年12月末の1.91%から2.11%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは2021年12月末の1ポンド=1.3479ドルから1.3442ドルに下落し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは2021年12月末の1ユーロ=1.1379ドルから1.1225ドルに下落しました(同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は2021年12月末の1ドル=115.08円から115.07円に上昇し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は2021年12月末の1ドル=6.3599元から6.3610元に下落しました(同6.3599元、同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○原油価格は2021年12月末の1バレル=75.40ドルから88.32ドルに上昇して月を終えました(同75.40ドル、同48.42ドル、同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリ ン価格(EIAによる全等級)は、2021年12月末の1ガロン=3.375ドルから3.464ドルに上昇して月末を迎えました(同3.375ドル、同2.330ドル、同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。
○金価格は2021年12月末の1トロイオンス=1829.80ドルから下落して1799.00ドルで月の取引を終えました(同1829.80ドル、同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は2021年12月末の17.22から24.83に上昇して月を終えました。月中の最高は38.94、最低は16.34でした(同17.22、同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。
⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。
⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
バイデン大統領と政府高官
○米連邦最高裁は従業員100人以上の企業に対して、従業員のワクチン接種か週1回のウイルス検査を義務付けることを求めたバイデン政権の措置に対して施行差し止めを命じる判断を下しました(6人の判事が差し止めを支持したのに対し、3人は反対しました)。一方で、メディケアとメディケイドに関わる施設で働く医療従事者に対しては義務化を認めました (支持5人に対して、反対は4人)。
○ロシアがウクライナへの侵攻の準備を進めているようにみられたことから、バイデン大統領は米国が制裁を発動する可能性があることを示唆し、ロシアに対して警告を発しました。現時点ではウクライナ情勢は米国の金融市場に影響を与えておらず、(すでに値上がりしている)原油先物市場への影響も限定的です。
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